12月に“感染ピーク”のシナリオも、方法論の前に戦略の提示を…「沖縄モデル」の医療ブレーンが警鐘
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 今月31日まで緊急事態宣言が延長される中、政府は状況に応じて生活や経済活動の段階的な制限緩和を行うと明言。14日までに基準を示すとした。大阪府の吉村知事が経済活動再開に向けたロードマップを示した5日、同様に具体的な条件を示し、経済活動を段階的に再開する「沖縄モデル」を発表したのが沖縄県だ。

 この「沖縄モデル」の考え方とはどのようなものなのだろうか。また、他の自治体の指針ともなりうるものだろうか。8日の『ABEMA Prime』では、厚生労働省の技術参与としてダイヤモンド・プリンセス号の感染拡大防止対策にも取り組んだ、沖縄県専門家会議のメンバーの高山義浩医師(沖縄県立中部病院・感染症内科)に話を聞いた。

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■「“おじい・おばあを守るため”となれば真剣になる文化も」

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 4月30日に感染者が1人出て以降、新規感染者ゼロの日が続いている沖縄県。累計感染者は143人で死者は5人、新型コロナ専用病床は225床で入院患者56人(7日現在)というのが現状だ。

 「とりあえず4月の大きな波は過ぎたというように考えている」と話す高山医師。現時点で感染拡大を抑え込めている理由について「“なんくるないさ”という県民性だと思われているので意外かもしれないが、一致団結する時は結構すごい。台風が上陸の時には物が飛ばされて周辺に迷惑がかけないように心がけるし、特に“おじい・おばあを守るため”となれば真剣になる。そういう文化はあるかもしれない。入域するには空路・海路になるので、空港にはサーモグラフィーを設置し、発熱者を見つける作業はしている。ただ、実際にはすり抜けてしまう人も多いので、県内で発生した患者さんにしっかりと検査を実施し、隔離にご協力いただく。濃厚接触のあった方には外出自粛をお願いしていく。そういうことを地道にやっていくことが一番大切だ」とした。

 ただ、医療体制についての懸念は他の自治体と変わらないようで、「“風邪症状のある方には全部PCR検査をやればいい”とおっしゃる方もいる。流行規模が大きくなれば風邪というだけで実施しても、効率的に患者を発見することができるようになるので、流行規模によって検査対象は変わってくる。ただ、沖縄県では1日に平均2000人の方が医療機関を受診しているが、検査ができるのは最大で1日に300件くらい。医師が必要と思われる患者さんに対してはきちんとPCR検査ができている状況だが、さすがに全員に検査をする体力はない。やはり検査対象を絞り込み、より疑わしい患者に実施するということが必要だ。また、マスクとガウンが不足しているので、医療従事者がゴミ袋を被っている医療機関もある。決して余裕があるとは言えない」と明かした。

■「地政学的な特徴は台湾やニュージーランドに近い」

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 これらの状況をもとに高山医師が取りまとめた「沖縄県における新型コロナウイルス対策」では、各国の対策を3パターンに分類している。1つは長期戦略でワクチン開発をゴールとするイギリス、フランス、ドイツ、スペイン、イタリア、そして日本も含まれる「コントロール路線」、次に徹底検査と隔離を行う中国、韓国、台湾、シンガポール、ニュージーランドなどの「封じ込め路線」、最後がスウェーデンやブラジル、アメリカの一部などの「拡大許容路線」だ。

 高山医師は「日本はほぼ“コントロール路線”を取ってきたと思うが、これは社会的な介入の強さを柔軟に変更しながら、リスクコミュニケーションに合わせて調整していけるというメリットがある。ただ、介入の強さの調整に失敗すると一気に感染爆発が起き、医療崩壊につながるリスクもある。そして、対策をだらだらと続けていく長期戦になることが避けられないので、ある程度の医療提供体制を有する先進国においてのみ選択できる戦略だと思う。経済的活動が制限されない拡大許容路線を喜ぶ人もいるとは思うが、一方で高齢者や基礎疾患のある方、マイノリティの方を中心に多数の死者が出てしまうというデメリットがある。日本でこの路線を取ることは難しいと思うし、やるべきではないと私は思っている」とした上で、沖縄での対策については「「沖縄では封じ込めが一番理屈としては分かりやすい」と話す。

 「沖縄の場合、地政学的な特徴は台湾やニュージーランドに近い。入口は那覇空港ほぼ一つなので、とにかく感染者を徹底して発見して隔離するという“封じ込め路線”を取ることができる。ただ、経済とのバランスもあるので、他の自治体が沖縄と直ちに同じようにすべきではない。リスクコミュニケーションの進行度合いでも変わってくる」。

■「エアコンが普及しているので、真夏に再び流行も」

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 また、高山医師の提言には、衝撃的な“流行シナリオ”も盛り込まれている。今回(4月)の流行が収束したとしても、8月に小さな山、そして12月には4月を上回る流行が来るのではないかというものだ。また、流行は来年の8月にも起こり、ワクチンの接種はその後でようやく始まるの可能性も示唆している。

 高山医師は「これはシナリオであって、想定ではない。この波に耐えられるよう、関係者は呼吸を合わせて対策を取ろうと呼びかけるためのものだ」と断った上で、「これで流行は終わりだと思い込んでいる市民もいる。そうではなく、ウイルスというものは免疫のない私たちに何度でも挑戦してくる。一旦は日本から消えていくということを期待してはいるが、やはり海外との交流がある以上、いずれは持ち込まれるという覚悟が必要だ。私たちが冬に風邪を引きやすいのは、コロナウイルスが季節性の“冬風邪ウイルス”で、締め切った環境で暮らしがちだからだ。それで12月に対策をした方がいいということで書き込んだ。その意味では、他の自治体でも起き得るシナリオだと思う。8月にも流行の波が来ると書き込んだのは、沖縄はエアコンが普及していて、閉め切った環境になりやすいからだ。実際、沖縄ではインフルエンザが夏にも流行する。そうしたことを強調し、意識合わせをしておかなければ、大変な目に遭う可能性がある」。

■「若者たちの活動は少しずつ促進」

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 こうした意見も踏まえて作成された、「沖縄モデル」とも呼ばれる今回の「経済活動再開へのロードマップ」ではフェーズを3段階に分け、それぞれの領域における活動の目安を示している。移行の基準について、高山医師は会見で「新規患者数が10万人当たり、週当たり1人未満となっている、入院患者数が10万人当たり1人未満となっている、そして感染経路不明の患者が少なくとも7日間確認されていないこと。感染経路不明の患者が少なくとも14日間確認されていないということを満たしていけば、本格的に県民の皆様の活動が再開できるのではないか」と説明している。

 これに従えば、現状は「活動自粛」期にあたり、次に「段階的な活動再開」を経て、「活動再開」に移っていくという3段階が想定されている。また、次のフェーズに移行するためにクリアすべき具体的な基準値として、新規感染者数と入院患者数、感染経路不明者数を設定している。

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 「“段階的な活動再開”の時期には、低リスクの若者たちの活動は少しずつ促進しつつ、ハイリスク者の活動については自粛をお願いするという考え方だが、場合によっては、すぐに“活動再開“に移行する可能性もある。日本国内での流行が収まれば、もちろん観光客も歓迎するが、発生している地域からの渡航自粛は求め続けることになる。ただ、強制力はないので、お願いをしつつ、空港で発熱者をピックアップするということが限界だと思う。今のところ、まだ県民も“なんくるないさ”なのかもしれないし、事業者の方々も“どこまでこれに付き合ったらいいのか”と思っていらっしゃるだろう。ただ、医療現場の方々としては、これなら持ちこたえられるのではないかと考えて下さっている方もいると思う」。

 また、ロードマップに抗体検査を入れていない理由については「検査の結果、抗体価があったとしても再感染もあるかもしれないし、重症化しないだけのものかもしれない。そういう中で自由に動き回られると、逆に感染を広げてしまうリスクもある。現時点ではどれくらい感染防御できるのかはまだ分かっていない、海の物とも山の物ともつかない抗体検査をこの指標に入れることは難しい」と説明した。

■「戦略をきちんと示せば、自ずと基準も見えてくる」

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 オンラインサロン「田端大学」を主宰する田端信太郎氏は「3.11の後、“原発が動いていないので停電するぞ”ということで節電が流行ったが、いつの間にか誰もしなくなった。医療従事者の方々にリスペクトの念を抱いていることを前提であえて言うが、今回も“医療崩壊するぞ"と言っているが、“大丈夫ではないか、何のためにやっているのか”と自粛が緩み、うやむやになっていってしまうのではないかと感じている。ニューヨークやイタリアのようにはならなかったのは悪いことではない。ただ“人の噂も七十五日”ではないが、そろそろコロナを扱っても視聴率が取れなくなってくるかもしれないし、大衆は警鐘を鳴らす人を“オオカミ少年だ”と思うようになるのではないか。結局、目の前で人がばたばたと死なない限り、良くも悪くも飽きてくると思う」と指摘する。

 高山医師は「私も2月の初旬くらいまでは、“武漢があのような状態になったのは、医療体制や感染対策が不十分だったためではないか、本当にやばいウイルスなのだろうか”と思っていた。しかしクルーズ船から運ばれてくる患者さんを診ていて、そうではないと思い始めた。そしてニューヨークや北イタリアでの流行を見て、日本もきちんとした策を打たなければ同じ状態になると理解した。このまま“オオカミ少年”と言われて終わるのが一番いいが、それは対策を取ったからだということでもある。今日、症状が改善して退院される患者さんをお見送りしたが、“こんなにきついんだったら、毎年インフルエンザにかかった方がましだ”と言っていた。それほどきつかったようだ」とコメント。

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 「今回のようなロードマップは、自治体が各地域の実情に応じて作っていくべきものではないか。また、それ以前に政府や地方自治体の長は、どの路線を選択するのかを、明確に説明する必要があると思う。そして、その戦略の違いが方法論に現れてくる。例えばPCR検査について論争が起きているが、“コントロール路線”で行くなら一定の流行は許容するので重症者優先の検査を考えることになるし、“封じ込め路線”で行くなら徹底的に検査して隔離すべきということになる。また、“拡大許容路線”、集団免疫で行くなら経済優先なので検査はいらないということになる。やはり戦略をきちんと示せば、自ずと基準も見えてくるはずだ。それがないから人々が混乱している」。

 さらに「4月は沖縄県でも色々なものを犠牲にして、なんとか封じ込めに達成した。これと同じことを第2波、第3波が来た時にもやり続けることができるかというと、難しいと思う。だからこそ私たちは新型コロナウイルス感染症のある世界で一緒に生きていくということを理解し、新しい家庭、企業、学校などをつくっていく必要があると思う。例えば私たちは脳梗塞を起こしてしまった患者さんに対して、“何ができなくなったのか”を説明するのではなく、“それでもどんな楽しい人生を作っていくことができるか”を説明する。そのようにして、新しい暮らし方に楽しみを見つけ、豊かにしていくことも大事だ」と訴えた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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