放送作家・鈴木おさむ氏が企画したAbemaTVの恋愛リアリティーショー『恋愛ドラマな恋がしたい2』(以下、『ドラ恋』)で大波乱を巻き起こし、番組を大いに盛り上げた俳優の七瀬公(25)に“令和ブレイク”の兆しあり。
テレビ東京系特撮ドラマ『ウルトラマンタイガ』で狂気を秘めた悪役を好演しながら、ABCテレビの深夜ドラマ『サウナーマン~汗か涙がわからない~』ではなぜか振られてばかりいる残念イケメンを演じてシュールな笑いを提供している。東宝芸能が行った初の男性オーディションで合格を勝ち取ってからそろそろ5年。節目の年を目前に、羽ばたく準備はできている。
転機はやはり『ドラ恋』出演。Instagramのフォロワーも500人弱から、一気に1万4千人に増えた。「渋谷や原宿を歩いていると、1日に2回くらい10代、20代の女性から『“ドラ恋”観ていました!』と声をかけられます。反響を感じるようになってからは、電車の座席に座る際も正しい姿勢を意識するようになったし、俳優の仕事をしているという自覚を持って外出するようになりました」と環境激変で心境も変化。
『ドラ恋』ではキスシーンにも初挑戦した。「カメラの前での、しかもチュー程度ではない激しいキス。恥ずかしさが大きくて自分にはできないと思った」というも「いざカメラが回ると、どれだけフェロモンをまき散らして色気のあるキスができるか、それだけに集中していました。相手と視聴者にときめいてもらえるか否かが『ドラ恋』での勝負の分かれ道。当時は男性ホルモンが溢れ出ていて、ヒゲの伸びるスピードも速かったはず(笑)」とジョーク交じりの思い出し笑い。その初キスシーンのテイストは「…イチゴ味」と乙女チックだ。
『ドラ恋』での経験が、レギュラー出演中の『ウルトラマンタイガ』での冷血な悪役・霧崎役で妖艶に活きた。「色気のある感じで女性に歩み寄る演技や、壁ドン寸前に顔を近づけるシーンなどを違和感なくできたのは『ドラ恋』のおかげです。『ウルトラマンタイガ』なのに、急に『ドラ恋』を彷彿とさせる場面が今後の放送であるかもしれません」と期待をあおる。
『ウルトラマンタイガ』のオーディションで霧崎役を勝ち取ったとき、何より嬉しかったのは女手一つで自分を育て上げてくれた母親が泣いて喜んでくれたこと。実家のある地域では『ウルトラマンタイガ』の放送をリアルタイムで観ることはできないが「放送直前に母親から『起きてる?そろそろ始まるよ』と連絡が来ます。東京の放送時間帯に母は番組を観ることができないのに、必ず起きてスタンバイしている」と深い想いに感謝。
母親は『ウルトラマンタイガ』関連の雑誌が出版されると「観賞用、保存用、人に貸す用として必ず3冊買う」そうで「嬉しいことだけれど、僕が頑張ってもっと売れたとしたら、掲載された雑誌を全部3冊ずつ買うのかと思うと…。ほどほどにしてほしいものです」と“親バカ”ぶりに嬉し恥ずかしの複雑な気持ちだ。
七瀬が俳優としてキラリとした光を放ったのは、2018年初頭公開の映画『ミッドナイト・バス』(竹下昌男監督)。原田泰造演じる主人公の息子役で、都会の喧騒に疲弊した青年像を繊細な演技で体現した。その実力が新時代・令和に突入し、やっと認められつつあるわけだ。
俳優・七瀬公の魅力は目にある。「芝居で大切にしているのは、目の表現。『ミッドナイト・バス』のコンプレックスを抱えている息子役では、前半では死んだように目を殺して、希望が仄めかされる後半では目に力が宿っていくよう工夫しました。今後出演する作品でも目に注目してほしいです」とアピールする。
物語をかき回すような脇役に魅力を感じている節もある。「最終的な目標は脇役なのに存在感があって、色々な作品で様々な顔と目を見せることができるバイプレイヤー。悪役リーダーの側近ながらも実は超黒幕という役柄や、最終的に実は主人公の味方で共闘して巨悪を倒すという役柄にも興味があります。…悪役ばかりじゃまずいかな?」と笑う。
悪役に惹かれるのは少年の心を忘れていないから。「趣味は漫画やアニメ、ゲーム。能力バトル系やデスゲーム系アニメが好き。今ハマっているのは『炎炎ノ消防隊』や『鬼滅の刃』。原作漫画も好きで、観ていてワクワクするし、俺も能力を使いたい!となる。絵も綺麗だし、原作漫画とアニメではまた違う面白さがあるのがいい。アニメの声優にも挑戦してみたいです」と好きなことになると立て板に水だ。
芸能生活も来年で5年目を迎える。「令和に入ってから出演作品が放送されて、僕を認知してくださる方々も増えた。ここからどれだけみなさんの目に留まるところに立てるのかが勝負。“令和ブレイク”を大事に、今の勢いを継続していけるようにしたい」。瞬発力だけではない、長距離ランナーを七瀬は目指している。
テキスト:石井隼人
写真:You Ishii