橋下徹氏が百田尚樹氏との”靖国論争”を振り返る 猪瀬直樹氏「公とは何かを考え、妥協点を見出さないと」
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 靖国神社の参拝やいわゆるA級戦犯の合祀をめぐり、Twitter上で作家の百田尚樹氏と激しい論争を繰り広げた橋下徹氏。議論にはジャーナリストの有本香氏や国会議員の長島昭久氏・足立康史氏も加わる、大規模なものとなった。一連の論争について、橋下氏が4日放送のAbemaTV『NewsBAR橋下』で、作家の猪瀬直樹氏と議論した。

 橋下氏は「ここには百田さんがいないし、一方的になってもいけない。ただ、僕は百田さんの番組に行かなかったから、たぶん彼を呼んでも来ないとは思う。それにこのツイート以外にも、40回も50回もやりあってるから、全体としては違うところもあるんだけど」とした上で、議論を始めた。

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橋下:猪瀬さんは著作で近代日本を論じられて来られましたけど、靖国神社に行かれますか?

猪瀬:行きますよ。特段、"行くぞ"っていうような感じじゃなくて、桜の季節とか、ちょっとお参りもして、という。

橋下:こないだ僕も子どもを連れて行って、靖国神社と千鳥ヶ淵戦没者墓苑の違いだとか、その歴史について話もしたけれど、それは政治家じゃなくなった今だから自由にいけるということ。国会議員も集団で行ったりしているけれど、それは内閣に入っていないから行けるのであって、あれだけ靖国のことを言っていた稲田朋美さんでさえ、防衛大臣になったら海外出張を組んで行かなかった。日本のリーダーが靖国に参拝に行けない状況はちょっとおかしいと考えたのが、今回の論争のきっかけ。

これまで色んな人達が"行け行け"と言ってきたけれど、実際には行くことはできていない。。結局、最近では小泉さんが任期中に8月15日に行って、安倍さんが一回だけ行って以来、行っていないわけだから。だから行けるようにするためにはどんな環境づくりをするのがいいか考えよう、というのが僕の主張で、そのための解決策として分祀を提案した。中韓なんか気にせず行けばいいというのも一つの主張だけれど、首相に将来なるような国会議員に「首相になったら靖国参拝しますか?」って聞いたとして、誰もうんとは言わないと思う。それが政治の現実。でも、"そんなのあかん、そんなん行ったらいいやん"と言うのが百田さんの主張。そこの違い。

百田さんは分祀したところで中韓は文句を言ってくると言うけれど、政治というのは可能性の話。どっちが首相が参拝できるようになる可能性が高いかといえば、分祀をした場合の方だと思う。百田さんや産経新聞は中国の主張に乗っかるのは腹が立つと言うかもしれないが、日中国交正常化のとき、中国側は「二分論」として、戦争指導者と国民を分けた。あれだけ被害が出たんだから、当然そういうロジックが必要だった。そうでなければ、中国国民は「あの日本と、なんで平和条約を結ぶんだ」と怒っただろう。でも、中国側が「日本国民は別でしょ」と主張したんだから。こっちもそれに乗っかって、戦争指導者と兵士たちを分けて、靖国神社は兵士を祀ってる施設なんだとやればいいと思う。令和の時代になって、世代が変わって、それが実現できれば、陛下も首相も国民も、戦争で命を落とした人にきちっと手を合わせることができると思う。やっぱり国家の柱だから。

猪瀬:周恩来さんが「あの戦争は軍国主義者が起こしたもので、日本の人民が起こしたんじゃない」と言った。それに合わせた、普遍性のあるロジックがこちらにもあればいい。要は靖国神社が宗教法人で、東條さんたち勝手に入れちゃって、昭和天皇が行かなくなったというところから靖国の問題は始まっている。百田さんの「現状は朝日が火を付け、中韓がそれに乗り非難し、泥沼となりました。」という主張はそうだなとは思うけれど、その上で、じゃあどうするかという問題だから。「中韓の非難をかわすために、靖國の代わりに国立追悼施設などを作れば、諸外国から「信念も誇りもない国」と軽蔑されるでしょう。しかも中韓からの非難はやまない。最悪です!」というのは違うと思う。

橋下:後から作った法で裁いた東京裁判の判決は無効だ、という理屈もわかるが、ある意味でそれは終戦のための"政治"。裁判官の選び方も合議の仕方も、マッカーサーが介入してくることも含めて政治。

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猪瀬:アメリカなどが極東軍事裁判をやってA級戦犯7人を処刑したわけだけれど、問題はそれがなぜ12月23日だったかということ。7人が処刑されたのは昭和23年12月23日、つまり、当時は皇太子だった上皇さまの15歳の誕生日だ。将来にわたって思い起こさせるために、天皇になるだろう人の誕生日にぶつけてきたんだよ。上皇さまはそれを背負ってるからこそ慰霊の旅も続けてこられたけれど、国民はそういう歴史のことなんか忘れているし、百田さん的な、どちらかというと右翼的だと言われる一部の人たちが固まった言い方で主張し続けているだけになってしまった。あの戦争はなんだったのか、なぜあの戦争をしたかという意思決定のプロセス、国民全体があの戦争にどう関わったかみたいなことを普通の人が検証していないことが問題だ。

橋下:僕は"A級戦犯の分祀"と書いたけれど、その後、長島昭久衆議院議員からご意見をいただいて、"戦争指導者の分祀"と表現を変えた。日本に欠けていると思うのは、その戦争指導者の確定と、責任について自らの手できちっと検証するということ。僕らの前の世代の人たちにやっておいってもらいたかった。それこそ猪瀬さんの『昭和16年夏の敗戦』のように、負けるということが明らかにわかっていながら戦争に突入したわけだし、半藤一利さんの『なぜ必敗の戦争を始めたのか 陸軍エリート将校反省会議』という本を読むと、本当に軍がいい加減だったことがわかる。

猪瀬:軍隊だって見るから良くない。結局は日本の官僚機構の、縦割りで意思決定ができないことが問題だった。そしてその体制は現在もつながっていて、統一した意思決定とか戦略的な意思決定、大きなことを決められないのは今も同じ。それをもう一度見つめないといけないといけない。

橋下:"国のために"という大きな目標があったにせよ、それでおびただしい命が失われたわけで、百田さんや有本香さんが分祀は先人に対して敬意がないと言うが、やっぱり戦争指導者は本当にひどかったと思う。確かにA級戦犯というのは外国に言われたことだから問題があるかもしれないけど、祀り方は考えないと。他国は国立でやっている。でも靖国神社は神道として、一つの魂を分けることはできないと言う。

猪瀬:その通りで、国家としてどうするかは別なんだよ。日本の首相がアメリカに行くとアーリントン墓地にお参りするが、そういうことができるような決着、総括をしなかった。憲法9条の問題もそうだけれど、占領が終わって、時代の状況に応じて変化させずに、何もせずにずるずると来ちゃったから。でも逆に言うと、百田さんみたいな人たちがいっぱいいるからできないんだよ。"平行線"の論争が好きな人がいるんだよ。櫻井よしこさんとか、産経新聞みたいなところだよね。産経新聞がいけないわけじゃないんだけれど、固定の支持層がいるから。でも、同じ主張を繰り返していても発展はしないし、妥協点を見出してくとか、解決策を出さないと。

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橋下:僕も弁護士やテレビコメンテーターのときは言うだけで良かったんだけれど、行政の現場に立つ人は実行しないといけないから。

猪瀬:政策って解決策だから。それを作らず言い続けるだけなら楽なんだよ。

結局、国家のために死ぬということは、実は今もあるんだよ。だからそのための準備というか、心あり方みたいなものを押さえておかないと。公と私、という言葉で言えば、みんな私だけの世界を主張し合っていて、公ってものが無くなっているんだよね。本来、"みんなのために"という公の部分があるはずで、そのためには自分の命を捨てもやる、というあり方もあっていいわけ。今は国家という形はあるけれど、公の概念は官僚機構が代替してるい。でも、本来それがなくても公は実現されないといけない。そこがNPOであったり、僕が大阪都構想に対して提案した「公益庁」。税金を国税庁が集めて、財務省が予算を決めて配っているけれど、そこにクラウドファンディングとか、"第二の動脈"を作り、東京に対してもう一つの公として大阪に作ったら、と橋下さんに話をしたこともある。

橋下:国のために命を落とした人に対して、日本はあまりにも軽く扱いすぎだと思う。海外で亡くなられた方が棺で日本に戻ってきた時、首相は出迎えなかった。やっぱりそれは違うと思う。アメリカなんかだったら最敬礼で迎えるはず。

猪瀬:特攻隊が良い悪いという問題ではなく、公のため、ある程度はやんなきゃいけない時代だったということは確かで、現代のハリウッド映画でも、宇宙船なんかに突撃して死んでいくシーンが出てくる。日本では戦後、そういう公に対する自己犠牲はいけないものだとされちゃったから。でも、悪い形で実現しなければ、必要な考え方ではあると思う。公の意識がほとんどない、私しかない人たちが多いからこそ靖国だ!って言う百田さんたちの気持ちもわかる。ただ、公をどう捉えていくかという議論に基づいた上で靖国問題の話が出てくれば良いんだけれどね。(AbemaTV/『NewsBAR橋下』より)

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▶次回7/11(木)ゲストは作家の乙武洋匡氏

ゲスト:猪瀬直樹
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