もの別れに終わったハノイ会談からおよそ4か月、トランプ大統領の電撃的な行動に世界中が驚いた。
G20開催中から会談を示唆していたトランプ大統領のツイートに金委員長が応じる形で実現した会談。冒頭、「一部の人たちは大統領の親書を見ながら、小さな合意があったのではないかと言っているが、実際私はツイートを見て本当に驚いたし、正式にここで対面するという提案を、昨日の午後に初めて聞いた」と述べた金委員長に対し、トランプ大統領は「もし彼(金委員長)が現れなかったら、私はメディアにこき下ろされただろう」と応じ、会談は予告"2分間"を超え、50分間にわたって行われた。
しかし、本当にトランプ大統領のツイートがきっかけになったのだろうか。そして、そこにはどんな思惑があったのだろうか。
アメリカの政治・外交に詳しい上智大学の前嶋和弘教授は「現時点で真相は分からないが、通常はありえない、奇想天外な演出だ。"これを見ていたら会ってくれよ"というメッセージを出し、実際に会うのかどうかハラハラさせて、実現させた。まさにプロレスのビジネスにも入っていたトランプ大統領らしい演出の仕方だ。そこに私も含む世界中が注目してしまったことが良かったのかどうかは分からない」と苦笑する。
「ただ、アメリカの北朝鮮担当者であるビーガン特別代表が韓国に行っていたり、北朝鮮が嫌がっているボルトンさんをモンゴルに出していたりと、色々な伏線を張ってはいた。私自身は、この1週間前に親書を送ったあたりから準備していたのではと思っている。つまり、あの親書の内容こそ、"DMZで会おう"だったかもしれない。タイミング的にもベストで、大統領選を控え、年末か来年の頭ぐらいで大きな首脳会談をやらなければいけないことを考えると、ここしかなかったと思う。これで止まっていたものが動き出すだろうし、軍事境界線を乗り越えたことで朝鮮戦争は実質的に終わった。この映像は20年、30年、もっと使われる。トランプ大統領の思惑通りになったと思う。ただ、本当の変化は非核化が決まってから。これは先取りでやった"演出"だ」。
北朝鮮情勢に詳しい龍谷大学の李相哲教授も「ツイートから会談に応じたというのは嘘ではないが、準備なしではできないということが多い」との見方を示す。
「トランプ大統領が歩いていって、金正恩委員長を迎えにいく形になった。つまり、金正恩委員長が韓国側に渡って会談をする会談をするというところまで決まっていたはずだ。会談が行われた部屋にはアメリカ国旗と北朝鮮国旗もセットされていたし、誰が同席するかということまで決まっていた。少なくとも1週間前には決まっていたと思う。6月29日にトランプ大統領がTweetをしてから明らかになったことだが、24日に行われたアメリカ政治専門誌『The Hill』インタビューで、"DMZで金正恩と会うんだ"と明言していた。しかし、その場で"この部分は絶対出すな"とも言ったため、その部分は翌25日時点ではそっくりカットされていた。また、トランプ大統領が23日に送った親書について、翌24日付の労働新聞は"金委員長は親書を見ながら興味深い内容だと言った"と報じているし、29日には北朝鮮の崔善姫外務次官も同じことを言った。これも関連があることだと思う。ただ、北朝鮮外交は非常に読めない部分があり、アメリカ側を焦らすために答えをはっきりとは出さなかったと思う。だから北朝鮮が"会うと明確に意思表示をしたのは、おそらくツイートの後、事前に全ての準備を整えた上でのことだっただろう。ツイート後の29日午後にはビーガン代表が板門店で北朝鮮の代表と会っている」。
その上で李氏は「トランプ大統領としてはG20でアジアに来るタイミングを逃せばスケジュール的に難しいし、今のまでアメリカ大統領ができなかったことを自分がやるんだという思惑もあったと思う。金正恩委員長としては、制裁も解除されず、民心も動揺して威信の低下が進んでいる。対外的にも、非核化への懐疑論が広がっている。そういう中での会談は、2人にとって思惑がぴったりと一致した。オバマ大統領が軍事境界線に来たときは防弾チョッキを着て、防弾ガラスの中から望遠鏡で見たりするだけだった。今回はアメリカ側のSPが北朝鮮側に行っていたので、境界線を渡るということも想定していたようだ。軍事境界線を踏み越えるあの映像は、確かに歴史が動いた瞬間だが、全く感動がなかった。ケネディ大統領の演説やレーガン大統領がベルリンの壁を倒した時の演説は本当に感動するが、トランプ大統領のスピーチはテレビにどう映るかといったことを意識した、ショーのような感じで非常にショボい(笑)。旧ソ連とアメリカが引いた線を無視したということは、敵対関係を解消する第一歩と見てもいいし、事務者協議を始めることにも象徴的な意味はある。ただ、悪く言えば非核化はあまり関係ないというような、そんな意識がトランプ大統領からは透けて見えるような感じがする」と話した。
今回の出来事は、日本や韓国、中国にとってどのような受け止められ方をするのだろうか。
李氏は「習近平氏は北朝鮮訪問時に"一緒になってアメリカに対抗する"と確認し、安心していた。金正恩委員長も習近平氏の支持を得ているので、安心して出てきたのだと思う。だが、中国はおそらくこんなサプライズは想定していなかったと思うし、報道を見ると嬉しくはなさそうだ。また、韓国は今まで"長い平和の旅の運転手だ"とい言っていたが、いわば北朝鮮によって、"あなたは必要ない"と、その車から降ろされていた。来年4月に総選挙を控え、文大統領がやってきたことは間違いではないかという見方も出る中、韓国の与党にとってはプラスになる出来事だった。トランプ大統領は安倍総理にG20で耳打ちしたのではないかと思うが、"短距離ミサイルは問題にしない"という姿勢を示したことは、韓国から日本にしてみれば冗談ではない、ということだろう」とコメント。
前嶋氏も「韓国は仲介者として最初に何らかの形で知ったのではないか。日本の外務省は知らされていなかった可能性があるが、トランプ大統領と安倍総理と人間関係と官邸主導の外交が動いているので、そこで何かあったのかもしれない」と推測した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)










