▲NPO法人・WorldOpenHeart 理事長の阿部恭子さん
工藤智子さん(仮名)の長男は無免許運転などの罪により逮捕され、最終的に少年院に送致された。長男の初犯は13~14歳のころで、現在は18歳。少年院に入っていた期間は1年程度だったと明かす。母親としての心境はどのようなものだったのだろうか。
SHELLYがMCを務める『Wの悲喜劇~日本一過激なオンナのニュース~』(AbemaTV ※毎週土曜21時から放送中)は、『ある日突然、犯罪加害者家族になりました。』が今回のテーマ。“犯罪加害者”の家族が、これまでの過酷な体験を赤裸々に明かした。
工藤さんは長男の犯罪や逮捕について「最初に罪を犯したときはショックだったのですが、人間ってやっぱり慣れるんですよ」と話す。車の窃盗などで、いよいよ長男の少年院送致が決まったときは「行ってらっしゃい、1年間頑張って」という心境になり、長男には「頑張ってきてね、立ち直ってきてねって伝えた」と明かした。
▲工藤智子さん(仮名)
また、長男の無免許運転による事故で100万円以上の弁償が発生したこともあったが、息子に対して「お金を返してほしいとは言えない」と話す。
「自分が悪いので……」と語り始めた工藤さんは、長男が小学校1年生のとき、工藤さん自身も覚醒剤関連の犯罪を犯してしまい、3人の子どもを施設に5年間預けたことを悔い続けている。子どもたちへの愛情は当時も今も確かにあるが「負い目もある。だから『(私のせいで)子どもはこうなってしまったんだ』と考えてしまう」と語った。
自身が逮捕されたとき、小学校1年生の長男が「お母さん! お母さん!」と叫んでいた姿がずっと頭から離れなかった工藤さん。5年後に子どもたちを引き取ったが、長男からは「俺は引き取ってほしくなかった」と言われてしまった。それゆえ「すべては自分が悪い」という負い目をずっと引きずっている。
「隣の人が犯罪を犯すかもしれない。そういう想像力を持って」“加害者家族”の苦悩と支援
▲ブログ『拝啓、夫が捕まりました。』を運営しているでんどうしさん
ブログ『拝啓、夫が捕まりました。』を運営しているでんどうしさんも、夫が加害者になった過去を持つ。ある日、でんどうしさんが勤めている会社に、突然警察から電話がかかってきて「ご主人がある罪状で警察にいて、とりあえず今晩は帰れません」と告げられたという。
警察を装った詐欺の流行もあり、罪状を電話口で明かされなかったことから、最初は詐欺だと思っていたでんどうしさん。ただ、警察から「被害者がいる」と言われ、「ただごとじゃない」と思い、警察署に赴いた。そこで撮影した夫の写真を見せられ、初めて自分の夫が犯罪加害者になったことを知った。
夫との接見が許可されると、夫自身の言葉で何を起こしてしまったのか、でんどうしさんはすべてを聞いた。「ひたすら被害者の方に申し訳ない。(加害者の)妻として、死んで詫びたいと思った」と、当時の心境を明かした。
日本初の犯罪加害者家族を対象とした直接的支援を行うNPO法人・WorldOpenHeartは、全国の加害者家族からの相談に応じている。理事長の阿部恭子さん曰く、2008年に同団体を立ち上げた際、日本には同様の団体は一切なかったという。海外では加害者家族への支援が充実しているが「まず“加害者家族”という単語が日本になかった」と語る。
加害者家族同士で同じような境遇の人と出会うと、それだけで救われると述べた阿部さん。加害者家族は「自分のせいでこれが起こったんじゃないか」という心のわだかまりを持っていて、そのような思いを共有できる空間があるだけで救いになると明かした。
「加害者家族のほとんどが罪の大小に関わらず罪悪感を持っています。相談を受けたうちの約90パーセントがまず『死にたい』という言葉を電話で言います」(NPO法人WorldOpenHeartの理事長・阿部恭子さん)
まさか自分の家族が罪を犯すとは思っていないため、大きなショックを受けた状態になる加害者家族。
日本のかつての刑罰には、一族が連帯責任を負い、連座させられることが多かった。この意識は現代にもあり、阿部さんは「日本には、とりあえず謝らないと世間で生きていけないという考えがある」と述べる。反省し続けている姿勢を見せないと、世間で生きることを許されない。それが足りていないと判断されると「加害者家族のくせに」といった心ない言葉を浴びせかけられてしまうという。
SHELLYは「(加害者の)子どもは、被害者じゃないですか?」と驚きを隠せない。阿部さんによると、海外で加害者家族は「隠された被害者」「忘れられた被害者」などと呼ばれており、支援も充実している。一方で、日本における加害者家族は「連帯責任を負うべき加害者」であり、まずはこの意識を変えていく必要があると述べた。
阿部さんによると、WorldOpenHeartを含め、日本で加害者家族を支援している団体は2つ(※2019年11月20日現在)存在するが、それでも十分とは言えず、支援の手がなかなか増えない。“加害者の仲間”であると見られてしまい、誹謗中傷を恐れ「基本的には触れたくない人」が多いからだと阿部さんは語った。
▲『「毒婦」和歌山カレー事件20年目の真実』の著者・田中ひかるさん
歴史社会学者で『「毒婦」和歌山カレー事件20年目の真実』の著者である田中ひかるさんは、加害者家族を差別することが犯罪抑止力に繋がると考えている人の多さを指摘。これを「村八分的な発想」とし、江戸時代の五人組制度(※近隣の5戸を1組とし、年貢の納入や治安維持を連帯責任で負わせるために設けられた制度)と同じ発想であると述べた。
でんどうしさんは「私たち加害者家族というのは、申し訳ないとしか思ってない」と述べた上で「(加害者家族という存在を)知ってもらいたいし、考えてもらえたらうれしい」と話す。
「いつ何が起こるか分からない。自分の隣に座っている人が(犯罪を)起こすかもしれない。友達だったり、子どもだったり、親だったり。そういう想像力を持っていただけたら、今の社会とか世界が変わるんじゃないかなって思っています」(でんどうしさん)
(AbemaTV/「Wの悲喜劇 ~日本一過激なオンナのニュース~」より)