
神戸市立東須磨小学校で起きた教師間の暴力問題。20代の男性教師が30~40代の先輩教師4人からカレーを目や唇に塗られる、新車の上に乗られる、ミミズ腫れができるまでコピー用紙の芯で尻を叩かれる、女性教師らにLINEで性的なメッセージを送るよう強要されるなどの行為を少なくとも1年間にわたって受け続け、9月の始業式からは精神的に不安定になったとして休職している。また、報道によれば、4人はリーダー格の40代の女性教師と30代の男性教師3人で、別の3人の教師に対するセクハラ行為などがあったという。
9日に会見を開いた東須磨小学校の仁王美貴校長は、羽交い絞めにされて激辛カレーを無理やり食べさせられている動画も見たとし、「被害教員が『されました』と手紙で知らせてくれる内容というのは、本当に驚くものばかりだった。絶対に許されるものではなかった」と語った。
また、仁王校長は「2018年に教頭として赴任した当初から、職員室で高圧的な態度をとる教師がいたことなどをあげ、人間関係に違和感を覚えていた」と説明した一方、「ハラスメント行為があることを掴んだのは7月初旬だった」「この時点では本当に、被害教員には申し訳ないが、そういうことを感じたり、気付いたりすることはできていなかった」とし、教育委員会への報告が遅れたことについても「いじめへの認識の甘さがあった」と話した。
加害側の4人は反省の言葉を口にしており、現在は有給休暇扱いの自宅謹慎中だというが、仁王校長は「行為の重大性から教育委員会とも相談の上、4名を公務から外し、今後一切、東須磨の子どもの前での指導を行わせないという判断をした」としている。
■元教師"声を上げられないという方がたくさんいると思う"

9日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演したAさん(20代・女性)は一昨年に大学を卒業して関東地方の小学校に着任、小学1年生の担任となった。しかしほどなくして同僚教師からのいじめが始まり、それが原因で退職するに至った。
「配属が決まった際に、特に年の近い何人かの先生に"この学校はおかしいから、覚悟しておいたほうがいい""体育会系だから丁寧に教えてくれないし、他の先生に睨まれないようにすべき"とアドバイスされた。赴任して最初に2年目の先生から言われたのは、朝6時までに絶対に学校に必ず着いて、職員室の水場の掃除をすること、他の先生のお茶碗を洗って準備すること。それから校庭整備など、他の先生が来るまで自分で仕事を見つけてやること、そして退勤は21時半ということだった。"この学校の伝統だから、辛いと思うけど受け入れるしかない"と。納得のいく理由は一つもなかったが、まずは従って、他の先生に文句を言われないよう努力した。でも、右も左も分からない1年目なのに誰も話を聞いてくれない状態で、2時間しか眠れない日々が続いた」。
当時の校長はこうした状況を黙認、他の教師からは陰口を叩かれたという。「いじめの体制ができていた。"仲間はずれにされるよ。職員室に居づらくなっても仕方ない"とも言われた。それでも指摘されるまでは"自分が悪いんだ。自分が弱いから、自分の能力が未熟だからだ"という自責の念があった。若い先生の中には、私以上に嫌な思いをしていて、しかも声を上げられないという方がたくさんいると思う。周りに"おかしい"と感じる先生がいなければ、助けを求めることすらできない。誰かが気付いたら、すぐにその先生を守れるような学校現場に変えていけたらなと思う」。
■"加害者側を学校に残すのではなく、退場させる文化を"

名古屋大学の内田良准教授(教育学)は、Aさんの体験も踏まえ「学校の先生に"大事なものは何か"と尋ねると、1番目か2番目くらいに出てくるのが"学級経営"という言葉。初任者でもいきなりクラスを持たされ、30~40人の子どもたちを従わせることができるか、コントロールできるか、それが問われる。学校という組織全体をコントロールするという文化も強いので、自由に動くというより、厳しく統制させるという発想がある。教諭であれば形式的には年齢関係なく同じ立場。ただ、そこには年齢による権威付けみたいなものがあるし、最初からクラスを受け持つ先生は一般企業の若手社員以上に"強い"というイメージができてしまうので、弱音も吐けないという空気がある。そして、もちろん子どもの前では常に元気でいなければいけない。パワハラ防止策も必要だが、"辛い"と言えるような窓口を作らなければいけないだろう」。

ジャーナリストの堀潤氏は「学校が非常に特殊なケースのように思えるが、一般社会でもAさんのような話はいくらでもある。"俺たちもそうだったから"と言い、それに"NO"と言えなくなっていく空気作りというのは、この国全体にはびこっている問題だと思う。スポーツの世界では、ようやく過去の誤った指導法が見直されつつあり、マネジメントの能力不足、勉強不足が指摘されるようにもなった。"今までこれで回っていたから"ではなく、このような問題を再生産させてきたことに真正面から向き合わないと、教育現場に入ってこようという一生懸命に若い先生たちを大人が潰すことになる」と指摘した。

内田氏は「公立校の場合は人事交流もあるので、風通しは決して悪くない。一方、体罰をしても"教育の一環、指導の一環"という議論が出てきてしまい、クビにはなりにくい。しかし率直に言って、今回は誰もが異常性を感じてしまう事案だし、他の先生たちは"これはおかしい"と思っていたはずだ。こんな犯罪のようなことをしている人たちには出ていってもらって、先生にとっても、子どもにとっても過ごしやすい場所にしていくことが必要だ。子ども同士のいじめの問題でも"9月1日に学校に行くのが辛いなら行かなくてもいい"と言われるが、そもそも学校に来なくていいのは、いじめている側ではないか、という議論も必要だ。もちろん誰しも学校に来る権利を持っているので、排除しようというわけではないが、やはり加害側が学校に残ってしまうのが問題だ。やはり暴力に対して、なかなか厳しく"NO"と言えないのが、学校の文化でもある。そこはダメなものはダメと言った上で、大人の場合には辞めてもらうことが必要だ。今回も、教育委員会がどのような処分を下すかまでちゃんと追いかけなければならない」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)



