「竹島周辺の上空で韓・中・日・ロ4カ国の軍用機およそ30機が入り乱れる一触即発の状況が繰り広げられた」(朝鮮日報)。
23日、ロシア軍のTu-95爆撃機2機と中国軍のH-6爆撃機2機が日本の防空識別圏に侵入したとして、航空自衛隊が戦闘機を緊急発進(スクランブル)させた。続いて、ロシア軍のA-50早期警戒管制機が島根県の竹島周辺の領空を2度にわたり領空侵犯。日本固有の領土であるものの、自衛隊機による緊急発進は行なわれず、実効支配している韓国が戦闘機を緊急発進させた。韓国軍関係者によると、韓国軍機はロシア軍機に対し、およそ360発の警告射撃を行ったという。
日本政府はロシア、そして韓国に対し抗議。しかし竹島周辺での領空侵犯について「防空識別圏に入っていないため緊急発進しなかった」とした防衛省の判断に対しては、野党から疑問視の声もあがっている。
ロシア側は当初、「日本海と東シナ海で中国軍機と合同パトロールを実施はしたが、領空侵犯の事実はないとしていたが、韓国大統領府は23日、ソウルに駐在するロシアの武官を呼び出して抗議した際に「機器の誤作動で計画外の地域に侵入した」「意図したものではなかった」と説明を受けたことを明らかにした。さらに翌24日、ロシア側は「韓国の領空を侵犯しておらず、むしろ韓国の操縦士らが飛行進路を妨害した」と韓国政府に通告、竹島の領空侵犯問題について協議したいとの意向を示したとしている。
日本海で、一体なにが起きているのか。韓・中・日・ロ、それぞれの思惑を読み解く。
■元航空自衛隊パイロットが説明する、「スクランブル発進」の実情
まず、中ロの4機が日本の防空識別圏に侵入したことについて、元航空自衛隊空将で東洋学園大学客員教授の織田邦男氏は「まず、中国軍機が対馬海峡を通って韓国の防空識別圏に入ったところで、南下してきたロシア機とランデブー(空中会合)した。ランデブーのためにはレーダーの補助が必要なので、A-50早期警戒機が付いてきた。その後、日ロの爆撃機4機は対馬海峡を通って東シナ海に出た。このこと自体、初めてのことなので、我々はその意図をしっかり解明しなければいけない。航空自衛隊としては中国軍機が対馬海峡を飛ぶ際は必ずスクランブル発進しているので、今回も領空侵犯されないよう付いていったはずだ」と説明。
その上で、「ランデブーを終え、一緒に飛行する必要がなくなったA-50早期警戒機が南下、竹島上空に飛来した。これは意図的なものだと思う。ただ、現状では竹島は韓国が実行支配しているし、韓国の防空識別圏でもあるので、自衛隊としては小松基地か築城基地からスクランブル発進させたものの、竹島の南の空域で待機していたということだろう。普段から、戦闘機が相まみえ、ミサイルの射程に入らないよう、阿吽の呼吸でやっている。それ以上南に下りてきたら隠岐がやられてしまうので、そこで初めて対処するということだ。もともと1945年に決めた防空識別圏では竹島も入っていたが、後に外した。これを元に戻すことは非常に難しく、下手したら韓国と小競り合いになるかもしれない」との見方を示した。
また、韓国軍機がロシア軍機に対し360発の警告射撃を行ったことについては「警告射撃と報じられているが、正式には信号射撃だ。バルカン砲の場合、1分間に6000発が発射されるので、別におかしいことではない。領空主権を守るための措置として、まずは無線で警告、次に"我に従え"あるいは"退去しろ"という機体信号、それでも従わない場合は信号射撃を行うと、国際法で定められている。韓国軍機はその通りに実施したということで、同じことが日本の領空で行われれば、自衛隊も同じ行動をとる。私は何十回、何百回というスクランブル発進を経験した中で1回も撃ったことはないが、1987年に旧ソ連の爆撃機が沖縄で領空侵犯した際には、航空自衛隊機は信号射撃を実施している」と話した。
さらに織田氏は、ロシア側の姿勢が韓国経由で伝わっていることに注目、「ロシアが韓国に対して謝罪したということも、"竹島は俺のものだ"という韓国政府のアピールの可能性がある。そのまま信じてはいけない」と指摘。また、中ロの思惑について「朝鮮半島が緊迫してきた時、アメリカはグアムからB-52を飛ばし、これを航空自衛隊が援護しているような写真を公表することによって、こちらの意図を示す"戦略的コミュニケーション"を実施する今回も同様で、中ロはあえて領空侵犯をしてみせたということだろう。様々な意図が考えられるが、やはり"朝鮮半島をアメリカの自由にはさせないぞ"というところがあるのではないか」と指摘した。
■「竹島が中ロのものでもないのは明らか。その点では日韓は協調できる」
東京大学先端科学技術研究センター特任助教・小泉悠氏も「中ロが共同で爆撃機を飛ばすというのはかつてないことで、非常に気になる」と話す。
「もともとロシアは"中国は友好国だが、軍事的な関係性はあまり深めたくない"というトーンだった。それがクリミア危機以降、南シナ海に一緒に軍艦を入れたり、去年はヴォストーク2018という大演習に中国の人民解放軍を参加させたりするなど、軍事的接近を図ってきた。しかも今回の問題が起きる前日には、ロシア連邦政府が"中国との軍事協力協定を結ぶことに関するロシア国防省の提案を承認するので、交渉に入りなさい"という趣旨の布告を出している。つまり、政府として公式に中国と軍事関係を深めていくということを表明した翌日に一緒に飛行し、中ロ合同を懸念するアメリカに向けてアピールした。さらには竹島で初めて領空侵犯までした。竹島問題についても、これまでロシアは触りたくはないというのが基本的な立場だったが、ロシア包囲網の中でも、日本。北方領土問題があって、いわば人質を取っている日本を突けば、日韓の間の分断も大きくなりそうだし、西太平洋におけるアメリカの同盟も突き崩すということになってくるので、ロシアにとっても中国にとっても悪い話ではない。両国が同盟まで行くということは考えにくいが、それでも軍事協力を格上げすることによって、アメリカを脅す、日米間の結束を乱すという戦術が有効になるので、同様のことはこれからも起きるのではないか」。
こうした状況下で日本が取るべき方策について、小泉氏は次のように話す。
「ロシアは2機の爆撃機は領空侵犯していないと言っているし、それは日本も韓国も認めている。ただ、韓国にだけ謝罪をして、韓国領であるかのように扱っているというのは、"そういう話がロシア武官からあった"ということを青瓦台の高官が聞いた、という伝聞の伝聞なので、相当割り引いて考えた方が良い。ロシアの情報戦かもしれないし、韓国の情報戦かもしれない。しかし、ここで日本側が韓国に強く反発するというのは、見方を変えるとロシアのシナリオ通り、中国の思惑どおりになってしまうことでもある。私もいち日本人として、竹島が韓国に実効支配されていることは極めて不愉快だが、そこに中国・ロシアという別の勢力がちょっかいを出してきたことで、優先順位を付けて考えるようにしたほうが良い。つまり、竹島が中ロどちらのものでもないのは明らか。その点では、日韓は協調できると思う。今回のような場合の対処法や、あるいは日韓の危機回避メカニズムについて話をした方が建設的だ。本音では折り合えないと思うし、感情的なしこりも残ると思うが、それを飲み込んで付き合っていかなければ第三勢力に利用されるということを認識した方が良い」。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)







