千葉県を中心に甚大な被害をもたらした台風15号。千葉県内のおよそ2000本の電柱が被害に遭ったことを受け、東京電力は「全面復旧に2週間以上を要する」との見通しを示した。一方、千葉県の惨状についての報道が少ないことに関する指摘も多数上がっており、千葉県出身の歌手・綾小路翔が10日に自身のツイッターで「冠水の状況はどうなったのだろうか 道路事情は? 熱中症などは大丈夫だろうか? 報道も全然されない為 何しろ情報が少ない」と投稿すれば、女優でタレントの菜々緒も11日に自身のツイッターで「テレビではまったく報道されず、孤立は酷くなるばかりです。もしこのメッセージを目にとめていただいたら、千葉県南部エリアの情報をSNSで拡散してください」と呟いたことで話題を呼んだ。
しかし、指摘されているようにメディアの「千葉台風被害」報道は足りなかったのか。実際にテレビ朝日で報道された台風被害の放送時間を調べてみると、台風が直撃した9日では170分、翌10日は124分、11日は69分、12日は89分に増え、13日は145分であった。ではなぜ、千葉県の台風被害の報道が足りないという声が噴出したのか。テレビ朝日アナウンサーの三谷紬アナウンサーが、一部電気が復旧しているものの、依然として大規模な停電が続く君津市郡地区を取材した。
車中泊を余儀なくされているある男性は「涼しい日は窓を開けるなどして家で過ごせるが、数日前は暑かったので車中で過ごしました。隣町の袖ケ浦では倒木が多く子供たちは学校に行けず、伐採して道を作って何とか切り抜けている」と話し、被害の大きさや苦しい状況について説明した。さらに「報道されなくて困っていること」については「携帯で見てもそこまで情報が流れていないという印象がある」と本音を漏らした。
また同じく停電に苦しむ中、近所で集まり情報共有に努める人々に話を聞くと「報道はほんの少し」といった不満が聞かれたのに加え、「いつ電気がつくのかを一番知りたい。隣は電気がついているのに、こっちはついていない。その境目は何なのかを知りたい」など、苛立ちも隠せない様子だった。
82歳女性が停電によるエアコン停止の影響を受け、脱水症状と肺塞栓症の疑いで命を落とした特養ホーム「夢の郷」の天笠寛理事長は「うちだけが電気が回復しなかった。これはあまりにも酷い。(経産省から)電源車という話があった。その時は『じゃあ、優先順位は高い方ですね』という答えだった。当然、高齢者の特別養護老人ホームなので早く直しに来てくれるんだろうと思っていたが、早く来ていただけないという状況だった」と無念さを滲ませた。そのうえで天笠氏は「もっと強く国や県なりに、もう少し早く言っていれば電源車が来たかなと思うと悔やまれる」と苦しい胸の内を明かした。その一方、利用者から「あなたのせいじゃない」と温かい励ましの声を掛けられたことも打ち明けた。
現地取材を終えた三谷アナは「被災した地域がバラバラと多くあり、それに対して報道が対応できなかったというのが、報道が少ないと言われている一因ではないか。また電気が無くテレビが見られない状況ではスマートフォンから情報を入手することになるが、スマートフォンの中の情報が少なかった。ネットで情報を得る現代において、スマホの情報伝達をどうすべきか考える出来事だった」と話すと、同じく現地取材を行ったジャーナリストの堀潤氏は「報道の初動の遅れはメディアで発信する側の一人として申し訳ないという思い。僕自身は『被害がまったく報道されていない。家に来て下さい』というメッセージを受けて現場に入ったのだが、実際に現場に入ると、行ってみないとわからないほどの被害の大きさだった。首都圏の被害と考えた時に、東京の感覚で千葉を見てしまっていた。地震や津波に襲われたかのような被災地で、東北や熊本のような光景が千葉にもあった」と現状を報告した。
東京大学大学院卒で元日経新聞記者の作家である鈴木涼美氏は「復旧前の被災地の取材は難しい。報道陣が行くことで復旧作業の手間を増やすこともあるし、報道陣が殺到することで渋滞を引き起こすこともあり批判の対象になりやすい」と話すと「本当に欲しい情報が得られない。取材が足りていないというのは、過剰取材が批判を受けるケースがある昨今においても、反省すべきだ」と元記者の観点から指摘した。
最後に堀潤氏はNHK時代の経験を踏まえ「全国ニュース配信のためのチームと、首都圏エリアを担当するローカルのチームとがある。どうしてもニュースを放送するときには全国向けのチームがメインストリームになって、『それは夕方のニュースのローカルでやっておけ』という言葉が飛び交ったりもする。東京が中心であるがゆえに、関東甲信越のニュースの優先順位が後ろに回されてしまう構造的な欠陥もあるだろう。また組閣の最中、そっちに集中させてしまったという心配もある」と話した。
15日(日)夜から16日(祝月)にかけて、前線を伴った熱帯低気圧が千葉県南部に接近・通過する見通しとなっており、大雨や突風による被害拡大が懸念されている。(AbemaTV『Abema的ニュースショーより』)
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