テレビアニメ「機動戦士ガンダム」放送から40年。多数のシリーズ作品が放送、劇場版としても公開され、世代を越えてシリーズ作品が愛され続けている。その作品に寄り添い、世界観を広げるものとして歌われ続けたのがガンダムソングだ。今回の40周年を記念して、歌手・森口博子が、セルフカバーを含めた全11曲を収録したカバーアルバム「GUNDAM SONG COVERS」を8月7日にリリースする。「ファンのみんなで作ったアルバム」と語るが、森口自身もガンダムソングにその人生を大きく救われた一人だ。
1985年。当時17歳だった森口のデビュー曲は、ガンダムシリーズ2作目となった「機動戦士Zガンダム」の後期OP曲「水の星へ愛をこめて」。いきなりオリコンランキング上位に入るヒットとなった。ただ、そこからヒットが続かず、事務所からは「あの子を九州に返しなさいとリストラ宣告にあって…」と、芸能人生を終える窮地にいた。その後、バラエティ番組などにでも出演を重ねて、1991年に発表したのが劇場版アニメ「機動戦士ガンダムF91」の主題歌「ETERNAL WIND~ほほえみは光る風の中~」。これがオリコンランキングでベスト10入りの快挙。「いろんなオーディションを受けまくる中で、最後に手を差し伸べてくれたのがアニメの世界、ガンダムでした。(リストラ宣告後にも)歌手・森口博子を救っていただいた」。この2度目のヒットが契機となり、後の紅白歌合戦出場、全国ツアーへとつながっていった。
デビュー曲発表から約33年が経過した2018年に、森口の人生を救った2曲が、再び大きな脚光を浴びることになる、NHK BSプレミアムで放送された一大企画「発表!全ガンダム大投票」だ。ファンから作品、モビルスーツ(メカ)、キャラクター、ガンダムソングスという4項目で人気投票をする企画で、新旧のガンダムファンが熱狂した。この中で、全361曲あったガンダムソング部門で、なんと森口のデビュー曲「水の星へ愛をこめて」が1位に輝いた。さらに「ETERNAL WIND~ほほえみは光る風の中~」が3位に入った。「ベスト10には入りたいなとは思っていたんです。でも途中、ベスト10の半分まで発表された時に入ってなかったから『はずれちゃったのかなぁ』って。でもマネージャーから『森口さん、1位です!』って報告聞いた時には、一人でウルウルしちゃいました。30年以上経ってもブレる事のないファンの皆さんに、感謝の気持ちでいっぱいです!」と、刻(とき)を越えてファンに愛されたことに、涙した。
(C)創通・サンライズ
この投票企画によって、今回のカバーアルバム発売が一気に進み出す。「もともとカバーアルバムは出したいなと思っていたんです。ただ、今回のランキングに入ったことで、ディレクターさんも出しませんか、と言ってくれて。それしかない!と思いました」。それ以前にも、ファンから現在の歌声によるセルフカバーの要望などは多かったという。収録時は「珍しく緊張しました」と言い、「ジャズ・ヴァイオリニストの寺井尚子さんと同時レコーディングだったんですが、尚子さんの情熱的でドラマチックなヴァイオリンが圧巻だったので、そのエネルギーに包まれました」と、長年連れ添った楽曲の新たな魅力を引き出すこともできた。また、売野雅勇氏が手がけた哲学的な詩も、17歳の女の子のころより、いろいろな角度で感じることができるようにもなった。
今回のカバーアルバムにより、楽曲とはまた別の形で夢が1つかなった。なんと森口が、ジャケットイラストで、シリーズ作品を担当してきたデザイナー・ことぶきつかさ氏の描き下ろしでパイロット「ヒロコ・モリグチ」とでも呼べるような、ノーマルスーツ姿を披露している。背景には宇宙を舞うZガンダムも描かれている。「ことぶきつかささんに描いていただこうというのが決まった後、みんなでミーティングを重ねて。私が宇宙にいたい、Zガンダムとともにいたいと言ったら『スーツ、着るってありかな?』という話になりました」。ちなみに、搭乗する機体は「Zです!」ときっぱり。「私のテーマ曲は、Zガンダムが登場した時からなので。だからガンダムMk-IIではなくて、Zです。イラストを見た時には本当に鳥肌が立ちました」と笑った。
ファンが思いをつなぐように、カバー曲で先輩歌手の思いを引き継ぐようなものもあったという。ファンの間では「ファースト」と呼ばれる「機動戦士ガンダム」のテーマ曲の一つ「哀 戦士」だ。当時歌っていたのは、故・井上大輔さん。森口は「大人になってから、井上さんの歌を動画で見たことがあったんです。こんなに才能豊かでアグレッシブな方でこんなにかっこいいしびれる楽曲だったのかと、衝撃で釘付けになりました。お亡くなりになられてしまったのですが、『素敵な作品をありがとうございます!』ってお伝えしたかったですね」と思いを巡らせた。その気持ちを、今回のカバーで表現した。「井上さんが生放送で歌っていた時に、最後の『New Day』のフレーズを、下(の旋律)ではなく上で行っていたんですよ」。本来のメロディーラインではなく、高らかに歌い上げた様子が強く印象に残り、自身のレコーディングでも「私も上がりたい!この思いで熱くなっているので、下がれません!ってディレクターさんに言いました。押尾さんのスラップギターが心地良くて、突き抜けた同時レコーディングに!」と、押尾コータロー氏のギターとともに、女性ながら力強く歌い、天国の先輩へと贈ることにした。
初作から40年が経過してもなお“始まりの始まり”を描いた「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」が映画、テレビで公開され人気となっているガンダムシリーズ。ここでも森口は「宇宙の彼方で」を発表、今も作品に深く関わり続けている。2018年には、“4つの1位”も獲得した。現在もロングヒットになってる「鳥籠の少年」をリリースし、同曲は「レコチョクウィークリー1位」(ジャンル別)、「動画サイトGAYO!MVデイリーランキング1位」、レコチョク「3曲以上の楽曲が人気の歌手TOP10」で1位に。そして4つ目が、デビュー曲「水の星へ愛をこめて」の、「発表!全ガンダム大投票」1位だ。アニメ作品とテーマ曲がつながることのパワーを「無限大です!ガンダムは私の中でもファンの皆さんの中でも、絶対的なエナジーを放っていると思います」と語った。様々な刻を乗り越えてきたガンダムの歴史、ガンダムソングの歴史。今回のカバーアルバムは、それを愛したファンを森口の声を通して形にしたものだ。
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(画像提供:キングレコード)