武藤ひめさんが院長を務める名古屋・栄のHIME CLINIC(ヒメクリニック)では、診療科目をあえて決めておらず、患者は「なんでも来ます」という。
SHELLYがMCを務める『Wの悲喜劇~日本一過激なオンナのニュース~』(AbemaTV ※毎週土曜21時から放送中)は今回『“普通”ってナニ?』がテーマ(前編)。ダイバーシティを考えるイベント「MASHING UP」とコラボした番組史上初の公開収録回であり、スペシャルゲストのタレント・りゅうちぇるとともに“普通”とは何か、その価値観を語り合っていく。
「都会の町医者」として同医院を開業した武藤さん。診療科目を決めてから病院を選ぶ行為について「すごい失礼な言い方をすると、素人考えですよね」と、身体の不調からどの科目に行くべきかを判断するのは患者側も医療側も「めんどくさい」とした。
医師は医学生時代にあらゆる科目の勉強をする。それぞれの医師に専門はあるものの、武藤さんは「専門は大きい病院に任せておけばいいんですよ」と「本来の町医者は何科でも診ることが可能なはず」と語った。
HIME CLINICでは、院長である武藤さん自身がトランスジェンダーであり、トランスジェンダー診療も行っているが「普通にトランスジェンダーが(トランスジェンダー診療以外を受診しに)来ます」という。
「トランスジェンダーは生まれ持った身体の性別を言わずに生きたいと考えている人が多いです。『自分はトランスジェンダーです』と公言する人はほとんどいないですよ。ただ、生物学的な性別を公表できないのであれば、診療を拒む医師もいます」(武藤ひめさん)
たとえば元が女性の身体のトランスジェンダーであれば、診療の際に女性特有の合併症を考えないといけない。患者が勇気を出して元々男性または女性の身体であったことを告げたとしても「(患者の)感情を無視した間抜けな質問をする医者も多い」と武藤さんは話す。りゅうちぇるも「確かに(医者からの)デリカシーのない質問によって心まで病んじゃうことがあるのかもしれない」とコメント。
■「患者様がどういう風に思われるか分からないので…」医療機関に断られる毎日
元々、武藤さんは新生児の集中治療専門医だった。必死に生きようとしていた赤ちゃんがどんどん亡くなっていく日常の中で、自認している性別に従って生きていこうと決めた。
「(赤ちゃんたちは)ただ一生懸命生きてるだけなんですよね。じゃあ私なんなんだろうって深く考え出して、やっぱり正直に生きなきゃダメだと。(トランスジェンダーに対して)社会も寛容になってきているし、行けるんじゃないかなと思った」
武藤さんは自認している性である女性として働くことにしたが、考えが甘かった。対応に困っている周囲の気持ちがひしひしと伝わってきて、当初働いていた病院で働き続けることが難しくなった。
医師免許や専門医の資格を所持している武藤さんだが、すぐに得られると思っていた次の働き口をまったく見つけることができなかった。どこの医療機関でも「トランスジェンダーであることは気にしないですよ」と言われたが、必ず「患者様がどういう風に思われるか分からないので」という理由から断られた。
収入が得られずいよいよ生活が難しくなってきた武藤さんは、嫌々ながら夜の仕事を開始した。ようやく雇ってくれるクリニックが見つかるまで「歯を食いしばりながら夜の仕事をしていた」と明かす。
■「トランスジェンダーという言葉がなくなってほしい」“オネエタレント”イメージの弊害
一番の目標として「トランスジェンダーという言葉がなくなってほしい」と話す武藤さん。夜の仕事ができたのも、“女性”ではなく“元男性”と告げたからだった。「夜の仕事は本当はやりたくなかった」と述べ、社会はトランスジェンダーを受け入れるべきという風潮だが、トランスジェンダーであることを売りにしたり、トランスジェンダーが商業化されている現状を嘆いた。
武藤さんは、テレビで活躍するオネエタレントについても「もしかすると私たちへの誤解に繋がってるかもしれない」と意見。テレビに映るオネエタレントのイメージは奇抜なものが多く、「普通に生きて、普通に仕事してるトランスジェンダーもいっぱいいるんですよ」と一石を投じた。また、その思いを表明するため、このような場に立つことを選択したと明かした。
“普通”とは何であるのかという質問に対して武藤さんは「普通ってないんじゃないかな。普通って定義ができない。幅が広いから普通はない。すべてが特別だと思う」と答えた。
(AbemaTV/「Wの悲喜劇 ~日本一過激なオンナのニュース~」より)