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 俳優の動きを決める“段取り”から実際にキス。本番でもカメラの存在が分からなくなった……そう明かすほど入り込み、“役を生きた”のは、俳優の宮沢氷魚藤原季節。二人は映画『his』(1月24日全国公開)にて男性同士のカップルを演じている。ともすればデリケートな話題として扱われることもあるLGBTQがテーマの一つである同作。宮沢と藤原はどのように向き合い、何を感じたのか。撮影期間、そしてその後の自身の意識の変化を振り返ってもらった。

「LGBTQがセンシティブな題材じゃなくなることが一番の希望」

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ーーLGBTQというデリケートな題材を扱った作品ですが、オファーが来たときはどのように感じましたか?

藤原:いつかは演じてみたい題材だったのでそこに対する戸惑いはなかったんです。ただ当時デリケートだなと思っていたことが、この作品をきっかけに実はデリケートじゃないということに気付きました。

――それは演じながら気づいたのですか?

藤原:演じているときではなく、撮影が終わってからです。渚という役を演じ終えてから、世の中にある古い価値観に気づいて、それに自分も傷つくようになりました。最初はデリケートな題材だと思っていたんですけど、当たり前に存在する人たちなので、決してデリケートではない。今は胸をはって「これは男性同士の恋愛を描いた作品です」と言えます。

宮沢:僕も以前からこのテーマに興味があり、お話をいただいた時点で、「前向きに検討させていただきたいです」と答えました。そして本を読み、なんと美しい物語なんだろうと思いました。その“美しさ”は、今流行のB Lとかのキラキラした“美しい”ではなく、人間の美しさ、それは醜さ、絶望感を描いた上での“美しさ”でした。いいとこだけを取り上げて綺麗にまとめるのではなく、実際に生きてそれだけじゃない、辛いこと、しんどいことを含めて「人生っていいな」と思える。そんなリアルな“美しさ”がありました。

この題材がセンシティブな題材じゃなくなることが一番の希望です。それこそ同性愛者の映画を描かなくてもいいくらい、それが当たり前になれば。描かれたとしても、それが“ただの恋愛作品”という形で出るようになればと思います。

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ーー洋画でもLGBTQを扱った名作と言われるような作品がたくさんありますよね。そういったことも、このテーマに興味があった理由の一つなのでしょうか。

藤原:好きな作品はたくさんあります。僕はヒースレジャーが好きなので『ブロークバック・マウンテン』が大好きです。

宮沢:あれいいよね~。俺も大好き!二回見た。

――そこから役作りに参考にしたことはありましたか?

藤原:映画から感情を受け取りました。同じ性の人を好きになってしまった苦しみというのは共通のものなので。ただそれが渚の役に活かすかと言えば別。それよりも『his』の監修をした南和行さんが出演されているドキュメンタリー映画『愛と法』に影響うけるものがありました。南さんは歌うのが趣味なんですが、パートナーの吉田さんがその歌を聴いているときの表情を僕は忘れられなくて。なので僕は渚を演じているときに、ずっと(頭に)その表情がありました。渚が離れていきそうなときも、それを思い出せばすぐ渚に戻ってこれました。

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カメラの存在を忘れるほど“役を生きた”『his』の現場

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ーーお二人が思う『his』の魅力を教えてください。

宮沢:今、改めて今泉力哉さんが監督した意味というのを感じています。『his』の世界が非現実的な自分に関係にない場所ではなく、“日常”にあるんです。今泉さんは日常にあることしか描かない。

僕たちも演じていて、演じているという感覚ではなくなっていきました。宮沢氷魚だという存在を忘れて井川迅として生きている。それで渚とやりとりをして、空がいる。クリスマスのシーンも本当に僕たちだけでクリスマスを祝っているような気がしました。そんな経験は初めてでした。

藤原:わかる。僕の記憶の中ではカメラはないですもん。

宮沢:確かにカメラの存在がなく感じた。それはきっとスタッフさんたちも気を使ってくれたからだと思うんですけど、本当にその時間を生きているようでした。すごくリアルに体験できました。以前、季節くんとも話していたんですけど(ロケ地となった)白川町に行ったら、本当にみんないるんじゃないかと思います。空ちゃんが餅つきしてるんじゃないか、とそういう景色が浮かぶんです。そういう作品は少ないと思うし、役者としてはこれ以上ない経験でした。なので、リアルに生きた僕たちの姿がこの作品の魅力になっていると思います。ドキュメンタリーに近い。

藤原:迅の家で暮らしている瞬間は、撮影隊の姿がないように感じたよね。

宮沢:白川町に住む緒方さん(鈴木慶一)の家で鍋を食べているシーンとか、どこにカメラがあったか思い出せないね。カメラ以前に僕ら以外の人がいた記憶がない。たまに今泉さんがチラッといるくらい(笑)。

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ーーそれはお二人の絡みのシーンでも?

藤原:普段は段取りをやって動きを決めてからリハーサル、本番なんですけど、あのときは段取りから全身全霊で本気100%の演技をしてしまったんです。キスも含めて。カメラも回ってないのに。そしたら、カメラマンさん、撮影隊の空気も変わって、次からリハーサルもなしで、カメラ二台まわして撮影するようになりました。一通り撮った後も、二人がキスしているところを縦横無尽に動き回って撮ってもらって。二人がキスして顔を離すところも、カット割りにはなかったカットなんです。僕らもカメラの存在なんて気にせず、どこにいるかもわからない状態でやっていました。他の現場ではなかなかできないです。いきなり段取りからキスするなんて……(笑)。

宮沢:そうだね。実は役者としてのファーストキスの相手は季節くんだったんです……(笑)。

――意外です!

宮沢:「これはくるな」と思っていたし、きて欲しかったよ(笑)。

でも、その次の現場が大変でした。「偽装不倫」というドラマでキスシーンがあったんですけど、いつからキスしたらいいんだろう?と思って。「段取りからやります?」って聞いたら、「えぇっ段取りからやるの?本番でいいんじゃない?」って(笑)。

藤原:他のところでやったら、いろんな大人に怒られるだろうね(笑)。

宮沢:そうだね(笑)。でも、あのときは段取りということも忘れていたんだよ。

藤原:段取りだから動きを考えようと思っていたんですけど、その段階で、(宮沢が)号泣しているんですよ。迅の顔見たら、顔真っ赤にして痙攣してるから、あ~始まってる!と思って。あ~戻れない!いっちゃえ~!って(笑)。あのシチュエーションのキスもその瞬間とっさに思いつきました。

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ーーそこまで距離を詰められたのは、やはり時間が経ってから?撮影期間中は二人で同じコテージで過ごされていたということですが、それもきっかけになったのでしょうか?

宮沢:そうですね。最初は僕たちも距離がありました。でもクランクインは、出会って二日目で、まだ若干距離があったんです。でも順番通り撮影が進んでいったので、僕たちの距離感と迅と渚の何年ぶりかに会うという距離感がマッチしました。

藤原:キスシーンの日は寝ないで、二人とも朝方まで語り合って。

宮沢:ね、寝れなかった。

藤原:2時間くらい寝て先に氷魚くんだけ撮影行ったね。(宮沢が)座布団を抱きながら気づいたら寝てて、布団をかけました(笑)。

――意識して距離が近づいていったというよりは、演じながら近づいていった感じですか?

藤原:はい。キスシーンを撮った後、氷魚くんが床に倒れていて、僕が氷魚くんの手を持って起こして、バッとハグして。その瞬間は忘れないですね。

宮沢氷魚が驚いた共同生活で見た藤原季節の一面

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――一緒に寝泊りして気づいた、お互いの意外なところはありますか?

宮沢:ちゃんと旅のしおりに「タオルはありません。ご持参ください」って書いてあったのに、(藤原は)何も持ってこないんですよ!(笑)

藤原:うん(笑)。いや、誰か持ってるかなと思ったんですよ。

宮沢:誰かって俺しかいないじゃん(笑)。

藤原:だから、靴下もパンツも全然足りなくて(笑)。10日間の泊まりで二着しか持って行かなかったんで。

ーー宮沢さんから借りたんですか?

藤原:いや、靴下とパンツは衣装部さんにお借りしました…。

宮沢:「タオルかして」って言われて。僕、タオルだけはダメなんですよ。

ーーえ?なんでですか?

宮沢:1日ならまだいんです。でも10日間じゃないですか。二人分の水分を吸ったものを使うのは…。ちょっと…。

藤原:氷魚くんも、今日使うもの、明日使うものとストックを考えて持ってきているから(笑)。

ーー足りなくなってしまうと(笑)。

宮沢:洗濯行く暇もなかったので……(藤原に向かって)ごめんね。

藤原:いいよ(笑)。むしろ僕が悪いんだから!でも、そのうち「季節くん、歯磨き粉ないならあげるよ!」って1本。僕、歯磨き粉も持ってなかったので。歯ブラシはあったんですけど。

宮沢:歯ブラシとパンツ2枚と靴下でしょ?

ーーすごい身軽!いつもそういう感じなんですか?

藤原:そうですね。行ってから購入すれば良いかと思って。でも、今回は宿や現場近くに想像以上に何もなくて…。

宮沢:コンビニも往復1時間だったので。

藤原:氷魚くんは所々僕のガサツさに驚いていました。僕は多少ホコリがかぶったコップとか使えるんですけど、氷魚くんは「それ使うの?」って。

宮沢:ロッジにあったお皿とかいつ洗ったかわからないじゃないですか。虫もたくさんいるし。僕は一回洗いたいんですよ。でも、季節くんは平気で「食べる~?」って。洗わないんだーって。食べるけどさ(笑)。実は上しか食べてなかったよ。皿に触れてる部分は食べてなかった。

藤原:そうなんだ!(笑)紙コップとかお皿買ってたもんね。

宮沢:洗剤も匂い嗅いだ?多分ちょっと……(笑)。

藤原:傷んでた?(笑)確かにどれくらい放置されてたかもわからないもんね(笑)。

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ーーそんなに仲良くなられていたなら、最終日は寂しかったのでは?

宮沢:寂しかったんですけど、スケジュール的にも精神的にもしんどかったのもあって帰ってベッドで休みたいという気持ちでした。これだけ役にぶつかるというのも初めてだったので、ギリ限界だったかもしれません。

藤原:そうだね。僕はちょっと限界を超えてました(笑)。

宮沢:でも1日2日で、寂しくなりました。また白川町に行きたいなって。

藤原:離れてからなんですよね。失って初めて大切さに気づく。

宮沢:東京に馴染むのに時間がかかりましたもん。

ーーとても思い入れのある作品なんですね!貴重なお話ありがとうございました。

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ストーリー

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 春休みに江の島を訪れた男子高校生・井川迅と、湘南で高校に通う日比野渚。二人の間に芽生えた友情は、やがて愛へと発展し、お互いの気持ちを確かめ合っていく。しかし、迅の大学卒業を控えた頃、渚は「一緒にいても将来が見えない」と突如別れを告げる。

 出会いから13年後、迅は周囲にゲイだと知られることを恐れ、ひっそりと一人で田舎暮らしを送っていた。そこに、6歳の娘・空を連れた渚が突然現れる。「しばらくの間、居候させて欲しい」と言う渚に戸惑いを隠せない迅だったが、いつしか空も懐き、周囲の人々も三人を受け入れていく。そんな中、渚は妻・玲奈との間で離婚と親権の協議をしていることを迅に打ち明ける。ある日、玲奈が空を東京に連れて戻してしまう。落ち込む渚に対して、迅は「渚と空ちゃんと三人で一緒に暮らしたい」と気持ちを伝える。しかし、離婚調停が進んでいく中で、迅たちは、玲奈の弁護士や裁判官から心ない言葉を浴びせられ、自分たちを取り巻く環境に改めて向き合うことになっていく――。

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宮沢氷魚/ヘアメイク:スガ タクマ スタイリスト:秋山貴紀

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藤原季節/ヘアメイク:中村 兼也(Maison de Noche) スタイリスト:八木啓紀

『his』は1月24日(金)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー(配給:ファントム・フィルム)

(c)2020映画「his」製作委員会

テキスト:堤茜子

写真:You Ishii

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