作品よりも泣ける?漫画家たちの”残酷物語”とアプリ時代の希望
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 "働き方改革"が叫ばれる時代にあって、1日19時間労働に3時間睡眠という人もいる職業、それが漫画家だ。街の人たちも「毎週毎週描いて大変な仕事なのではないか」「休みがないイメージ。プライベートがないのではないか」「売れないとお金が入ってこないので、生活はキツイのではないか」といったイメージを抱いているようだ。

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 漫画家歴36年のベテラン、のんた丸孝氏は、忙しかった時期のことについて「4時間は寝ていたかな。休みはもう半年ない。家出を考える。そして本当に家出した。2~3日で帰ってきたが。やっぱやらなくちゃな、という"刷り込み"があるので。クリスマスの前の締め切りに爆発した。肛門(痔)が。痛くて歩けない」と振り返る。通院すると"即手術"という重症だったが、薬を処方してもらい、執念で漫画を描ききったという。「座れもしない。立膝をついて漫画を描いた」。

■「寝られない人は売れるが、寝ている人は売れない」

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 漫画家のスケジュール例を見てみると、作業時間のほとんどを作画が占めており、睡眠不足や栄養不足、職業病で様々なものが慢性化してしまうという。

 漫画家歴23年のピョコタン氏は、ピョコタン氏は「編集者との相性もあるが、忙しい時はやはり"追い込み"があるので、ストレスがかなりくる。寝ている時でも安心して寝られない。夢の中でも漫画を描いているという経験もある」と話す一方、「このスケジュールの例は週刊で連載を持っているトップの方たちのもので、僕のように"底辺漫画家"を23年もやっていると、かなり寝ているし、ストレスフリーで生きさせていただいている。だからこそ漫画では上がれないという葛藤がある。寝られない人は売れるが、寝ている人は売れない。これは間違いない」と自嘲気味に話す。

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 小学館新人コミック大賞入選の漫画家歴4年のカトウタカヒロ氏は「僕もここまで過酷ではないが、10時くらいに起きて作業を始め、長い時は0時も回って午前4時くらいまで作業という経験はある。今はデジタルの環境でやっているので、効率は上がって多少は楽にはなっている。名前が知られている方の中には、iPadだけで全ての仕事を完結させる人もいる。お店などで飲んでいたりして、いきなり仕事を始めるみたいな人もいたりする。描き方も変わるし、それで活躍できたらめちゃめちゃコスパは良くなる」と明かした。

 それでも「僕が連載1本目だというのもあるが、ある意味で繰り返しなので疲れはある。しかし、大変といえば大変かもしれないが、なくなったらなくなったで、またリズムが変わると思う。座りっぱなしだと首をやってしまったりする人も結構いる。今の連載が終わっても、僕は新しい漫画の連載の企画のためにプロットを書いたり、ネームを描いたりして、それを編集部に通してもらうと思う。本当にがっつり休む人もいるが、僕はめちゃくちゃ不安で、その脅迫観念はかなり強い。新人の頃に戻ったつもりでやるしかない」。

■編集者とのトラブルも"あるある"?

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 ピョコタン氏が言及した編集者と関係性について、『週刊少年サンデー』編集部の現役副編集長の大嶋一範氏は「漫画の現場は究極的には作家さんといわばパートナーである編集者しかいないというところはある。そこで行き違いが起こってしまったり、性格の不一致があったりということはあり得る」と話す。

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 漫画家歴17年の横山了一氏は、実際にあった編集者とのやり取りを『さすがにねーわと思った打ち合わせベスト3という不穏なタイトルの漫画なんですけど(笑)』として作品にし、同業者からの大きな反響を得た。

 第3位は『ストーリーはあれをパクって、キャラはあれをパクりましょう』。「繰り出す企画が全て丸パクリ。その時はスラムダンクをパクれと言われて(笑)。"俺がスラムダンクか!"と思ったが、一応参考にしながら書いてネームを出したら企画は落ちた。時間の無駄。作家の尊厳のようなものは全く気にしていないですよね」。第2位は『えーと、だから、ここを直せばいいのかな…うーん、どうしよう?どう思います??』。「アドバイスが迷っていてブレッブレな方。これも結構いる。ズバっと直せる編集さんはそんなにいない。間違っていてもいいので堂々としてほしい」。そして第1位は『そもそも打ち合わせに来ない』。「約束したのになぜ来ないのか。こっちも時間を作っているので約束は守ってほしいなと思う」。

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 ちなみに、妻の加藤マユミ氏も漫画家で、「"この漫画はどうでもいいけど飲みに行く"というようなことなど。馬鹿にされているのかな、とたまに感じた」と、女性ならではの経験を話してくれた。

 カトウ氏は「僕は編集者は必要だと思う。"最初の読者"だし、新人の頃は読まれ方が分からなかったりもする。作業をしていると周りが見えなくなってしまうので"“こういうふうに読者は見るよ"という話をしてくれるのは貴重だ。しかも僕の場合は割と運が良いタイプで、新人賞を獲ってから今の『ジンメン』という作品まで4~5年くらい同じ編集者さんで、二人三脚のような感じがある。ただ、相手は会社なので、いつか異動はあると思う。それを危惧している。編集者さんが替わると漫画のタッチや内容も変わるということもあるようなので、未経験の僕としては不安だ」と心境を吐露した。

 一方、ピョコタン氏は「編集者というのはやはりプロだから、自分の雑誌に見合ったものを作るという意味では必要。マネージャーさんや番組スタッフと同じような感じだと思う。でも、僕は編集者はそんなにいらないかなと思っている。ダメ出しをされるとすぐ嫌になって、投げだしたくなる。だから底辺だということもあるが…」とした。

■「しがみついている編集者や漫画家は淘汰される」

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 紙媒体だけでなく、誰でもウェブで作品を発表できることから、漫画家が足りないとも言われている。漫画家を育てる専門学校を運営するAMGの小川里江・出版事業部出版プロデューサーは「特にここ3~4年、電子コミックの市場が拡充している。昔だったら紙の雑誌に12~13作品しか載せられなかったが、数に限りなく載せられるので漫画家が足りない」と漫画の"供給不足"を指摘する。

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 元小学館編集者で現在はマンガアプリ「comico」編集長の武者正昭氏 も「とにかく本数は欲しい。ユーザーは本当に貪欲なので、たくさん作家がいて欲しいというのは切実だ。アプリにはちゃんとお金は流れていて、売り上げに応じて利益が入ってくるので、もちろん人気の人にはお金は入っている。ただ作品数が多いので、全員がそういうわけではない」と現状を明かした。

 ピョコタン氏は「出版社の本音として、"たくさん出したい"というのは1ページの単価が下がるということだ。武者さんのところは大手だからちゃんとしているかもしれないが、全体としてアプリ界の単価は低い。僕の体感では、ちゃんとした椅子は減っていって、ロクでもない椅子ばかりが増えていると思う。漫画家として、"やってみないと分からない"というのはリスクだ」と危機感を示す。「やはりこれからの漫画家は二分化していくのではないか。今までのビジネスモデルが斜陽になる中、そこ乗っているだけの編集者や漫画家は全部淘汰されていき、新しいメディアを駆使し、個人でやっていける人は生き残るし、むしろ前よりも儲かっていくのではないか」。これについては武者氏も「セルフプロデュース能力が高く、ツイッターを使ったりできる人、は残っていくのかなと思う」と同意していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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