時効になった事件を“趣味”で捜査する警察官・霧山修一朗が交通課の三日月しずかを相棒に未解決事件を捜査する『時効警察』。2006年にスタートして、独特のゆるーいギャグを炸裂させる同ドラマは深夜ながら瞬く間に人気を獲得、07年に第2弾『帰ってきた時効警察』が放送された。それから12年後、ようやく第3弾『時効警察はじめました』が10月11日(金)よりスタートする。
主演のオダギリジョー、麻生久美子はじめ、“時効オールスターメンバー”とも呼ばれる今や人気の個性派俳優たちが揃う中、新メンバーとして磯村勇斗が加入した。NHK朝ドラ『ひよっこ』で全国区に躍り出て以来、『今日から俺は!!』、『きのう何食べた?』、そして近作では『サ道』など話題作に次々と出演して、俳優として目覚ましい成長を見せている磯村。そんな彼の役どころは、オダギリ演じる霧山と同じ総武署・時効管理課のイタズラ好きの又来(ふせえり)の息子・又来康知(またらい・やすとも)。鑑識課のエースで、実は元ツッパリという設定だ。「子どもの頃に好きで見ていた」と語るほどお気に入りの『時効警察』シリーズで、憧れの大先輩であるオダギリとの共演。そんな夢のような作品に参加して感じ取った思いと、康知をメインに描く特別編『鑑識課・又来康知』の見どころをたっぷりと語ってもらった。
■独特な空気が流れる『時効警察』の現場
――出演が決まった時の率直な感想から教えてください。新メンバーとして加入するということでプレッシャーはありましたか?
磯村: もともと『時効警察』は見ていましたし、オダギリジョーさんのファンということもあり、参加させていただくのがすごくうれしかったです。もう出来上がっている空気感、ファミリー感みたいなところに新規メンバーとしてどう馴染んでいけばいいのかなという点では悩みました。でも、オダギリさんはじめ、みなさんが暖かく迎え入れて下さったので、妙に壁を作ることなく現場に入ることができたかなと思っています。とはいえ、『時効』ならではの独特な空気感みたいなものをつかむまでは結構時間がかかりましたね。
――具体的にはどんなところが独特だったのでしょう。
磯村: やり過ぎちゃいけないけど、やらなきゃいけないような空気感というのかな。ホント、説明しづらいんですよ。今までいろんな現場を見させていただきましたけど、どことも違う。ピンと張っている糸があるんですけど、そこにはゆるい空気が流れているというか。まさに、独特なんです(笑)。だから、『時効警察』の現場を見ない限り、肌で感じない限り、ちょっと伝えようがない。(今回、一緒に新規メンバーとして加入した)吉岡(里帆)さんとも言っていたんですけど、お芝居はするんですけど、しすぎちゃいけない部分があった。だけど、それをガツガツ見せる感じではない。作風の問題や、その話を手掛ける監督さんそれぞれのテイストによるものかもしれません。オダギリさんたち、オリジナルメンバーの方たちが作って来た空気だとも思うので、あんまり気にせず馴染んでいこうとやっていきました。
――オダギリさんや麻生さんからアドバイスはありましたか?
磯村: アドバイスというアドバイスは本当になくて。オダギリさんや麻生さんが現場に立っている姿から「自然にその場所に立っていればいいんだよ」と言われているように感じたので、変に気を遣うことなく、自分の肌で感じて演じていた感じです。
――メイン監督&脚本は三木聡さん、ほか大九明子(『勝手にふるえてろ』監督・脚本)や今泉力哉(『愛がなんだ』監督)ら今、注目の監督たちが演出されてますが、全員の方と撮影されたのですか?
磯村: はい。演出の仕方はみなさん、それぞれタイプは違って興味深かったです。三木さんはすごく念入りにドライ(=段取り)をして、しっかり決めてから撮る方。大九さんも、自分の中で作りたいものを明確に提示してから、俳優陣から出るもので「これはいい」「これはダメ」を判断したり。今泉さんもすごく俳優が出してくるものに応えてくれました。細かいところで、それぞれの監督さんによって演出の違いがあるかなと思いました。
――そんな中で、演じられる康知は元ツッパリという過去があるキャラクター。他局になりますが、『今日から俺は!!』のツッパリとは違うツッパリ像を作るとおっしゃってますけど、具体的にはどういうツッパリ像を期待するといいんでしょう。
磯村: 康知のツッパリはやさぐれに近いのかもしれない。若かりし頃、親に対する反発みたいなところから出て来るんですかね。『今日から俺は!!』ではマジの極悪でしたから、あれとは違う、かわいい感じ。強がっているように見えると思います。
■ふせえり演じる又来は「母親だったら面倒くさい(笑)」
――ふせさん(又来)と親子を演じると聞いたときはどうでしたか?
磯村: 喜びました。ふせさんと共演させていただくという部分も含めて、「あの又来に息子がいたんだ、それを自分がやるんだ」という一ファンとしての楽しみもありましたし、台本をいただくまでは康知がどんなキャラかもわからなかったので、それも楽しみでした。もしかしたら母親に似て、破天荒でガツガツした感じかなと思ったら、母親とは真逆の性格を持っていたので、演じ甲斐がありましたし、ふせさんとの絡みもすごく面白かったですね。ふせさんが僕を息子として考え下さる時間が多かったので、康知をこうやったほうがいいよねと話したり。もともと、ふせさん演じる又来は結構好きなキャラだったんです。ちゃんと物事を言うし、すごく元気があってイキイキとしているので、家庭が楽しそうだなと思うんです。ああ、でも、実際に又来みたいな母親だったら面倒くさいかもな。結構息子をいじってくる。仕事場でそんなことをされたら、厄介ですね。今話をしながら、そう思いました(笑)。
――序盤、康知は鑑識課のエースのような存在で登場します。でも伺っていると、後半、どんどんキャラクターが崩れていくんでしょうか?
磯村: いや、そういうわけではないんです。ちゃんと、作品としてつながっていますから。ただ監督、脚本家がその話ごとに違うので、それぞれの色があり、テーマがあって。オムニバスみたいな…。だから、康知のキャラは浮き沈みが激しくて(笑)。本当につかみどころがない。面白いキャラクターなんです。
――演じていると、だいぶ混乱したのでは?
磯村: こいつどういうキャラクターなんだろうと思ったときはありました(笑)。ベースとしては鑑識課のエースとして勉強して、霧山さん、三日月さんのサポートをするキャラではあるんですけど。諸沢(光石研)さんが相手になると、話によってキャラが変になるんです(笑)。それが、康知の一つの見どころでもあるかもしれないですね。
――現場を引っ掻き回す役というのを期待してもいいんでしょうか。
磯村: ハハハ(笑)。引っ掻き回すというのは、時と場合によってですかね。母親と絡むときは霧山、三日月をバタバタさせてしまうというのもありますし。でも、引っ掻き回すというよりはサポート役なので、事件について調べて霧山さんに提出したり。結構お助けキャラで、マジメに仕事やってます! ただ、時々変になるということだけは覚えておいてください(笑)。
麻生久美子をイジるオダギリジョー 間に挟まれ、磯村勇斗はドギマギ
――麻生さんが今回の取材で、「磯村さんがかわいらしい」とコメントされているんですけど、現場でオダギリさん、麻生さんはどんな様子でしたか?
磯村: オダギリさんと麻生さんはすごく仲がいいんです。よくオダギリさんが麻生さんをからかって、その度に、麻生さんが「やめてよ」って。その2人のやり取りが微笑ましくて、いつも吉岡さんと「微笑ましいね」と見てました。オダギリさんが麻生さんに、「今の芝居、大きくなかった?」ってツッコんで、麻生さんが「そんなことないよ」と返すと、オダギリさんが必ず僕に「磯村くんもそう思うよね?」と同意を求めてくるんです(笑)。僕は先輩方のお芝居をどうのこうのなんて言える立場ではないし、大きな芝居をしているなんて思ってもいない。でも、オダギリさんがそう言ってきたら、否定もできないし。毎回、間に入って挟まれて、どうしたらいいのかわからない。ドキマギしている僕がカワイイと見えたのかもしれないですね。本当に、僕が何とも返答しづらいことをオダギリさんが振ってくるので、その返しが難しいんです(笑)。
――オダギリさんのすごいファンだったということですが、実際に間近で会って、さらに共演してみてどうでした? ギャップはありましたか?
磯村: ギャップはなかったです。映画やテレビで見ているそのままのオタギリさんが現場にいて。あまり笑顔を見たことがなかったので、オダギリさんが思い切って笑うこともあるんだなというのを見て、ちょっとキュンとしました(笑)。
――麻生さんはいかがですか?
磯村: 本当にチャーミングな方ですね。現場のこと以外、たとえばお仕事のことで相談したら、親身にアドバイスをくださったり。家庭的な感じですごく素敵な女性だなと思いましたね。
――どんな相談をされたんですか。
今後の仕事のことで、27歳の自分についてです。中途半端な年齢で、20歳よりは大人になっているけれど、30歳にはなりきれていない。でも、20代の中では大人の場所にいて、どう振る舞っていけばいいのかということですね。
「時効警察とくべつへん 鑑識課・又来康知」では康知の意外な過去や趣味が明らかに!
――「時効警察とくべつへん 鑑識課・又来康知」の見どころを少し聞かせてください。
磯村: ふせさん演じる又来と、康知の親子関係がしっかり描かれたものになっています。親子の物語、さらに康知が実はお笑い芸人を目指していた!? という驚きの過去もあったりしてものすごく面白いものになってます。
――康知がお笑いをやっていたという設定には本当に驚きました。
磯村: ですよね。僕もよくわかんなくなっちゃったんです。ツッパリやって、お笑いやってという。本当に変な子だなと思いました(笑)。
ーー「時効警察とくべつへん 鑑識課・又来康知」では磯村さんが座長という位置でしたが、緊張はありましたか?
磯村: 全く緊張しなかったです。もともと本編のほうを少し撮っていたので、その流れで撮ったおかげで、緊張がなかったんです。ただコントをやるときは緊張しました。小手伸也さんと前日の真夜中にネタ合わせもしたんですけど、演技とは違う緊張感がありました。でも面白くなくてよかったので、そこはよかったです(笑)。
ーーお笑い以外に、康知の意外な過去が明かされますか?
磯村: ネタバレになるので、あまり言えないんですけど、あるゲストの大ファンで、オタクだったというところですかね。
「時効警察とくべつへん 鑑識課・又来康知」は康知の魅力がたくさん詰まっていて、より康知を楽しく知ってもらえると思いますので、注目してください!
ーー磯村さんにとって新たな代表的キャラクターになりそうですね。
磯村: そうなったら本当に嬉しいです!
取材・インタビュー:前田かおり
撮影:映美