G20を直前に控えた24日、米ブルームバーグ通信が"事情に詳しい関係者3人の話"として、「トランプ大統領は日米安保条約について不公平だと考えていて、それを破棄する可能性についての考えを最近側近に漏らしていた」と報じた。しかし、米政権当局者らはそうした動きはとてもありそうにないとしているほか、菅官房長官も「報道にあるような話はまったくない。米国の大統領府からも米国政府の立場と相容れないものであると確認を受けている」とし、日米同盟は我が国の外交安全保障の基軸であることを強調した。
ただ、トランプ大統領は2016年の大統領選の過程でも「日米安全保障条約は不公平だ」と主張、日本側が駐留経費の負担額を大幅に増やさなければ、就任後に在日米軍を撤退させると示唆。さらにその費用を100%日本が負担させるべきだとする演説を行ったこともある。
米国政治に詳しい上智大学の前嶋和弘教授は「トランプ大統領の"オリジナル・ポジション"はやはりそこなんだということを、我々は忘れていたと思う。注意しなければいけないのは、本当はどこまでのことを言ったのか、ということだ。"事情に詳しい3人"というのは側近だったのもしれないし、友達の友達くらいの人なのかもしれない。それでも日本の世論はざわざわしているし、こうして私たちが議論していることも含めて、トランプ大統領の思い通りになっているところがあると思う。まさに"トランプ流交渉術"の一つだ。80年代には経済的にアメリカを上回っていた日本を、なぜお金を出してまで守っているのかと考えている支持者もいる。そうした支持層を固めるための大統領選対策という意味があるのだろう。記事が紹介している発言のうち、"最近"という言葉に着目すれば、G20や、参院選後に日本の安全保障を人質にして貿易交渉するということが頭にあるのかもしれない」と指摘する。
「もちろん沖縄などの方々にとっては大変なことだが、そもそも日米安全保障条約というのは、日本が土地を提供し、そこに米軍に来てもらい、一緒に東アジアの安定を保つというもので、少し分かりにくい構造になっている。分かっている人には当然の話だが、分かっていない人に対して、日米同盟が非対称なもので、日本は土地を貸して、米軍が行って、ということを説明するのは難しい。しかし、アメリカの国益や安全保障にとっても、絶対に重要なものだ。今回の話についても、アメリカ国内で聞けば"いやいや、そんなことないよ""一番信頼を置ける同盟国を、なぜ切るのか"という人がほとんどだろう。日本は駐留費を最も多く負担している国だし、"思いやり予算"についても75%くらいを負担している。これ以上出せば給料を出す、いわば米兵が傭兵になってしまうレベルだ。ただ、トランプ大統領はビジネスマンとして"獲れるものは獲っていく"という、これまでの大統領とはだいぶ違うスタンスだ。同盟国の見方も変っているので、"できるけれどやらないオプション"を選択するという、その"まさか"があるかもしれないということだ」。
もし本当に日米同盟が破棄された場合、どのようなことが想定されるのだろうか。
「米軍が退けば力の空白が生まれるので、中国が南西諸島に出ていったように、いくつかの国が日本に対し同じような見方をするようになるかもしれない。日本の防衛力を考えれば、防衛費は高くなっていくし、アメリカに余分にお金を払って無理やりきてもらうといった話になってしまう。そういうこと言わなくて済むよう、これまで安倍首相は動いてきた。アメリカは今月頭に"インド太平洋戦略"というのを打ち出したばかりだ。その中心には中国への対応がある。それは日本がいなければうまく動かない。それと全く逆のことを言うというのは衝撃ではあるが、色々な意味で準備をしておかないといけないということだと思う」。
スマートニュースメディア研究所の瀬尾傑氏は「世界の警察としてのアメリカの力はなくなってきているし、自国だけにしたいという潮流がずっと続いている。沖縄から撤退するという話は過去にもあったし、韓国から撤退したいという話も常にある。日米安保が直ちに無くなるとは思わないが、その時が来た時に慌てないよう、日頃から議論しておく必要はあると思う。中国と正面から向き合えるような軍事力を持つためには、今の何倍もの国防費が必要になるし、かといって中国と組むという選択肢も考えにくい。核保有もアメリカが容認するとは思えないし、現実的ではない。そうすると、日本と近い思想、政治体制を持った東南アジアの国と、アジアにおけるNATOのような集団安全保障体制を構築するような選択肢を考える必要がある。ただ、それも今の憲法解釈では無理なので、憲法改正のことも議論しなければいけない。かつての"原発安全神話"と同じで、絶対はない。人間は見たい現実しか見ない生き物だが、不都合な現実を見ないといけない。特に安全保障に関しては2枚目、3枚目のカードを考えておくことが重要だと思う」と訴えた。
リディラバ代表の安部敏樹氏は「トランプ大統領が出てきたことによって、日本が色々なことを考え直すきっかけになったのはいいことかなと思っている。実際のところ、軍事と経済は密接に関わっているし、やはり貿易交渉も最後のところでは軍事力でまとめるということも見えるようになったと思う。そのカードを持っていない日本は、ではどういう手を打つべきなのか、というのを考えておかないといけないと思う」とコメントしていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)










