「三菱重工は日本政府の後ろに隠れて韓国の要求を黙殺した」「韓国に進出してきた日本企業が、なぜ韓国の法律に従わないのか。理不尽だ」。
元徴用工らを巡る裁判の原告側が15日、三菱重工が韓国国内で持つ約8000万円相当の特許権や商標権について売却を申請し、現金化に着手することを明らかにした。
三菱重工の関係者は「特許や商標といっても差し押さえられたものは資産価値の低いものばかりで、お金にはならないと思う」としているが、
日本企業の賠償責任を認めた韓国最高裁の判決に基づいて着々と進む日本企業の資産の現金化は、日本製鉄(旧新日鉄住金)、不二越に続き、これで3件目になっている。
半導体材料の輸出規制を巡る措置をめぐって文在寅大統領は強気の姿勢を崩しておらず、日韓の溝は一層深まりつつある。河野太郎外務大臣は「万が一、日本企業に実害が及ぶようなことがあれば、必要な措置を講じなければならなくなると思うが、そうしたことにならないように韓国政府には対応を強く求めたいと思っている」とメディアに答えている。
■「原告側は日韓関係を悪化させたいとは思っていないのではないか」
経済評論家の上念司氏は「判決にあたって、韓国側は大法院(最高裁)長官など判事を北朝鮮の主体思想が大好きなウリ法研究会の人達に入れ替えた。判決の理屈も、こんな解釈をしたらアホだと思われるようなもの。全てがおかしいし、こんなことをやっていたら諸外国からは文明国として認められない。このままでは国際社会からどんどん孤立していくし、一体何のメリットがあるのか。そんなリスクを背負ってまでやることなのか。文大統領は韓国国民に謝らなければならない」と強い口調で批判する。
韓国の法律に詳しい、芝パーク総合法律事務所の高初輔弁護士は「日本では韓国大法院の判決が違和感を持って受け止められているし、一定のバイアスのかかっている判決だが、多数意見では日韓請求権協定は慰謝料請求権について対象となっていないという理論を作り、それによって被害者を救済しようというもの。文言の解釈として、そういう余地が全く無いわけではない。また、司法権の独立という側面から見て、日本的な感覚では政治化している部分はあると思うし、かなり左翼的な人もいる。確かに長官もウリ法研究会の出身だったとは思う。ただ、そもそも判決の理屈を見ないで人的な構成で決まったと言うのはおかしいし、最高裁判決の中でも少数意見があったように、"訴える権利はもうない"と考えている人もいるので、これから出てくる事案の全てが一つの方向へ進むのかは分からない。今回の判決に関しても、2012年の時点で最高裁が破棄・差し戻しをした、その路線に乗っかっている判決なので、長官が変わったから出た判決ではないと思う。」とした上で、次のように説明した。
「原告団の目的は、判決を元に損害賠償を回収し、徴用工関連の被害者を救済すること。ただ、自分たちがバンバン強制執行することで日韓関係が悪くなるのは避けたいという思いもあると思う。だから昨年10月30日に最高裁判決が出たにも関わらず、日本製鉄に対してようやく申請書を出したというところ。プレッシャーをかけることで、なんとか日韓両国政府に動いてもらいたいということだろうと思う。報道によれば三菱重工の商標権や特許権が差し押さえられているとされているが、今後の手続きとしては、原告側が売却命令の申請書を裁判所に提出、債務者(三菱重工側)と債権者(原告側)による審問を行うことになる。条文の上では債務者が海外にいる場合は審問の手続きをしなくても命令が出せることにはなっているが、日本製鉄の案件では大田(テジョン)の裁判所が審問書を日本に送達したと報じられている。やはり事案の重大性から見て、債務者の回答をきちんと見てから判断しようということだったと思うし、三菱重工に関しても同様の対応を取る可能性がある日本製鉄の審問書では送達から60日以内に回答することになっているので、三菱重工の場合も送達にまず2、3か月かかり、そこから回答してとなるとさらに2、3か月かかることになると思う。また、大法院(最高裁)の判決が出ている以上、三菱重工側が差し押さえや売却処分の申請に対して異議を申し立てることはおそらくできない」。
今後について高氏は「文大統領が日本に対して強硬な意見を言い続けるというのは、逆に言えば選択肢が狭まっているというか、追い詰められてきているからなのだろう。すでに文政権は"日韓の企業がお金を出し合って賠償をしよう"という提案をしているが、それに韓国政府も加わるような案を出して、日本側の動きを見るのでは」との見方を示した。
■「文大統領の声明は、一言で言えば精神論だった」
元駐韓大使で外交評論家の武藤正敏氏は「日本の最高裁も国民感情に一定の配慮はするが、政治的に大きな争点になりそうなもの、国際的に大きな問題になりそうなものについては賢く判断を避けるケースが多い。そこが韓国の場合、やはり極端だということが言えるし、判決についても、あえて作った無理な理屈だとしか思えない。朴槿恵前大統領も、この判決はおかしい、これ以上進むなということで裁判所とは話をしていたようだ。それを文大統領は個人請求権は消滅しないと記者会見で発言しているし、最高裁長官も地方裁判所から思想がかった人を引っ張ってきた。しかも前の最高裁長官は気に入らないからと逮捕した。あり得ないことだし、大統領の意向に沿った判決を出させるというのは、やはり司法制度に問題がある。企業にとってそれほど大きくはない金額だが、最高裁判決が出てしまった以上、韓国で一番大きな弁護士事務所を使っても何もできない。"これはそもそも解決済みだというのが韓国政府と日本政府の立場だったのを、文在寅大統領が持ち出してきた。こういうことは認められない"という姿勢を保つことが重要だと思う」とコメント。
その上で、「韓国の人たちが不買運動をするような反日グループに同調しているかどうかと言われれば、本心では迷惑だと思っている人が圧倒的に多いと思うが、そう発言できないところが韓国社会に残る、日本へのわだかまりなのだろう。ただ、外国人にとっては韓国に投資するメリットが感じられなくなってきている。そこは韓国の人たちにちゃんと理解してもらわないといけない。大統領が変われば日韓関係また立ち直ることはできるが、韓国経済はそう簡単には立ち直らない。だからこそ、韓国人自身が文大統領にもっと怒るべきだと思う」とした。
また、武藤氏は「確認しておきたいのは、半導体材料の輸出規制を巡る措置はあくまでも安全保障上の理由からやったことであって、徴用工に対する日本の報復というわけではない、ということ。もし報復するのであれば完全に輸出禁止にするだろうが、それをやらないのは、自由主義貿易を標榜する国としていかがなものだろうか、韓国といきなり敵対関係になるのはやはりまずい、という考えがあるからだ。そこに韓国側との認識のギャップがある」とも指摘する。
「文大統領は"北朝鮮と自分たちの関係を崩そうというものだ。我々が北朝鮮と取引している証拠はあるのか"と開き直っているが、状況証拠から見て、日本がいくら気分を害しても、金正恩委員長については一切気分を害さないように気遣っている。それから日本から輸出したもののうち156件が流れたのは中国であり、パキスタンであり、シリアであり、イランであり、ロシアで、これらの国は北朝鮮と仲良くしている。日本に対して色々言う前に、どの企業が関わっているのか、最終目的地はどこかなどをひとつひとつ調べ、それを日本に対してきちんと説明するのが始まりだろう。輸出規制措置について話す文大統領の顔は、今までになくかなり強張っている。日本に対し、国民を代表しているんだという"怒り"と、有効な対抗措置がないことへの"焦り"があると思う。彼が読み上げた文章も、一言で言えば精神論だった。今は不買運動などで国民世論を盛り上げいるが、これは"諸刃の剣"。これが"日本に対して何もできない、文大統領ではダメだ"という方向に傾く可能性も大いにある」。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)








