24日、当時高校生だった女性に性的暴行を加えるなどした疑いで男が逮捕された。事件が起きたのは今から15年前の2005年7月。時効成立まで1カ月を切っての逮捕だったことが注目を集めている。
・【映像】時効事件の被害者家族「死のうと思うくらい悔しかった」
犯罪に関わる「公訴時効」とは、犯罪行為が終わってから一定期間が経過すると起訴が許されなくなることだ。しかし、なぜこうした定めが存在するのだろうか。
25日の『ABEMA Prime』では、刑事弁護を扱う弁護士と、夫がひき逃げ被害に遭い重傷を負うも時効を迎えた女性に話を聞いた。
■時効という制度が存在する意味
実は刑事訴訟法にはその説明はなく、司法関係者の間では「(1)時の経過により犯罪の社会的影響が低下して、処罰の必要性が減少する」「(2)時の経過により証拠が散逸して適正な裁判ができなくなる」「(3)長期にわたり処罰されないという状態、犯人の立場、安定性を重視するべき」といった理由が通説となっているという。
深澤諭史弁護士は「これらの解釈では説明がつかないとの批判がある。(1)については、時間が経ったからといって被害者の気持ちが薄れるわけではないし、むしろ大きくなることもあるし、(2)についても、様々なものがデジタルで保存できる時代に果たしてどれだけ妥当なのだろうかという疑問だ」と話す。
一方、(3)については「処罰する権限を持っているのは被害者ではなく、あくまでも国家権力だ。そして、この権限も無制限のものではない。つまり、ずっと国家が処罰しない状態が続いた末に、不意打ち的に処罰をするというのはアンフェアではないか、また、無罪だと思っていても被疑者、被告人の側から裁判を起こすことはできないという不安定な状態の調整を図るという考え方がある」として、次のように説明する。
「確かに真犯人だったとすれば、“逃げ切れればいい”ということになってしまうとも言える。ただ、冤罪、身に覚えない罪だとすればそうではない。例えば30年前、50年前の事件で起訴され、“この日のアリバイがあるのか”と聞かれ、言える人がいるだろうか。あるいは釈放された後も、定期的に警察の取り調べを受けるような人生がずっと続くとしたらどうだろうか。そう考えれば、時効という制度にも意味があるのではないかと思う」。
他方、2010年4月の刑事訴訟法改正では、「人を死亡させた罪」のうち殺人罪や強盗殺人など、最高刑が死刑のものについては時効(25年)
が撤廃されるなどしている。
「この時の改正も、先ほどの3つの理由とのバランスを考えているとみられる。法定刑が重い罪は時間が経ったからといって社会的影響が小さくなるとは言えないということ。大きな事件であれば、証拠もたくさん集めて厳重に保存をしているはずだということ。非常に重要な刑罰に関わるものであれば、短期間で国家の処罰の権限を消滅させる必要はないだろうということだ」。
■時効の壁に苦しむ被害者や家族
しかし、殺人や強盗殺人などの凶悪犯罪でなくても、時効の壁に苦しむ被害者や家族・関係者が数多く存在することも事実だ。
気田光子さんの夫・幹雄さん(36歳)は1979年1月、路上で倒れているところを発見された。ひき逃げに遭ったとみられ、脳に重度の後遺障害が残った。1984年1月、当時5年だった時効が成立。そして2017年6月、73歳で幹雄さんは亡くなった。
「主人は特例が付く障害者になってしまった。自賠責保険だけ使わせてもらったが、あとは全て自己負担だった。経済的にすごく大変で、主人の夢も、子どもたちの夢も失くしてしまった。だから時効を迎えた時は、悔しいという気持ちで胸が張り裂けそうだった。これからやっていく自信がなくなって、死にたいと思うくらいだった。どこまで捜査が進んでいるのか、警察に何度も行ったが、時効が過ぎてからは、あまり受け付けてもらえなくなってしまった」。
ひき逃げの被害者の会でも活動する気田さん。今の気持ちについて尋ねると、次のように胸の内を明かした。
「脳外科に何年も入院していたので、もちろん主人は苦しんだし、私も、子どもたちも大変な思いをした。加害者のことは今でも許せないし、初めは夫と同じような苦しみを与えてほしいとも思った。ただ、主人も亡くなったし、恨みはそれほどない。もしかしたら主人にも何か非があったのかもしれない。だからせめて、“こういうわけで、こういう状況になってしまった”というだけでも聞きたいと思う。最近も警察に行ったが、“もう40年も経つから当時の書類もなくなっている。全然分からないから諦めなさい”と言われたが、私たち家族からすれば、諦めることはできないし、“気田さんも苦しいかもしれないが、相手も苦しんでいる”とも言われたが、加害者は何ら制裁も受けない。時効とは何のためにあるのか。加害者の安定性を考えるのであれば、被害者になった人の安定性は、誰が、どういう形で保障してくれるのか」。
ただ、時効廃止反対派の意見は「長期間が過ぎ、裁判で被告側はアリバイ立証が困難に」「犯人にも事実上の社会関係が成立している(家庭や仕事など)」「全事件に長期的な捜査本部や捜査員配置は無理」「真犯人が時効で名乗り出なくなり、冤罪被害者が救済されない」という声もある。(2009年・日本弁護士連合会の意見書より)
こうした意見について、深澤弁護士は「事件が永久に残るとすれば、限られた人員の中で捜査を続けなければならないという問題もあるが、捜査機関が“これはもうちょっと捜査をすれば分かるかもしれない”と判断することもできると思う。法律で年数をきれいに切らなければいけないことでもないと思っている」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
▶映像:時効事件の被害者家族「自分も死にたいと思うくらい悔しかった」
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