
「世界中で数十億人の人々に力を与える簡素で世界的な金融インフラを作ることが使命だ」。Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOが実現を目指す仮想通貨「リブラ」に、世界の金融市場が戦々恐々としている。
リブラはVISAやMasterCardの他、UberやSpotifyなど急成長を遂げる世界的企業が参加する「リブラ協会」が運営する仮想通貨で、ドルや円などをリブラに交換、FacebookのMessengerを通じた個人送金・国際送金を始め、様々な決済や、将来的にはローンや投資の提供も検討されているという。
6月25日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、この「リブラ」の可能性と課題について、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏に話を聞いた。

まず、従来の電子マネーや仮想通貨との相違点について野口氏は「例えば中国ではすでにAlipay(アリペイ、支付宝)やWeChatPay(ウィーチャットペイ、微信支付)が10億人くらいの規模にまでなっているが、これらは従来の銀行システムの上に成り立っている電子マネーなので、独自の経済圏を作ることはできない。もちろんFacebookの抱える27億人にすぐに広がる訳ではないと思うが、潜在的にそのくらい規模の通貨圏を形成し得るネットワークがすでにできていて、利用できるということが重要だ。また、仮想通貨は技術的に優れているが、価格が大きく変動するために投機の対象になりやすく、ビットコインなどは2017年にバブルを起こしてしまった。そのため送金手数料も高くなり、本来の目的である送金や決済に使いにくくなってしまったのが非常に残念だった。これらの仮想通貨とリブラが違うのは、価格を安定化させようとしているところだ。送金に使いやすければ利用者が増えるし、インターネット上のマイクロペイメントに使われることが期待される。また、例えば国外に出稼ぎに出ている人が自国に稼ぎを送金する場合、今の仕組みでは非常に送金手数料が高い。そうした分野でリブラが非常に大きな役割を果たすことも考えられる」と説明する。
また、「リブラ協会」のパートナーとして様々な企業が参加していることについては、「これらのパートナー企業でしか使えないということではなく、どの国でも使える。それが重要だ。そもそも仮想通貨はブロックチェーンという仕組みによって運営されているので、リブラもスタート時はFacebookが一部管理するが、5年以内に自動的に運営できるようにしていくとしている。それが成功すれば、仮にFacebookが倒産したとしても運営され続ける」と説明した。

一方、リブラによって独自の通貨圏、経済圏を作られることについて、各国の議会や金融当局が危機感を露わにしている。アメリカ下院・金融サービス委員会のマキシン・ウォーターズ委員長は「開発計画を停止すること」を求める声明文を発表、フランスのブリュノ・ル・メール財務相は「リブラを通貨としてみなすべきではない」と主張。日本銀行の黒田東彦総裁も会見で「その動向については注意深く見ていきたい」と話している・
「まだはっきりしたことは分からないが、ドルやユーロに対して完全に1対1ではないが、大きな変動がないような仕組みにするだろうと考えられている。これはかなり難しいことではあるが、ドルに対して維持するということは、円に対しては変動するということになる。つまり弱い通貨の国では、その国の通貨を持つよりもリブラを持った方が有利になるので、中国で言えば安くなる危険のある人民元から流出する可能性があるということになる。そうなれば、その国では自由な金融政策ができなくなるし、日本もその例外ではあり得ない。いかに日本の銀行が頑張ったところで、人口はせいぜい1億数千万人しかいない。もちろんマネーロンダリングや脱税といった問題が考えられるし、あらゆる取引がここで行われるようになれば、国家が捕捉できなくなってしまったり、税金が取れなくなったりしてしまう。そういった、国の存在そのものに影響が及ぶことも原理的にはある。そこで中国が今後どのような態度を取るのか非常に注目されるが、取引所を規制することはできても、仮想通貨そのものはインターネットを禁止しない限り規制することができない」(野口氏)。

スマートニュースメディア研究所の瀬尾傑氏は「データを横流ししていたのではないかという、ケンブリッジ・アナリティカ問題でFacebookはアメリカ議会からこっぴどくやられた。その結果、マーク・ザッカーバーグは事実上、議会に降参して"規制してください。その規制の下でやります"というようなことを言った。そうして議会にすり寄ったふりをしながら、今度はこういう、政府とは別のような仕組みを作ると言い出す。こんなに規模が大きくなっているのに、"どベンチャー"なところがあって、面白い会社だなと思う」と話す。
エッセイストの小島慶子氏は「お金というのは国家が信用を保証していることがこれまでの当たり前の感覚だったので、いくリブラの信用が何によって裏付けられるのか、体感的になかなか安心できない」とコメント。

リディラバ代表の安部敏樹氏は「Facebookの27億という数字は、ある種の"住民台帳"みたいなものだ。軍事力を持っているわけではないし、ユーザーは簡単に離れることができるので、必ずしも国家と全く一緒ではないが、Facebookは部分的にかなり国家に近い機能を持っているとも言えると思う。アメリカではそんなFacebookの"個人情報をビジネスにする"という方針に対する反感が根強い。そんな中で透明性も担保できる決済の分野、通貨の分野に入っていくという判断をしたのは合理的だと思う。アメリカとしても、リブラがうまくいけば、米中関係における武器の一つにもなり得る。完全に抑えこむよりも、うまくやってもらえば自国にとって有利に働く可能性もある、アメリカならそういう考えをするのではないか」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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