8月21日、スペースFS汐留にて『ある船頭の話』の完成披露試写会が行われ、上映前の舞台挨拶に俳優の柄本明、川島鈴遥、村上虹郎、そして本作のメガホンをとったオダギリ ジョー監督が登壇した。
オダギリ監督は「普段は俳優として舞台挨拶に立つことが多いので、監督として立つことにすごく緊張しています。今日初めて一般の観客に観て頂く機会でもあるので、どういう反応があるのか不安ですが、いい部分だけを周りの方にお伝え頂ければと思います(笑)」と “監督”としてのプレッシャーを感じると緊張の挨拶。
映画のポスタービジュアルにあわせて、登壇者全員が赤と黒の衣装で登場。そのことに触れて柄本は「偶然ですか?」と会場の笑いを誘った。
船頭・トイチを演じたことについて柄本は、「撮影現場が過酷でしたね。監督の思い通りの場所だと思うのですが、朝から晩まで舟を漕いで大変でしたね。舟を漕ぐのは上手くなったのですが、川の流れが強く牽引してもらわないと進めないことがあった」と撮影を振り返った。
オダギリ組の撮影について川島は、「撮影がほとんどテスト撮影なしで進んでいたのですが、私には初めての経験でした」と回顧。柄本の印象について「柄本さんは後姿が印象的。背中から寂しさや孤独感を感じられて、やっぱりすごい方なんだなと思いました」と答え間髪入れず「ありがとうございます!」と柄本。会場の笑いを誘っていた。
また、柄本との共演について村上は、「現場では過酷すぎて、何かを喋った記憶があまりない」と現場の過酷さをあらためて語り、柄本は「しゃべんないよ、あっついんだもん!」とツッコミを入れた。
今回のキャスティングについてオダギリ監督は、「ちゃんと事務所を通したと思います」と冗談交じりに語った後、「自分の好きな方々に集まって頂きました」とこれまでの俳優としての経験からキャスティングしたことを語った。続けて、世界的なスタッフが集まったことについては「クリス(クリストファー・ドイル)は僕らが気付かないような日本の美しい風景をカメラに収めてくれた。先ほど川島さんが言っていたテスト撮影をしないというのは、クリスの考えなんです」と世界的撮影監督であるクリストファー・ドイルの撮影スタイルについて語った。衣装デザインを務めたワダエミについては「日本の宝のような方。色んな生地を持ってきて衣装を考えてくれて、この作品をすごく大切にしてくれた」と感謝の意を述べた。
第76回ヴェネチア国際映画祭のヴェニス・デイズ部門に正式出品が決定したことについてオダギリは「身が引き締まります。自分も俳優として何度も参加させていただいた映画祭でもありますし、イタリアの監督協会が選んでくれている部門というのがまず嬉しい。商業性やエンターテインメント性ではなく、作家性を重視する部門なので。俳優オダギリジョーというフィルターがない形で評価してもらえたことも本当に嬉しいです」と選出されたことへの喜びを語った。 続けて柄本は、「大変に光栄なことだと思っています。二度目の参加なのですが、この日本的な作品が海外の方にどのように伝わるのか楽しみ」と語った。
最後にオダギリ監督は「画づくりには徹底してこだわり、音の配置も細かくやっているので、劇場で観ないとこの映画の良さは伝わらないと思う。挑戦的なことをたくさんやっていて、今の日本映画を観なれている人には観づらい作品かもしれない。でもそこに挑戦したかったという思いがあり、さらにそれを面白がってくれるスタッフが集まった。色んなタイプの映画があるべきだと思いますので、この作品で何かを感じ取ってくれたら嬉しいです」と映画の見どころを語り、映画館での鑑賞をおすすめした。
ストーリー
橋の建設と川上から流れてきた少女が、静謐だった船頭の日々を変えていく──
近代産業化とともに橋の建設が進む山あいの村。川岸の小屋に住み船頭を続けるトイチは、村人たちが橋の完成を心待ちにする中、それでも黙々と渡し舟を漕ぐ日々を送っていた。そんな折、トイチの前に現れた一人の少女。何も語らず身寄りもない少女と一緒に暮らし始めたことで、トイチの人生は大きく狂い始める―。
(c)2019「ある船頭の話」製作委員会