先月、神奈川県川崎市で小学生ら20人が刃物で襲われ2人が死亡した事件、そして1日に東京都練馬区で元農林水産事務次官が長男を視察した事件。いずれの事件でも、メディアの報じ方に疑問の声が上がっている。
報道番組では、事故現場でリポーターがストップウォッチを用いて"10数秒"という容疑者の犯行スピードの速さを表現。あるいはコメンテーターやキャスターが「1人で死んでくれ」という趣旨の発言も飛び出した。また、容疑者の家宅捜索を伝える報道では「部屋からテレビやゲーム機」という見出しで伝えたことが非難を浴びた。
3日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演した精神科医の斎藤環氏は「まず最も欠けているのが、海外の乱射事件などでなされていることでもある、被害者の追悼と遺族への寄り添いだ。事件の背景の掘り下げも大事だが、初期段階としては被害者のサポート、心の問題についてのケアがなされて然るべきだと思う。そうした視点があれば、ストップウォッチのような、トラウマをえぐる報道はしないはずだ。検証するにしても、もう少しやりようがあるという気がする。被害者視点が欠けており、単純に事件を面白おかしく消費しているとしか言いようがない。そこは残念ところだ」と指摘。
「"たくさんの人を犠牲にするくらいなら、1人で死ねば良かったのでは"という主張は、一般人のネット上の意見ならいいとしても、少なくともメディアに関わる人にして欲しくない発言だった。テレビ・ゲームと関連付けるのも問題外で、要するに"現実と虚構の区別が付いていません"みたいなことを言いたかったと思うが、連続幼女殺人事件の時に部屋にカメラが入り込んでエロ雑誌やビデオが原因だ、とやった報道を変になぞっている感じがした。失笑ものと言っていいくらいだ」。
■対策をセットで示すべき
また、川崎市の会見以後、ひきこもりの当事者が犯罪予備軍のように見られかねない事態も生じている。
斎藤氏は「ひきこもり傾向だということは事実であろうことなので仕方がない部分もあるが、過度に犯罪に結びつけることはやはり違うと考える。川崎と練馬の間には福岡で子どもが母親を刺すという事件があったが、"連鎖"があったかどうかは検証しようがないし、ひきこもりという言葉が使われ始めて20年が経っているが、明らかにひきこもりの人が関わったという犯罪は数件しかない。つまり、100万人の当事者がいて数件しかないというのは、非常に犯罪率が低い集団としか言いようがない。相関関係がない問題を無理に結び付けようとするのではなく、抑制的に報道をして欲しい」と主張。
「ただ、私の統計では大体1割前後に家庭内暴力がみられるので、これに対する対策はちゃんとした方がいい。実際、高齢化して要介護になった親御さんと心中を図ったケースが過去にも数件あり、福岡のケースはこれに近いものを感じた。また、暴力に耐えかねて親が子どもを殺すというケースも過去に数件起こっている。高齢化に伴う8050問題が報道されていて、内閣府も"61万人いる"と発表したばかりだ。"通り魔はしないけど家庭内暴力はあり得る。その場合、どうやって暴力に対峙するか"ということへの対処法についての報道をしてもらうことが続発を防ぐ方法だと思う。また、ひきこもりの人を強引に外に出そうという業者も結構いて、そういう人たちが民放の番組などでも紹介されているが、これは非常に問題だ。高額な金額を請求しておいて、3か月かそこら預かって、変わらないとなるとほっぽり出すという業者も中にはいる。その辺の実態を見極めてから報道に使っていただきたい」。
自身も24歳から約2年半のひきこもりを経験、現在は当事者たちの声を発信するメディア『ひきポス』編集長を務める石崎森人氏「テレビで"犯人はひきこもり傾向に"といったテロップが常に出ていたりする。ひきこもりの息子がいる親がそれを見て不安に思うのはごく自然なこと。私の関係している家族会の所でも、相談の電話が鳴りやまないという。その意味で、何かしらの影響を親に与えているとは思う。"ひきこもりと人を殺すことは関係ありません"とはっきり断りを入れるということがとても大事なことなのではないかなと。あるいは終わりに、地域センターなど相談窓口の電話番号を載せるなど、悩んでいる人が次にどういったステップで行動したらいのかが分かるような報道があると良いと思う」と話した。
■「報道と"ショー"がごっちゃになっている」
ライターの速水健朗氏は「熊沢容疑者の"川崎の事件のことが頭にあった"という供述が出ると、そこから連鎖についての報道になっていく。あくまでもこの供述は全体の一部だろうし、動機の中に占める割合がどれくらいなのかもわからない。それなのに警察の情報を真に受けすぎている。ただ、僕もコメンテーターとして感じるのは、"他人事じゃない"というところで入っていくうちに、"これは社会全体の問題として引き受けなければいけない"という、ある種の"物語"を作らなければいけないような流れになってしまう。川崎の事件についていえば、学校も親もセキュリティに対策は十分にしていたと思う。そうなると今度は"ネットで人と人とのふれあいが減っているから、コミュニティを強くしていかなければいけない"という議論になってしまう。そうではなく、むしろ人々のふれあいだけでなく、テクノロジーの側面もあるはずだ」と話す。
幻冬舎の箕輪厚介氏は「現場の人が非倫理的なわけではないと思うが、"とにかくチャンネルを合わせてもらうために続報を出そう""この一次情報にどういう味付けをして、どういうふうにしたら数字を取れるか"という論理になり、報道と"ショー"がごっちゃになっている。だから正確に情報を出すことよりも、"普通に考えたらえげつないでしょ"ということをやり始めるのだと思う。僕もコメンテーターをやるのでよく分かるが、事件や問題をただ素材として持ってきてやいのやいの言う、別に何の意味もない、ただ素材を料理するだけのショーになっているような気がする」と指摘していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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