戦後最悪とも言われる日韓関係の中、安倍総理が訪問先の中国・成都で韓国の文在寅大統領と実に1年3カ月ぶりに会談した。
両首脳は当初の予定よりも長い約50分間にわたり、焦点となっている徴用工問題などについて議論を交わした。しかし、「日韓請求権協定が守られなければ、国と国との関係は成り立たない。国と国との約束を遵守してもらわなければならない。韓国側の責任で解決策を示すべきである。日韓関係を健全な関係に戻していくきっかけを韓国側から作るよう求めた」という安倍総理に対し、韓国側は日本企業に賠償を命じた韓国最高裁の判断を重んじるという従来の立場を崩さず、具体的な解決策は見いだせないままだった。
一方、11月に来日した韓国立法府の長である文喜相・国会議長が「徴用工問題解決の最善策」として提案したのが、日本企業と韓国企業、そして個人から寄付金を募って280億円規模の基金を設立し、それを慰謝料として元徴用工に支払うというプランだ。
日本側からは菅官房長官は「(完全かつ最終的に解決されたという)政府の立場は一貫しているということ」とコメント、他の議員からも「日本側が金を出す基金なんて論外」と批判の声が上がる中、文議長は今月18日、「日韓両国が合意できる唯一の案」だとして、この新法案「記憶・和解・未来財団法案」を提出している。
同日のAbemaTV『AbemaPrime』に出演した元防衛大臣の中谷元・衆議院議員(自民党)は、徴用工問題をめぐる韓国の司法判断に疑問を呈した上で、新法案について「韓国の中でやったらいい。日本企業は一銭も出す必要がない。当てはまらない人がまた裁判を起こしたりするという要素もあるので、なかなか厳しい現実があると思う」と批判する。
産経新聞元ソウル支局長の加藤達也氏も「このプランが出てきた背景には、文議長の息子さんが次の国政選挙に出たいということで、“ぜひ、うちの息子をよろしくお願いします”という手土産だ。文在寅大統領が日韓首脳会談に出てくることは日程上分かっていたので、その場で議論の俎上に乗せられれば、自分の存在意義が十分にアピールできて、息子の出馬への可能性も開けてくる。そういうものなので、そもそも相手にすべきものではない」との見方を示した。
その一方、超党派の日韓議連で幹事長を務める河村建夫衆議院議員は「文議長はなんとか徴用工問題を解決したいという思いを強く思っていて、今回の法案は日韓請求権協定の解決に繋がっていく、その行方を私は見ている」と肯定的ともとれる発言をし、波紋を広げた。
日韓議連とは、自民党を中心に結成されている超党派の議員連盟で、政府間の交渉が行き詰まった際に議員レベルで関係改善を図ってきた。額賀福志郎衆議院議員が会長を勤め、安倍総理、菅官房長官、麻生財務大臣も名を連ねる。
日韓議連の常任理事を務める中谷議員は「韓国の自由主義を守ることが日本の安全保障につながるということで1972年にできた、日韓の話し合いのグループだ。これまで日韓で問題が起きた時にも、日韓議連の総理経験者が解決してきた。ただ、これは政権が安定していて、相手を信じられるということが前提で機能する。そこが最近は複雑で隔たりが大きくなりすぎ、いくら議連が頑張っても解決できない状態になっている。今まで韓国側は李洛淵首相が担当者のようになっていたが、来年の大統領選挙を目指すということで外れてしまうので、窓口がなくなっている」と説明する。
その上で「今は韓国の与党も野党も反日的で、竹島に上陸したり、日章旗の問題が出てきたりする。前はこんなに反日ではなかったと思うし、矩をこえてしまった。それでも議連は何らかのパイプ、チャンネルになろうとして、双方50人くらいは行ったり来たりしている。河村さんは立場上、向こうの議連の会長さんと話し合いをし、“努力はするべきだ、評価してくれ”ということでの個人的な意見だ。決して日韓議連のみんながそういう考えではないし、議論をしたこともない。文議長は日本には負担がないというような説明をしているようだが、最近になって謝罪しろと言っているし、対象者は旧軍人、旧軍属など22万人になるという話もある。この問題を本当に終わりにしないといけないという時にそんな底なしの法案ができてしまえば大変なことになる。その辺の確証がない限りは軽々に言うべきではないものだ」とし、あくまで河村氏個人の見方であることを強調した。
加藤氏は「日韓議連ができた頃は北朝鮮の脅威が半端ではなかった。この2年後の1974年には朴槿恵前大統領の母が射殺されているし、1979年には父・朴正煕元大統領も暗殺されている。この直前には北朝鮮の工作員が大統領府に入り込むという事件もあり、韓国自身が日米に、すがりついてでも何とかしなければならなかった。また、当時の韓国の政治家の皆さんは日本語を話せたので、つかみ合い、怒鳴り合いの喧嘩もありながら、肝胆相照らした議論ができた。ところが今の韓国は北朝鮮に対して精神的に武装解除してしまっているし、議論の土壌が無くなっている」と指摘した。
ただ、韓国の調査会社「リアルメーター」が基金案について世論調査を行ったところ、反対43.5%、賛成33.6、よく分からない22.9%という結果も出ている。
しかし中谷氏は「評価するに値しない。これができたとしてもまたこういう問題が起こる。これで最後だと言って、何度も裏切られてきた。今回の会談でもこの法案についての話は出てこなかったし、大統領府自体、どうするのかという腹構えもない。実際に成立するかどうかも疑問だ。安倍さんが言うように、条約というのは国と国の約束だ。裁判に出されたら韓国政府がちゃんとフォローアップしないと大問題になる。だから歴代の大統領はこの問題をやらなかった。約束したことに対して、それを違えたところに間違いがあると思う」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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