7日、核開発の制限を盛り込んだ核合意を無視し、ウランの濃縮度を上限の3.67%を超え5%程度まで引き上げることを発表したイラン。先月、軍事オプションを10分前に止めたと明かしていたトランプ大統領は「どんな狙いか、あえて言わないが良くないことだ。連中は気をつけるべきだ」と警告している。緊張が高まる中、あえて核合意を破る選択肢を選んだことにはどのような意味があるのだろうか。
北海道大学公共政策大学院の鈴木一人教授(国際政治学)は「アメリカが核合意を離脱した去年5月8日から1年経って何も起こらなかった。そこで今年の5月8日に核合意を破る宣言をした。そして核合意の中に書かれている60日を待って何も起こらなかった。そこで、やや"キレ気味に"、そろそろ何かやり返さないとダメだ、しかし核合意をあまりにも強烈に破ると軍事衝突を引き起こしてしまう可能性がある。そこで濃縮度を上げ、"核合意は守らない。だがそのまま兵器開発にいくわけではない"という2つのメッセージを発したと考えられる。トランプ大統領が攻撃を中止したという話とタイミングがたまたま一致したが、イランとしては予定されたスケジュール通りに進んでいるという形だ」と話す。
「濃縮度を5%まで上げても変化はほとんどと言っていいほどないし、核兵器の開発にはすごく時間がかかる。しかし核合意の文言には少し違反する。いわば"軽犯罪レベル"の話だ。ここからさらに60日の猶予期間があるが、もしヨーロッパやアメリカが態度を変えないのであれば次の核合意違反をするということだと思う。民生利用の上限である20%に向けて増やしていくことも考えられる。ただ、それを超えると兵器級になってしまうので、"寸止め"を続ける形になると思う。かつては核開発を進めていたが、IAEA(国際原子力機関)の査察も入ったし、核兵器を開発できるような状況にはない。今回の核合意違反イコール核兵器の開発、と受け止めない方がいい」。
これまで核合意のもと、核開発を制限する代わりにヨーロッパと貿易が可能だったイラン。しかしアメリカの離脱によってヨーロッパとの取引ができなくなった。ただ、そのヨーロッパもイギリスやドイツ、フランスではそれぞれ立場が異なるという複雑な事情もある。
鈴木教授は「国際的に孤立はしているが、ヨーロッパは取引を求めているし、安倍首相も訪問した。国際社会の認識としては、どうすればイランが核兵器を持たないとエンゲージするか、というのは共通だと思う。アメリカの制裁は非常に強力で、イランと取引をしたヨーロッパの企業はアメリカ市場から締め出されてしまう。つまり、アメリカの市場を取るか、イランの市場を取るかという二者択一を迫られることになる。そうなれば、やはり重要なのはアメリカの市場。結果、イランは経済的に苦しくなり、さらに孤立を深めていく」と説明。
また、経済制裁によってイランの通貨価値の下落は止まらず、牛肉の価格は2年前の2倍近くまで上昇、食料品の買いだめを行う市民もいるというが、国内の状況については「過去の制裁と同等やそれ以上に厳しい状況で、相当効いているといえると思うが、ある種"制裁慣れ"のような部分があり、頑張ってあと1年ほどは耐えられるくらいの状況にあると思う」と推測。ただ、「人口の6割以上が30歳以下という若い国なので、79年に起きた革命を知らない人たちが人口の大半を占めているということになる。そんな中で、外国のテレビは見られない、TwitterやFacebookにアクセスできないといった情報統制、女性はヒジャーブを被らなければならないといった風紀の統制がある。宗教的には一体化しているとも言えるが、イスラムの教えを押し付けてくる体制への不満は非常に大きい。今ここで立ち上がればアメリカの思うつぼだともいえるが、それでも体制よりもアメリカの方が気に入らない」と説明した。
一方、アメリカ側の立場について、鈴木教授は次のように説明する。
「アメリカとイランの間には歴史的な対立がある1979年のイラン・イスラム革命時にはアメリカ大使館が占拠された事件があり、1983年にはアメリカ海兵隊の宿舎がテロで爆発し兵士200人以上が亡くなった。もともと非常にネガティブな印象が強くあるし、イスラエルとの関係から軍事的な脅威であるイランを徹底的にやっつけたいというのもある。また、同盟国のサウジアラビアも対立しているので、イランに圧力をかける合理性はある。そしてトランプ政権を支える"応援団"として、イランの反体制派というグループがある。トランプ大統領としても支持層へのアピールの目的もある。だから究極的には今のイランの体制が崩壊することが理想的だと考えているだろう。そのためにもイラン国内の運動によって体制が崩壊することが望ましいと考えていると思う。そうでなければ外部からら軍事的に崩壊させなればならないので、非常にアメリカにとっても負担が大きい。イラン側はかなり抑制的に振る舞っているし、トランプ大統領も10分前に武力行使を止めたと言っているので、両者が戦争まで行くことを望んでいるとは言い切れないし、正面衝突のような戦争はそう簡単には起こらない。ただ、ちょっとした衝突やアクシデントがきっかけとなり、段々エスカレートしていく可能性はある。アメリカとしてはイラク戦争の記憶も生々しいし、今もアフガニスタンで戦争を続けている。イランはイラクよりもはるかに大きな人口を抱えているので、もし正面衝突すれば長期化の恐れがある。その先の出口もなかなか描きにくいし、アメリカにとってのメリットは見出せない」。
「一方、核の問題に限って言えばイランを孤立させてはいけないという考えから、オバマ政権はイランと交渉して核合意を成立させたし、来年の大統領選挙の立候補者たちも核合意を復活させると言っている。その意味ではトランプ政権のアメリカと民主党政権のアメリカではイランに対する考え方がかなり違う。だからイラン側にはトランプ政権でなくなれば、また民主党・オバマ時代のような政権が戻ってくるかもしれないという淡い期待もあると思う。アメリカとしても、もうできることはほとんどやってきている。懸念されるのは、ヨーロッパの国々に対しイランとの関係を断ち切れとアメリカが言い出すこと。先日、アメリカがイギリスに要請して、ジブラルタルでイランのタンカーを拿捕させた。イランそのものに圧力をかける余地がなかなかないので、そういったイランとの関係を強く持つヨーロッパに圧力をかけ始めているように見える」と分析した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)












