「だからまだ貫く。こだわり見逃すな。だから聞き逃すな。今日も俺らリスナー」。週末の東京・渋谷。輪になって若者たちが興じるのが、頭に浮かんだ言葉を、韻を意識しながら即興のラップで表現する「フリースタイル」だ。お金や道具は不要、いつでもどこでもできてしまうのが魅力だ。「ノリで始まる。B-BOYとかラッパーたちのコミュニケーションツールだと思う」(Gold Libertyの大我)。
HIPHOP界のレジェンド・Zeebraは「サイファーといって、例えば渋谷サイファー、川崎サイファー、梅田サイファーなど、土地の名前で呼ばれている。何人か集まって、“ここでやろうぜ”と始めたところに、SNSなども使って若い子たちがどんどん集まってくる。もちろん、見にくるだけの子もいる。我々の世代では“恥ずかしくないの?”みたいな感じがあって、本気でやるという子だけだったが、今では誰でも“少しはやれる”みたいな感じになってきている」と話す。
「英語圏の場合、マザー・グースの童話でも韻を踏んでいて、“Nursery Rhymes”、幼稚園ライムというのがある。ビートルズの歌詞もそうだ。だから学校で詩を書くときも韻を踏む。我々が初めて日本語でラップを始めた時にぶつかったのが、文末だ。“です”とか“ます”で終わってしまうと、韻を踏むところがオチにできない。そこであえて体言止めにするよう、やり方を変えていった。今ではラッパー同士で飯に行くと、メニューを見ながらでもとにかく韻を踏みたくてしょうがない(笑)。皆うるさいくらい」。
1980年代、ヒップホップの流行とともに日本に登場したラップ文化。1999年には国内初の大規模なMCバトル「B-BOY PARK」が開催され、初代のチャンピオンにはKREVAが輝いた。また、2003年にはアメリカのラッパー・エミネム主演の映画『8 Mile』が大きな話題にもなった。その後、全国予選で都道府県の代表が闘う「ULTIMATE MC BATTLE」(2005年~)、第1回高校生ラップ選手権(2012年~)と、様々なイベントが立ち上げられた。
とりわけフリースタイル・ブームの火付け役となったのが、人気テレビ番組「フリースタイルダンジョン」(2015年~テレビ朝日系)だ。“モンスター”と呼ばれる7人の強豪ラッパーにチャレンジャーたちが挑戦、5回勝ち抜くと賞金100万円を獲得することができる。その熱い言葉のバトルは幅広い世代に影響を与え、とりわけ高校生の間では人気が爆発、在学中から活躍するティーンエイジャーラッパーも増えてきているのだ。
その一人、神奈川県横須賀市出身で、特大のリーゼントがトレードマークのベル(18)のバトルスタイルは「歩いたチャンプロード。関東節の喧嘩上等」と、見た目同様、昭和のヤンキー感を色濃く残した言葉で相手をディスる。2年前に先輩に誘われたことがきっかけでラップを始め、今では年間30本ほどのバトルイベントに出場するまでになった。
言いたいことを言えない人が多い中で、本音でぶつかり合えるのが1番の魅力だと話す。「真面目な子、ヤンチャしてた子、色んな人が同じ共通点を持って集まるから面白い。遊んでいて面白い時に色々なワードが出てくるので勉強になっている。毎日がパンチラインだ」。
全国のバトルに出場しつつ、楽曲制作にも精力的に取り組む注目の若手・Fuma no KTR(19)は、ユニークな方法で楽曲制作を行っている。「最初にトラックを聴く。その後、宇宙語でラップをする。そのあとリリックを当てはめる」。聞き心地を重視し、言葉のリズムを決めてから歌詞を当てはめていくのだ。
一度は諦めかけたラップの道。「嫁を妊娠させてしまって、仕事もしないといけないし、やらなきゃいけないこと増えるし、この先どうしようかな、って。ちょうど1年前ぐらいに辞めた、でも、働きもしないし、軽いうつ状態になっていて。俺も苦しかったけど、多分、嫁が一番困ってただろう」。それでも妻・ユイナさんは「好きなことしてる時が目が輝いている。だから続けてほしいなと思って。“やめなくていい”と言った」。
妻の後押しを受けて再びマイクを握り、月のライブ本数を3倍に増やし、楽曲も半年で40曲ほど作った。「復活してから本腰入れたっすね。もう俺は音楽で生きていくぞっていう。元々本を読むのが大好きなので、そこから自然と言葉が出てくることはある。頭の引き出しに書いたり、メモに書いたりするし、家では常に練習している。赤ちゃんをあやすときも自然とラップしている」。
いきなり相手に喧嘩を吹っ掛けるような印象を持つひともいそうだが、ベルは「そんなことはないし、ムカッと来た場合はラップで言いたいことを言う」と説明。Fuma no KTRも「勝者はどっちがいいこと言ったかで決まる。どっちが聞き心地が良いかで競いたいので、相手をけなすよりどちらがうまいかだ」とし、ベルと対戦したときのことについて「初めて会った時はラップをなめているのか?と思ってボコボコにした(笑)。でも、しゃべってみたらすごくいいヤツだった。2回目に当たった時は超ピースに、悪口も一切なく即興でラップをし合って終わり。」と話した。
そんな2人を始めとしたモンスター全員が10代というフリースタイルダンジョン高校生版「ハイスクールダンジョン」の見どころについて、Zeebraは「高校生同士の戦いなので、とてもみずみずしい。その違いを楽しめるのではないかと思うので、フリースタイルダンジョンのファンの方もぜひ見てほしい」と力を込める。ベルは「自分は結構気合いが入っていることをやりたいと思っているし、自分もそこら辺の人よりは気合い入っていると思っている。バチバチかましちゃうのでぜひ皆さん来てほしい」、Fuma no KTRも「僕たちを倒しに来てほしい」と呼びかけていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
▶映像:10代ラッパーがリリックに込める想いは!? Zeebraと考えるフリースタイルの現在地
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