消費税増税まで1か月を切る中、そもそも増税するのはなぜなのか、そして軽減税率やポイント還元など複雑すぎる増税対策について、理解はどこまで進んでいるのだろうか。5日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、経済学者と、現在もなお増税に反対の姿勢を示している野党議員に話を聞いた。
■小黒教授「軽減税率については反対だが、タイミングとしては今しかない」
まず、消費増税の意義について、元大蔵官僚で法政大学教授の小黒一正氏は「基本的には社会保障の安定財源として注目されている税なので、税率を上げなければ財源が確保できないことになる。これまでの恩恵としては、例えば教育の無償化の財源になったし、年金の国庫負担分の手当てになったという効果は出てきている。ただ、2018年5月に4省庁で社会保障の給付の見通しを出しているが、社会保障は121兆円、GDP比で21.5%ぐらいだ。これが2040年になると70兆円膨らみ、GDP比の24%ぐらいになる。消費税1%で2.8兆円と計算すると、2040年の段階ではあと5%ぐらい消費税率を引き上げないと厳しくなる」と話す。
「景気の失速によって短期的には税収が減る可能性はあるが、消費減税することで税収が上がるかと言われれば、長期的にはない。例えば2014年に税率を5%から8%に上げたが、税収の総額は確実に増えている。現在、消費税分の税収は全体の1%で2.8兆円くらいなので、もし消費税を0%にすれば国と地方合わせて28兆円くらいの税収が0になってしまう計算になる。他に法人税と所得税を引き上げるという議論もあるが、法人税はグローバル経済の中で各企業が競争する中、政権としてはむしろ引き下げてきたのが最近の動き。元に戻して税を上げるのかというと、それは難しい。実は昔、大蔵省は消費税のことを"第2法人税"と呼んでいた。なぜかと言えば、実際に税金を納めるのは事業者だからだ。法人税は売上や仕入れ、人件費などを除いたものに税率を掛けて納める。一方、消費税は売上から仕入れを除いて、そこを付加価値と見なして課税する。つまり課税ベースが違うだけで、ほとんど計算方法は似ている。それなのに、消費税は消費者が負担するものだ、というようなイメージを財政当局が与えてしまった問題はある」。
また、消費増税のタイミングについて小黒氏は「今のこのタイミング以外では難しい」と話す。「内閣府が発表しているデータでは、2012年11月が景気の底だった。安倍政権は発足以降、まさにそこからの景気拡大期と連動する形で維持されているが。普通、景気の調整プロセスは3年ぐらいでやってくる。今、"戦後最長"といわれる景気拡大が続いているが、そろそろ調整プロセスに入ってもおかしくない。ただ、来年はオリンピックがあるので、そこまでは持つだろうというのがエコノミストたちの中でのコンセンサスになっている。したがって、ここで増税しないと、しばらく上げることは難しくなるということだ。私は軽減税率については反対だが、この状況下で増税をやめることはオプションではないと思う」。
そんな中、野党5党派は5日、財務省の担当者らを招き、消費税に関する合同ヒアリングを開き、今が増税の時期として適切なのかまた、軽減税率への対応やポイント還元など準備がきちんとできているのか等を質した。
立憲民主党の中谷一馬衆議院議員は「もちろん社会保障費の年々上がっていく。ただ、このまま消費税を上げていく方式だけでやっていくと、どこかで取りきれなくなるような状況が出てくる。長期的な視点で考えれば、経済成長も含め構造的な問題をどうクリアしていくのか、少子化や第4次産業革命などに投資をしつつ、国民の皆さんから税金を納めていただける状態になるまでは国債を発行していくという案も私はあっていいのではと思う。私たちとしては、やはり景気や消費などの状況を鑑みた時に、今の時期に消費税を引き上げるのは国民生活・経済への影響が大きすぎると考えている。だから今は従来通り8%を維持していくべきだし、増税が実施されたとしても、後に減税をしていくべきだというのが従来通りの主張。これは有権者に向けたパフォーマンスということではないし、実際に消費税を上げて欲しくないという声が圧倒的に多いので、そこに真摯に答えていきたいということだ。例えば非正規労働者であれば平均年収が200万円いかない現状がある中で、そこからより税金を、というような仕組みになれば、生活はどんどん苦しくなる。分配をすることも大事だが、本当に消費税という形が正しいのかどうか、今一度、見直さなければならない」と話す。
■中谷議員「1億1000万人くらいがマイナンバーカードを持っていないのに…」
増税に伴う消費の負担軽減策として政府が打ち出していることの一つが軽減税率の導入だが、「店内で食べると10%、テイクアウトなら8%」など、そのルールは複雑で非常に分かりにくい。飲食業界だけを見ても、牛丼チェーンでは店内飲食とテイクアウトで税率を変える吉野家と、分かりやすく店内飲食とテイクアウトの値段を統一するすき家で対応が分かれているほか、幸楽苑やリンガーハットなど、値下げをすることで対応する企業もある。
この軽減税率8%と標準税率10%の線引きについて、小黒氏は「国税庁や財務省主税局の頭のいいプロたちが考えても、決して整合的にはならない」と苦笑する。
「例えば新幹線の車内でお土産を買う。家に持ち帰って食べる前提なら8%だが、席で食べる場合は本来10%だ。その境目は誰も判断できない。あるいはおせちの中身を包んでいるお皿みたいなものが2000円ぐらいであれば8%が適用されるが、金みたいなものでできている場合は10%が適用される。このようにグラデーションもバリエーションも多いので、もうわからない。テイクアウトか店内かを選べる食券機のある飲食店であればいいが、そうでなければ国税当局や税務署に聞かれた時に答えるのが難しいだろう」。
中谷氏も「アルコール度数が8%を超えると税率10%になるので、みりんは10%、みりん風調味料は8%だ。栄養ドリンクなら医薬部外品は10%、清涼飲料水は8%で、"トクホ"(特定保健用食品)は8%だ(笑)」と紛らわしい例を挙げ、「POSのシステムで改良できるところはいいが、そういったシステムが導入できていない中小の業者は相当困るだろう」と説明した。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「生活に必要なもの、要するに命を維持するのに必要な食料品については8%で、それ以外は10%ということだろうが、例えば富裕層が高いスーパーで100g1500円の牛肉を買っても8%だが、そうではない人が牛丼チェーンで350円の牛丼を食べると10%になる。これでは逆累進課税になっている」と指摘すると、小黒氏は「おっしゃる通りで、私の同僚の経済学者なども皆、軽減税率には反対している。今回、1兆円分を減税するが、これを本当に所得が低い人たちだけに集中投下すれば、5千億円ぐらいで済む計算になるので、その2倍配れるということだ。それぐらい無駄な政策だ」と批判した。
さらに佐々木氏が疑問を呈するのが、ポイント還元にまつわる問題だ。「消費増税で景気が落ち込むのを防ぐために政府が最大5%のポイント還元をするということだが、そんな財源があるのかと思うし、ポイント制度や軽減税率に手間がかかる膨大な手間とのバランスはどうなっているのか」。
小黒氏は「政府の試算では、消費税を2%上げると、大体5.7兆円の税収増になり、ここに軽減税率を入れると大体1.1兆円の減収になるとされている。今回ポイント還元で使う予算は今のところ3000億円弱ぐらいだが、実際にはGDPが2018年度で560兆円ぐらいあり、消費だけでも大体300兆円くらいあり、ポイント関係の対象事業者が大中小企業関係者で5%ぐらいだ。中小企業事業者は400万社くらいあり、ポイント還元で認証しているのがその10%くらいの43万社。仮に200兆円が中小企業関係だとしても、その10%で20兆円、その5%では1兆円くらいになるので、本当に財源は足りるのかという問題もある」と説明。
中谷氏は「そもそもキャッシュレスは中小企業にはものすごく導入のハードルが高い。クレジットカード会社に平均3.24%払わなければいけないし、小さい事業者だと7%、10%と取られていく。100円の物を売ってそれだけ取られてしまったら、利益が全然残らない。政府も補助的なことを少しやっているが、9か月の時限的なものだ。恒久的なキャッシュレスには全然繋がっていかないし、景気策としても甘い」と批判。
「政府が議論を始めているマイナンバーでのポイント還元案も、まったくいけていない。まだ86%、1億1000万人くらいがマイナンバーカードを持っていない。さらにマイキープラットフォームという政府が持っているプラットフォームを使おうとしているが、それも1万人ぐらいしか登録していないし、Macでは使えず、インターネットエクスプローラーでしか登録できない。そんなプラットフォームを活用する意味が全く分からない」。
小黒氏は「私の予想では、来年4月からのマイナンバーカードでポイント還元というのがカギだ。どれくらいの人がマイナンバーを持つか分からないが、もし国がポイント上乗せ最大25%にすれば、必ず"財源として大きすぎるのではないか"という議論が出てくると思う。そうすると、財源のどこを絞るか。教育の無償化もそうだったが、最終的には所得制限をかけた。恐らくそういう議論になってくる可能性がある。元々財務省はマイナンバーを使ってポイントを貯めて、所得が低い階層の人だけに集中的に軽減税率を適用するというようなプランを出していた。それと同じような仕組みになるかもしれない」との見方を示した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)