
日本が平成時代に積み残した多くの問題。経済の停滞の中で取り残されてしまった就職氷河期世代、いわゆるロスジェネの問題もその一つだ。彼らと同世代のジャーナリスト、堀潤氏はNHKアナウンサーとして取材した時のことを振り返り、外国人対策とともに、日本人対策が「分断」を防ぐためにも急務だと主張する。
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報道番組で現場リポートをした10数年前、派遣切り、偽装請負、名ばかり管理職、そして年越し派遣村などを取材しました。対象は自分と同世代か、ほんの少し上の方々。安い労働市場に入っていかざるを得ず、社会保障も受けられず、"雇用の調整弁"という言われ方をして、まさに人として扱われなくなっている感じがしました。彼らの働き方、人事評価は、資材部門が"燃料がどれだけいるんだ"と勘定するようなもので、長期的な視野に立った、育成みたいなところとは程遠いところにいました。
あの時は正社員の一人として、僕も就職に失敗していたら同じ状況になっていはたずだ思い、たってもいられない気持ちでしたしかしある時、不用意に「一番の夢はなんですか?」と聞いてしまったんです。
「堀さんは?お給料があって、おそらく自分の来年、5年後、老後を考える余力もありますよね。僕はこれから家に帰って、布団の中で明日の仕事を探すんです。来年の今頃じゃないんです。明日を考えるしかないんです。堀さんは人事部に人として評価されているかもしれませんが、僕はトンカチと同じなんです」。そう返されました。そんな思いをさせ、自分の未来も語れないような産業構造を作ってしまった社会。政治は救済したでしょうか。
その後も景気はゆるやかに回復し、その恩恵に預かってベンチャーブームだ、勝ち組だ、ともてはやされる風潮。そして自己責任の時代という名の下に、こぼれ落ちていく人たちがいました。そういう失敗があったからこそ、正社員への切り替えを進めましょうという話も出てきて、少し良い方向に向かうかと思いきや、今度は外国人材の受け入れです。
こちらも現場で起きた問題に声を上げ始めていて、非人道的な問題も明らかになってきました。外国人との共生や、いかに定着してもらうかを議論しなければならない時なのに、"人を大切にしない国"とまで言われるようになってしまいました。
そして、取り残された日本人たちの不満が、今度は外国人たちに向けられるかもしれません。
それが起きたのがイギリスです。サッチャー政権下の規制緩和、合理化によって経済成長を目指す中で取り残された人々の不満がブレグジットの原動力になってしまいました。本来は排外主義ではない人たちが、そんな考え方になってしまうような政策を選んでしまったこと、そしてそのことに気がつかず、他人事で済ませようとしてしまった国民の冷たさ。
社会保障の充実、あるいは生活保護とは違う仕組みとして、ベーシックインカムの考え方もあります。そしてやっぱり生業を持ってもらうための職業訓練と、一人残らず救済する思いで対策することが大切だと思います。
■プロフィール
1977年生まれ。ジャーナリスト・キャスター。NPO法人「8bitNews」代表。立教大学卒業後の2001年、アナウンサーとしてNHK入局。岡山放送局、東京アナウンス室を経て2013 年4月、フリーに。現在、AbemaTV『AbemaPrime』(水曜レギュラー)などに出演中。








