韓国の金大中大統領と北朝鮮の金正日総書記が史上初の南北首脳会談を開催し、「南北共同宣言」を出して20年目の節目となった15日。「長い断絶と戦争の危機まで辛うじて乗り越えた今の南北関係を、再び中断してはならない」と述べ、南北は手を取り合うべきだと強調した文在寅大統領。
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しかし、翌日に北朝鮮が行ったのは、南北共同事務所の爆破だった。朝鮮中央テレビのアナウンサーは「クズどもに対して、我が人民の憤怒した懲罰熱気を込めて、完全な破壊措置を実行した」と、強い言葉で韓国を批判。“ほほえみ外交”“南北融和の象徴”もいわれた金与正第1副部長は「もはや南朝鮮当局者たちは、我々とは何もできない」と発言している。
2017年の就任当初から南北融和、そして統一を掲げ、3度にわたり金正恩委員長との南北首脳会談を行った文大統領。平壌では共に冷麺を食べ、金委員長との蜜月ぶりをアピールしてきた。しかし、2019年2月、ベトナム・ハノイでの米朝首脳会談決裂を境に北朝鮮は韓国側の呼びかけに答えなくなり、関係は停滞を続けている。
慶應義塾大学・現代韓国研究センター長の西野純也教授は韓国側の対応について「そもそも“韓国にアメリカ軍がたくさんいることが朝鮮半島の軍事的緊張を高める一つの要因になっている”というのが文大統領の安全保障認識だ。在韓米軍を調整し、南北関係を改善させることで朝鮮半島の緊張を緩和させるという基本的な路線は変えないと思う。ただ、今回の挑発に韓国世論も非常に悪化しているので、思い切った融和策が取れないのは間違いない。それでも“今は忍耐の時だ”とある会合で言っていたし、北朝鮮が直接的な軍事行動を仕掛けてくるといったことがない限り局面の転換を考えながら南北関係改善に向けてメッセージを発信し続けるだろう」と予測。
その上で、「文大統領としては、米朝関係が劇的に進んだのはトランプ大統領だったからこそ。米朝関係、朝鮮半島情勢を考えれば、北朝鮮同様、トランプ大統領には再選してほしい。一方で、トランプ大統領の行動は予測可能性が低い。最近では北朝鮮問題に関心を失ってしまっているし、受け入れられないほど法外な額の在韓米軍駐留経費を突きつけている。ただ、在韓米軍や米韓同盟の存在がますます大切になっている局面でもあるので、しっかり繋ぎとめておきたいという思いも強くなっていると思う。そこで文大統領としてはアメリカとのコミュニケーションを密にしようと意識的に行い、“北朝鮮とぜひ話してくれ、可能ならば制裁の一部を解除してくれ”と働きかけることがありえると思う。北朝鮮に対しても、“ちょっとここは怒りを抑えて、私が頑張るのでアメリカとちょっと話してみないか?”というような、橋渡し的な役割をしようとするだろう。ただ、最近の状況を見ていると、韓国がその役割をするのは限界にきていると言わざるを得ない」との見方を示した。
では、今回の北朝鮮の行動はどのように解釈すればいいのだろうか。西野教授は「北朝鮮からすると、トランプ大統領は与しやすい相手だと思っているので、再選してほしいと思っている。ただ、挑発すると何をしてくるかわからないというところがある。一方で、文大統領は南北関係を重視し、関係改善、融和という方針を変えないだろうと考えられるので、心おきなく挑発できる。いわば韓国からすれば足元を見られてしまっている側面があるということだ。ただ、連絡事務所があったのは北朝鮮側の領土だし、非武装地帯への軍の進出も過去に北朝鮮も韓国もやっていたこと。そういうことを十分に計算し、直接的な被害が出ない形での挑発をしているというところがミソだと思う」と指摘。
一方、「韓国政府や専門家の方々は“何があっても耐え抜いていく”という北朝鮮の長期戦の決意は堅いと見ているが、自らの力で経済的な危機を乗り切っていくことは難しいと思うし、外部に敵を作ることによって内部的な結束を図るという狙いもあると思う。金与正第1副部長からも、挑発の“予定”が発表されているので、それらは着々と行われると思う。ただ、それ以上のものをやるかはわからない。いずれにしてもアメリカとの関係さえしっかりしていればいいということで、南北関係改善は常に優先順位が極めて低い。その意味でも、中国に後ろ支えしてもらう。北朝鮮が思い詰めて“戦争だ”となった時にも、まず中国が“ちょっと待て”となだめる役割をしてきたし、これからもするのだと思う。中国にとっても、朝鮮半島で戦争が起こり、そこにアメリカが介入してくるのは悪夢に等しい。その意味でも、北朝鮮の息の根を止めることができる、生かすことができるのは中国だ。だからこそ、韓国も日本からすれば中国にべったりと思われるほどに頑張っている」として、中国が重要なプレーヤーになるとの認識を示した。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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