「森友問題。佐川理財局長(パワハラ官僚)の強硬な国会対応がこれほど社会問題を招き、それに指示NOを誰れもいわない理財局の体質はコンプライアンスなど全くない これが財務官僚王国 最後は下部がしっぽを切られる。なんて世の中だ、手がふるえる、恐い 命 大切な命 終止府」(原文ママ)
2018年3月7日、学校法人「森友学園」との土地取引をめぐる公文書が改ざんされた問題が国会で激しく追及される中、自ら命を絶った財務省近畿財務局の職員・赤木俊夫氏(当時54)が最後に残したメモだ。また、手記には「国会を空転させている決裁文書の調書の差し替えは事実です」「元は、すべて、佐川理財局長(当時)の指示です。」「3月7日頃にも修正作業の指示が複数回あり、現場として私は相当抵抗しました」と、上からの指示を受けた様子が実名を含め克明に記されていた。
遺族は18日、これら自宅のパソコンに遺されたA4サイズ7枚と手書きのメモ2枚の公開に踏み切り、佐川宣寿・元財務省理財局長と国に損害賠償を求めて提訴した。代理人弁護士が会見で読み上げたメッセージの中で、赤木氏の妻は「夫が死を選ぶ原因になった改ざんは、誰が何のためにやったのか。今でも夫のように苦しんでいる人を助けるためにも佐川さん、どうか改ざんの経緯を、本当のことを話してください。よろしく願いします」と訴えている。
これらの手記を託されたのが、NHK大阪放送局の記者時代から森友学園問題を取材、19日発売の『週刊文春』に記事を寄せた相澤冬樹・大阪日日新聞論説委員だ。18日のAbemaTV『AbemaPrime』では、相澤氏を招いて話を聞いた。
■「切り捨てられてしまった」と感じ提訴に踏み切る
相澤氏がメモや手記に最初に接したのは1年4カ月前のこと。「今でもはっきり日付を覚えている。2018年11月27日だった。奥さんは私がNHKを辞めた経緯を知り、自分の夫と似たような境遇だと感じたらしく、“お会いしたい”と連絡をくれた。ただし、近畿財務局やマスコミが怖いということで、取材前提ではないということでお会いした。奥さんは当時のことを鮮明に覚えていて、語ってくれた。深夜残業が続き、会計検査院にまで嘘をつかされた。真面目な公務員としてやっていられない。だから異動の希望を出していた。上司も“たぶん大丈夫だ”と言ったらしい。ところが蓋を開けてみると、彼だけが残され、他のみんなが異動してしまった。奥さんに“ものすごくショックだ”と言ったという。ほどなく、彼はうつ病で休職、2度と職場に戻れなかった。ただ、僕はそんなに突っ込んだ話はできないと思っていた」。
そして妻は、すぐに今回の手記を出してきたという。「彼女の方から、いきなり“これ、ご覧になりたいですよね”と。『週刊文春』の記事で内容を知った皆さんの心を震わせるものだった思うが、私も本当にすごいものが遺されていたんだなと感じた。ただ、奥さんは“夫の遺志に沿うためには、これは出した方がいいだろう。でも出したらどうなるか。非常に怖く、なかなか出せない。だから記事にはしないでほしい。出されたら私は死にます”と言った。名がたくさん出ているし、財務局の人たちに迷惑をかけてはいけないという思いがとても強いようだった。私はその目を見て、これは本気だ、これは了解なしに出すことはできないと思った」。
それから1年あまり。妻と交流する中で、少しずつ心境に変化も生じてきたという。「“夫がわざわざこれを作ったのは、世の中に訴えたいからだろうな”と。確かに、そうでなければこういう書き方にはならない。世の中の人に知ってほしいから書いている。そして、改ざんはなぜ必要だったのか。誰が、どういうふうにして赤木さんに改ざんをさせたのか。あの土地取引は本当に正当なものだったのか、といった疑問も湧いてきた。財務省が出した調査報告書の内容にも納得がいかなかった」。
赤木氏の手記には、「すべて佐川元理財局長の指示であり、本省幹部が文書の改ざん範囲を決定し、改ざん範囲がどんどん拡大、修正回数は3、4回に及んだ」「大阪地検特捜部は事実関係を把握していた」「本省ではなく、近畿財務局の責任となるだろう」といった内容が含まれている。こうした点について妻は自ら関係者に話を聞くうちに、裁判を起こし、手記を公表せざるを得ないと考えたという。
「奥さんは“俊君にお詫びして、なぜこんなことをしたのか説明してほしい”と、弁護士を通じ佐川氏に手紙を2度送っている。しかし、佐川氏からは“行けません”ということならまだしも、一切返事がない。そして、それまでは話をしに来てくれていた財務局の人たちまで“もう行けません”と言い出した。“自分は切り捨てられたのか。結局、裁判しかない”と感じた。そして、最大の証拠である手記は裁判に提出するといともに、世にも問うた方がいいだろうという気持ちになっていった」。
その上で相澤氏は、今の妻の心境について、「個人への恨みやつらみでやっているわけではない」と強調する。
「例えば佐川さん個人が責任追及される格好になっているが、実は昨日、奥さんが“見たい”というので、佐川さんの自宅に案内した。ただ、佐川さんに会おうというわけでもなく、手紙も置かず、とにかくじっと見ているだけ。そして、“この街は幸せそうな街ですね”と言った。“だけど、佐川さんも佐川さんの家族も、きっともう幸せではないのでしょうね。佐川さんもかわいそう”と。つまり、訴えた相手だし、手記の中でも佐川さんが全て指示したと書かれてはいるが、もしかしたら佐川さんも何らかの指示、しがらみのなかでやらざるを得なかったのではないかという気持ちもあるということだ。そこも含めて全部知りたいという気持ちがある」。
■「弁護側は手記に出てきた全員の証人申請をする」
19日の国会では、手記に関する質疑が行われた。麻生財務大臣は「少なくともこの問題で一番問題なのは、文書の改ざんが行われたことが一番問題なので、これは深くお詫び申し上げなければならんところだと思っている」、財務省の茶谷官房長は「財務省としてはできる限りの調査を尽くした結果を示したものであり、新たな事実は見つかっていないと考えられることから再調査を行うようなことは考えていない」と答弁。
また、安倍総理は囲み取材で「真面目に職務に精励していた方が、自ら命を絶たれる、大変痛ましい出来事であり、本当に胸が痛む。改めてご冥福をお祈りしたいと思う。財務省においては麻生大臣の下で、事実を徹底的に明らかにしたところだが、改ざんは二度とあってはならず、今後もしっかりと適正に対応していくものと考えている」とコメントしている。
相澤氏は「今までは与野党も国民も“問題だ”という人たちと、“問題はなかった”という人たちが二つに割れ、議論も平行線をたどってきた。しかし今回は違う。この事件で亡くなった犠牲者の遺族が“あの調査報告書では納得できないと”声を上げた。国は当然、納得が行く説明をする義務があるはずだ。しかし財務省は“再調査するつもりはない”と直ちに明言した。“重く受け止め、検討させていただきます”みたいな曖昧な官僚答弁でもなかった。本当に許されない態度だし、正面きって喧嘩を売っていると感じた」と怒りを露わにする。
「手記には佐川さんはじめ、色んな人が実名で出てくる。例えば“次の財務事務次官”とも言われている、理財局長だった太田充主計局長。近畿財務局長だった美並義人東京国税局長。理財局総務課長だった中村稔駐英公使。不正に関わったと指摘されているこれらの人たちは、みな出世している。一方、不正を実行させられた赤木さんは死んでいる。このことに国民は納得するのか。弁護側は全員の証人申請をする。赤木さんの話が嘘だというなら、証明してくださいという話だ。また、中途半端な賠償請求額で裁判を起こせば、国は“あげます、だから裁判は終わり”としてしまう。だから向こうが認諾できないよう、あえて高い金額を設定し、法廷できちんと真相究明をしようというのが2人の弁護士の考え方だ。彼らは大阪で過労死問題を手掛けてきたので、遺族の願いが勝ち負けや賠償金ではなく真相究明だということもちゃんと分かっている。ぜひやってほしいと期待している」。
また、今後について相澤氏は「例えば麻生財務大臣が“俺は知らなかった”で済むことなのか。社員が不祥事を起こした企業の社長がそうは言えないだろうし、責任者として真相究明、再発防止の努力をしなければならない。そして、財務大臣の上にいるのは総理大臣だ。度合いは色々あるにしても、国政に対して、全く無責任だとは言えない。役所がやったことだと言うのなら、まさに政治家の責任において解明し、遺族が納得いくような説明をすべきだ」と訴えた。
ジャーナリストの堀潤氏は「これから裁判を闘うのは本当に大変なことだと思うし、本来は裁判にまでしなくても良かった話だったと思う。それを重く受け止め、真相を明らかにした上で、政治家と官僚、本庁と出先機関、キャリアとノンキャリといった関係、構造のあり方についてもメスを入れていくのが総理や大臣の責任だと思う」と話した。
▶映像:「佐川さんご家族ももう幸せじゃない...かわいそう」手記託された記者出演
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