2002年ごろの下北沢駅~松原駅周辺を舞台とする春の新アニメ「イエスタデイをうたって」が、4月4日から放送開始となった。漫画家・冬目景による独特なタッチのイラストと、男女の心を繊細に描くストーリーがどのようにアニメ化されるのか、原作ファンを中心に日増しに注目度を上げている。主人公・魚住陸生(リクオ)を演じた小林親弘が、第1話の放送を記念した独占手記を寄せた。
<小林親弘:独占手記>
「俺は社会のはみ出し者。結果が出るのが怖くて自分の体裁を守ってるだけだ。」リクオが自分を変えようと奮い立つ為に使った言葉だ。はじめて原作の漫画を手に取った時に、心を勢いよく殴られたような気になった。
役者という仕事を目指そうと思った時に、この「社会」に対しての負い目があった。それと同時に、人と比べてマトモじゃない道を選んだと思ったことへの愉悦や誇りのようなものも生まれた。結婚。就職。まっすぐに目標をかなえていく同世代の人々の活躍を見聞きする度に、「そんなにはやく人生を決めちゃっていいのかよ。レールに沿った人生が楽しいのかね。なんだかな―」なんてつぶやいて、何も成せていない自分の劣等感や羨望心を必死におさえ込んで、体裁を守ろうとした。
あれこれを考えていたらスタジオ近くの信号が青に変わった。第一話の収録がもうすぐ始まってしまう。横断歩道を渡る足取りが実に重かった。どの番組でも最初の収録はいつだって独特の緊張感があるのだ。皆はどんな声なんだろう、どうお芝居をするんだろう、自分は変に思われないだろうか、要望に応えなければ、良い雰囲気の現場になるためには、いや考えるんじゃない集中するんだ集中―…できねえ!あー!スタジオに入って台本に目を通すが色んな考えが頭をよぎって内容が全然入ってこない。
そうこうしていると出演者が揃い、藤原監督、音響監督の土屋さん、原作者の冬目先生から挨拶があった。
―ブース内が役者だけになる。
いよいよマイク前に立つ時。第一声は自分。テストの前のドキドキというか不安みたいなものはとんでもない。いやもうほんとに。スタジオ内に響きわたるくらい自分の心臓の音が大きく聞こえる。聴診器で聞いたら鼓膜が爆発するんじゃないだろうか。
自分がいつ喋りだしたのかは覚えていない。
だが「あたしにもちょうだい」という晴の台詞を聞いた瞬間にスッと心臓の音が聞こえなくなった。別に死んだわけではない。一気に作品の世界の中に連れて行ってもらえたのだ。
晴、品子、木下さん、福田。それぞれを演じる役者さんと台詞を交わしているうちに
収録は瞬く間に終わり、現実へと戻ってくることができた。
『イエスタデイをうたって』第一話いかがだったでしょうか。
きっとリクオだけではなく、晴や品子や浪たちそれぞれに寄り添って色々な気持ちになれる作品だと思います。是非是非これからも楽しんでくださいね!
第二話もお楽しみに…!
◆作品情報「イエスタデイをうたって」とは
1998年よりビジネスジャンプ~グランドジャンプ(集英社)で連載、2015年に完結した漫画家・冬目景による漫画作品。コミックスはシリーズ累計140万部を突破。現在も多くのファンに愛されている。
◆ストーリー
大学卒業後、定職には就かずにコンビニでアルバイトをしている”リクオ”。特に目標もないまま、将来に対する焦燥感を抱えながら生きるリクオの前に、ある日、カラスを連れたミステリアスな少女―“ハル”が現れる。彼女の破天荒な振る舞いに戸惑う中、リクオはかつて憧れていた同級生“品子”が東京に戻ってきたことを知る。
※品子のしなは木へんに品が正式表記
(C)冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会