2002年ごろの下北沢駅~松原駅周辺を舞台とする新アニメ「イエスタデイをうたって」が、4月4日から放送開始となる。漫画家・冬目景による独特なタッチのイラストと、男女の心を繊細に描くストーリーがどのようにアニメ化されるのか、原作ファンを中心に日増しに注目度を上げている。藤原佳幸監督は高校時代に連載を読んで以来、原作の大ファン。主人公・魚住陸生(リクオ)を演じた小林親弘も、あっという間にその魅力に引き込まれたという。放送開始前に2人に、原作への熱い思いを聞いた。
原作は今から20年前、「新宿にほど近い私鉄沿線の小さな街」からスタートする。大学卒業後、フリーターとして生きているリクオの元に、ヒロイン・ハル(野中晴)が登場。リクオが憧れた森ノ目品子、その品子に憧れる早川浪と、それぞれ思いを持ったキャラクターの心理描写が、実に繊細に描かれている作品だ。
-原作に初めて触れた時のことを教えてください。
藤原佳幸監督(以下、藤原) ジャケ買いです(笑)ハルがかわいかったんですよ。絵柄が独特で。そこに魅力を感じて手に取ってみたら、内容は言葉がすごく際立っていた。高校生の自分にとっては、大学生になったらこういうことを考えているのかとか考えていましたね。
小林親弘(以下、小林) 原作に触れたのは僕が35歳の時(現在36歳)です。俳優を目指して上京してきた1年目とか、思い出すんですよね。リクオの生活を見ていると。自分も電気、ガス、水道、全部止まったことがあるし。3カ月払えなくて、冬がもう寒くて(笑)バイトにも稽古にも行かなきゃいけなくて、家には寝に帰るだけ。公園で髪洗ったりしましたよ(苦笑)役者や芸人をやっている人って、結構ライフライン止まったりするんじゃないですかね。最初のシーンとか、めちゃめちゃ共感しましたよ。
-フリーターをしているリクオについてはどう思いましたか。
藤原 大学卒業したリクオがすごくお兄さんに見えました。等身大の人たちを描いているのを見て、こういう創作物、物語があるんだと驚きました。汚いアパートで一人暮らしだけど、それを見ても「一人暮らししてぇ!」って思いましたからね(笑)読み始めた時は実家暮らしだったし、アウトローというか普通じゃないものに憧れる時期じゃないですか。家賃払えなくてやばいのに、それすらかっこいいみたいな。普通というものがすごく嫌な時期があると思うんですが、ちょうどその時だったので、それにあがいている主人公もかっこよかったです。
小林 自分もまだ駆け出しのころは、バイトを3つぐらい掛け持ちでやっていました。薬局とか、携帯電話のお客様相談センターとか。接客業は苦手で…。たぶん演劇をやろうって人に、あまり陽キャはいないと思いますよ(笑)何かしら社会に後ろめたさというか、コンプレックスみたいなものを抱えている人は多いイメージです。リクオも写真をやってはみるものの、あまり周囲から評価されない。自分も芝居で同じ世代の人を見て、すごくうまくてキラキラしているのに、なんでおれはバイトしているんだろうと、すごく切なくなったことを思い出しますね。
藤原 熱量に対するコンプレックスというのは、すごくありますね。自分もアニメ業界なら、やれと言われたものをやらなきゃいけないことだってあるし、でももっとやりたいことをやりたいという気持ちがあって、でも自分の欲求ばかりが空回りする。努力がずっとできているかと言われればそうでもないし、頑張ったとしてもすぐには結果が出ないですからね。
-そう考えると、監督としてはこのタイミングで大好きな「イエスタデイをうたって」が手がけられることはとてもよかったですね。
藤原 タイミングはすごくよかったですね。いろいろな巡り合わせだと思いますけど。今までの下積みがあったからこそ、このタイトルで声をかけていただいたんだろうとも思っています。
小林 自分も20代のころに演じていたら、全然出せなかったものがあると思いますね。リクオと品子の関係も、日によって受け入れてくることがあるかと思えば、全然シャットアウトされちゃう日もあって。あれはどういう意味なんだと考えるところとか。「あの時、ああ言っていたからまだいけるよな」とか考えるのがすごくリアルなんですけど、自分にもそういう経験があったからで、演じる上ですごく手がかりになっています。
-複雑で切ない恋愛模様が深夜アニメで描かれると、寝る前に悶々とするファンが続出しそうです。
小林 本当にそうですね!もやもやしながら寝るんですもんね!(笑)
-耐えきれずに原作を読み出す方が続出するかもしれません。
藤原 いやあ、そうあってほしいです!冬目先生の原作と比べて見てもらいたいし、その後はアニメも何度も見て、DVDも買っていただければ、夢の劇場版も!(笑)
小林 もう1回撮りたいですよね。そう思える作品だと思います。
◆作品情報「イエスタデイをうたって」とは
1998年よりビジネスジャンプ~グランドジャンプ(集英社)で連載、2015年に完結した漫画家・冬目景による漫画作品。コミックスはシリーズ累計140万部を突破。現在も多くのファンに愛されている。
◆ストーリー
大学卒業後、定職には就かずにコンビニでアルバイトをしている”リクオ”。特に目標もないまま、将来に対する焦燥感を抱えながら生きるリクオの前に、ある日、カラスを連れたミステリアスな少女―“ハル”が現れる。彼女の破天荒な振る舞いに戸惑う中、リクオはかつて憧れていた同級生“品子”が東京に戻ってきたことを知る。
公式Twitter: https://twitter.com/anime_yesterday
公式サイト: https://singyesterday.com/
※品子のしなは木へんに品が正式表記
(C)冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会