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 この作品で世間にどう思われて、「あなたとはもう仕事しないです」と言われても、何の後悔もないーー日本の映画界を牽引する名匠・三池崇史監督がそう語るほど、愛情を感じているのは映画『初恋』(2月28日公開)だ。本作は、三池監督初のラブストーリーで、原作なしの完全オリジナル作品。『孤狼の血』(2018)『犬鳴村』(2020)をヒットに導いた東映の紀伊宗之プロデューサーから「やりたいことをやりましょう」と声をかけられ生み出した作品で、余命わずかなプロボクサー・葛城レオが、ヤクザに追われる少女・モニカを助けたことから起こる一夜の抗争を描いた物語だ。

 そんな思い入れの強い本作の主演に選んだのは、俳優・窪田正孝。タッグを組むのは、2008年に放映されたVFX特撮ドラマ「ケータイ捜査官7」以来約10年ぶり。再タッグに2人は何を思うのか、そして本作への熱い思いを聞いてきた。

三池監督作品に「自分がいない悔しさがあった」 窪田正孝、約10年ぶりの再タッグに喜び

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――10年ぶりの再タッグですが、どのように感じましたか?

三池崇史:(窪田に対して)コツコツと積み上げてきたなと感じました。役者として、一つ一つの役に正面から取り組んでく中で、認められ、掴み取ってきたものを感じました。なかなかいそうでいないタイプだと思います。でも得ですよね、彼は若く見える(笑)。普通そのコツコツが顔に滲んできちゃうのに、さわやかなままです。

窪田:いやいや(笑)。僕は呼んでもらえて、純粋に嬉しかったです。三池さんがいろんな現場でいろんな作品を残していっているのに、そこに自分がいないという悔しさもあったんです。いつかまた会うために、違うところでコツコツ頑張るしかないなと思っていました。
(現場では)どこか10年前に戻ったような感覚がありました。この楽しさは他の現場では味わえないです。自分の中で特別な目線があるのかもしれませんが、他にはないです。

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――三池監督からアクションシーンには指導があったと聞いたのですが、それ以外は「セルフでお願いします」ということだったと。それは以前から?

窪田:(笑)「ケータイ捜査官7」を撮影していたときもそうでした。「役はあなたのものだから、僕は撮るだけです」というスタンスは10年前から変わってないですね。ただモニカ役の小西(桜子)さんとは、役へのアプローチ方法などを話していて、僕は彼女と一緒にいるシーンが多かったので常に横で聞いていました。ワクワクすると同時に、自分に言われているような気持ちになりました。僕は彼女の純粋な部分には勝てない。三池監督にどんどん奮い立たされていく様を見て、10年前は自分も持っていたものなんだと感じました。真横で見させられて、一緒に芝居するのが怖い部分もありました。10年経って、変な垢がついてたり、技術に走ってると思われたらどうしようと。経験していくとその分なくなっていくものもあります。僕が一番理想としているのは「ケータイ捜査官7」をやっていたときなんです。芝居なんだけど、その先にある“めちゃくちゃ現実的な味がするリアル”を求めるのが理想です。

――当時、監督の現場で印象的だったことは?

窪田:「ケータイ捜査官7」のときは、手錠で縛られたり、泥だらけになったり。すごく遠くからカメラ構えてもらって、自転車でこけて、全力で走ってきてくださいとか。結構怪我してました。自分を追い詰めることでしか監督と向き合うことができなかったんです。そのかいもあって、今は安全第一でやることの大切さもわかりました(笑)。

――今回の現場では、安全第一?

三池:もちろん安全第一ですよ(笑)。

役者にとって必要な存在であり続けたい…三池崇史監督、窪田正孝への思い

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――窪田さんを主演にした理由は?やはり監督にとって特別な役者なのでしょうか?

三池:事実としてそうなりますね。だからと言って「頑張ってるね」とか電話したりメールしたりしないですよ(笑)。せいぜい別の現場で「同じ現場で今窪田くんとやってるんですよ」って話を聞いたら、「無理しないように言っておいて」って言うくらい。あくまでも監督と役者という立場です。大事なのは、彼にとって僕が必要な監督であり続けられるかどうかということです。「最近仕事ないんだけどさ、あなたを主役にすると企画が通るんだよね。ちょっと出てよ」っていうようなことだけはやめたい(笑)。お互いにそのときに必要と思える存在でありたい。そうすれば不思議とまた出会えるんです。
彼とはオーディションで初めて出会ったんですが、そんな乗り気じゃない感じで来てましたね(笑)。「ケータイ捜査官7」は放送が1年だったので、普通なら「チャンスだ!」って感じになると思うんですけど、そういうタイプではなかった。「いいんだろうか、これで」というような迷いがあった。だけど、僕としてはケイタという役をやって欲しかったし、「君は大丈夫。10年後に絶対答えはわかる」と思っていたので、そう彼自身にもスタッフにも伝えていました。
監督というのは、その人の人生の面倒を見る人ではなくて、面白い作品にしたいというエゴイスト。その後、どうなるかはわかりません。そういう関係なんです。そこは否定しません。俳優はその後、気に入らない編集をされても文句は言えない。だからこそ、出てくれた人が「出てよかったな」と思えるような編集をしないといけない。尺の関係で誰かのシーンを削るとしても、見た人が「あの人いいよね」と思ってくれるようにすることしか役者に対してしてあげられない。僕も意外とちゃんとやってるんですよ(笑)。

映画の世界を彩ったアウトローたちへ感謝を込めて「さらば、バイオレンス」

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――監督は本作に「さらば、バイオレンス」とコメントを寄せていますが、どういう思いを込めているのでしょうか?

三池:一つはこの作品の中で、かつての映画に出てきたいわゆる“ヤクザ”、高倉健さんをはじめ、ずっと演じられてきた“アウトロー”たち、は、もう存在しないんですよね。今、映画の中に彼らの住む場所はもうないんです。『初恋』のアウトローたちは歌舞伎町にかろうじて生き残っているけど、ひどい目にあってる。絶滅危惧種に近い。それでも自分なりの生き方を貫いていく。それは僕らがやりたいように映画を作れない状況とも似ていて、通じるものがある。「皆さんご苦労様でした」という気持ちを込めつつ、僕らはこの登場人物たちに哀愁、愛情を感じているんです。

――ヤクザ映画へのレクイエムということなんですね。

三池:ヤクザ映画とヤクザ映画に出てきたいろんな魅力的な男たち、役、設定とそれを演じた俳優たちへのですね。

窪田:僕は純粋に(ヤクザ役を演じた)染谷将太が羨ましかったです。内野(聖陽)さんとも後半のシーンでしかご一緒できなかったので、皆さんがどうやって演じたのか。組事務所にも行ってないし、モニカのいた部屋にも行ってないので僕は台本からしかそれを読み取ることができなかった。
レオは彼女に巻き込まれて、最後に彼女と旅に出るという役割を全うしなければいけない。言葉数も少なくて、拳でしか人と生きることができない、そんな彼だからできることがあった。そういう不器用な男・レオというキャラクターにやりがいを感じましたが、でもやっぱり客観的に見たら羨ましかったです。内野さんの刀とかかっこいいですもん。ずるいですよ!僕も銃ぶっ放したかったです!(笑)

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『初恋』はゴツゴツした感触の作品 三池監督「深い愛情を感じます」

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――海外からの反響も大きい本作ですが、どのような手応えを感じていますか?

三池:完璧なエンターテイメントは世の中に存在しないと思うんです。その中で、「よし、これだ!」って納得しちゃったら、それは引退に近いんじゃないかな。ただ、好きか嫌いかという判断で言えば、この作品は「大好き」です。この作品で世間にどう思われて、「あなたとはもう仕事しないです」と言われても、何の後悔もないです。そんな人とはやらなくていいよ、っていう。それくらいの愛情を感じています。
手応えはゴツゴツしていい感触です。ゴツゴツ感に深い愛情を感じます。感謝のような気持ちです。

窪田:僕はこれまで映画よりもドラマへの出演が多かったので、コンプライアンス的に “やってはいけない”ことの方が多いというのを感じていて、ここまで勝負している映画に、久しぶりに出会えました。媚びてない、自分たちの作りたいものを作ったこの作品が、こうやって海を越えて多くの人に届くことが嬉しい。この作品に出演できたことは役者冥利に尽きるし、ありがたい。
僕個人としても、30代のスタートで、三池監督とこの作品で一緒にやらせていただいたということはやっぱり大きい。今回の作品が今後にまたつながっていく。一個の大きな起爆剤になると思います。

ストーリー

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喜怒哀楽・すべてが詰まった、人生で最高に濃密な一夜を描く極上のラブストーリー。

 欲望うずまく新宿・歌舞伎町。天涯孤独のプロボクサー・葛城レオ(窪田正孝)は稀有な才能を持ちながら、負けるはずのない格下相手との試合でまさかのKO負けを喫し、試合後に受けた診察で余命いくばくもない病に冒されていることを告げられた。

 あてどなく街を彷徨うレオの目の前を、少女が駆け抜ける。「助けて」という言葉に反応し咄嗟に追っ手の男をKOする。が、倒した男は刑事! レオは懐から落ちた警察手帳を手に取ると少女に腕をひかれ現場を後にする。少女はモニカ(小西桜子)と名乗り、父親に借金を背負わされ、ヤクザの元から逃れられないことを明かす。さっきレオが倒した男は刑事の大伴(大森南朋)で、ヤクザの策士・加瀬(染谷将太)と裏で手を組み、ヤクザの資金源となる“ブツ”を横取りしようと画策中。その計画のためにモニカを利用しようとしていた。

 ヤクザと大伴の双方から追われる身となったレオは、一度はモニカを置いて去ろうとするが、親に見放され頼る者もいないモニカの境遇を他人事とは思えず、どうせ先の短い命ならばと、半ばヤケクソで彼女と行動を共にする。

 かたや、モニカと共に資金源の“ブツ”が消え、それを管理していた下っ端組員のヤス(三浦貴大)が遺体で見つかったことを、その恋人のジュリ(ベッキー)から知らされた組員一同。組長代行(塩見三省)のもとで一触即発の空気が漂う中、刑期を終えて出所したばかりの権藤(内野聖陽)は、一連の事件を敵対するチャイニーズマフィアの仕業とにらみ、組の核弾頭・市川(村上淳)らと復讐に乗り出す。ヤスの仇を自らの手で討ちたいジュリもそれに続いた。

 一連の黒幕と疑われたチャイニーズマフィアのフー(段鈞豪)もまた、売られたケンカを買ってシノギを乗っ取ろうと、モニカとブツの行方を追うために、構成員のチアチー(藤岡麻美)に命じて兵力を集めにかかる。

 ヤクザと悪徳刑事にチャイニーズマフィア。ならず者たちの争いに巻き込まれた孤独なレオとモニカが行きつく先に待ち受けるものとは……。欲望がぶつかりあう人生で最も濃密な一夜が幕を開けた!

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テキスト:堤茜子
写真:mayuko yamaguchi

(C)2020「初恋」製作委員会

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