新型コロナウイルスの感染拡大防止で“STAY HOME”をしている今こそ、自宅時間を使ってゆっくりじっくり連続ドラマを堪能したい。SNSを通じて同じ作品を見ているユーザーと繋がって感想を共有したり、展開にツッコんだり、ワイワイみんなで遠隔応援視聴ができたら一人の時間もなお楽しく、作品の理解もより深まるはず。現在テレビ朝日系とABEMAで放送中のドラマ『M 愛すべき人がいて』(毎週土曜よる23:15/ABEMAは24:05頃~配信)は、そんな“STAY HOME”ドラマとしてうってつけの作品といえる。
歌手の浜崎あゆみが現・エイベックス株式会社代表取締役会長CEOの松浦勝人氏と出会い、スターダムにのし上がるまでの史実をベースにした同名小説が原作。マルチに活躍する作家・鈴木おさむが『奪い愛、冬』(テレビ朝日系)『奪い愛、夏』(ABEMA)に負けずとも劣らない力加減で脚色し、単純なシンデレラストーリーに没しないエモーショナルなドラマに仕上げた。浜崎にあたる人物・アユをドラマ初挑戦の安斉かれん、松浦氏にあたる人物・マサを三浦翔平が演じる。
大筋はいってしまえば、ダイヤの原石が天才的な人物に出会い才能を開花させ、ときに恋に落ちながらもスターの階段を駆け上っていくという古今東西の昔からあるショービズもの。しかもモデルとなった人物は現在進行形で活躍中。それだけにおおよそのゴールが見える『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)のように全体を俯瞰して描くことはなかなか難しく、ファンだけが堪能できる礼賛物語の典型に陥るリスクも高い。
そこで『M 愛すべき人がいて』は大きな勝負に出る。二人三脚で大きな夢を掴み取ろうとするアユとマサの純真さ・情熱・絆は史実をなぞりつつも、フィクションとして世界観を再構築。エッジの効いたサブキャラクターをメリハリ要因として配置し、演出のノリや展開もあえてオーバーに、ときに「パロディ!?」と思わせる線のギリギリを攻める。そのギリギリ感が病みつきになる。
爬虫類を愛するA・VICTORY社長の大浜(高島政伸)、「です」しかセリフのない社長秘書(田中道子)、ブドウの粒をもぎ取って「マサの未来が見えるー!」と恍惚とする眼帯姿の秘書・姫野礼香(田中みな実)、流行を超越したいで立ちの音楽プロデューサー・輝楽天明(新納慎也)、スパルタ漫画に出てきそうなボイストレーナー・天馬ゆかり(水野美紀)ら異色のキャラクターは、演じる役者陣の振り切れた演技も相まって画面に登場した途端にネット上で話題沸騰。何かが起こるかもしれない…その期待感を高める描写と熱演は一見の価値ありだ。
ただイタズラに異色キャラまみれの“異界的現実”を表出するだけではマンネリ化して、いずれ食あたりを起こす。もちろん作り手側もわかっている。脚本の鈴木と演出家陣は、周囲の状況や登場人物たちがどんなに異様であってもアユとマサには真っ直ぐな道を歩ませる。その匙加減は絶妙。2人がひたむきであればあるほど、状況が盛られれば盛られるほど、夢を実現させるために絶対にブレない熱情とピュアさがより際立つ仕掛けだ。アユとマサが見つめる空にかかる虹は、そのパッションの具現化ともいえる。
主題歌は浜崎あゆみの不朽の名曲「M」。劇中には「BOY MEETS GIRL」「寒い夜だから」「DEPARTURES」「出逢った頃のように」などavex系ヒット曲が流れる。これら懐かしい楽曲の数々はオーバー30の耳と心を掴んで離さない重要な要素の一つであり、リアルタイムで触れていないデジタル世代には新曲として新鮮に聴こえるはず。ドラマを楽しむと同時に1990年代後半から2000年代前半のヒット曲に改めて耳を傾け、懐かしがったり、新たな発見をしたり、SNSで意見交換したりしながら一挙両得のドラマで“STAY HOME”してほしい。
テキスト:石井隼人