毎週火曜日深夜1時26分から放送されている番組「フリースタイルダンジョン」。挑戦者のラッパーは、フリースタイルバトルで“モンスター”に扮した辣腕MC4人と“ラスボス”を倒してダンジョンをクリアすると100万円を獲得できる。当初はヒップホップファンを中心に人気を博していたが、そのバトルの激しさ、人間模様などが話題を呼び人気番組となった。今回は「フリースタイルダンジョン」ファンを公言している俳優の浅野忠信と中村獅童、そして番組オーガナイザーのZeebraによる鼎談をお届けする。
■こんな番組観たことない!
Zeebra 浅野くんが「フリースタイルダンジョン」を観てくれてるのは、スタッフの間でも話題だったんですよ。いろいろと大変なことが多い番組だけど、その情報は本当に嬉しくてマジで心の支えになってました(笑)。どういうキッカケで観始めてくれたの?
浅野忠信 Twitterで話題になってたんですよ。一回観たらすぐにハマって、毎週録画予約するようになりました。観られる時は生で観てます。地上波のテレビでフリースタイルのバトルをやる番組なんて、観たことなかったので衝撃でした。
中村獅童 僕も同じような感じ。夜中にたまたまテレビを点けたらZeebraくんが出てたから何気なく観始めたら、すごい面白くて。
Zeebra 2人はもともとヒップホップ好きだったの?
浅野 普通に好きですけど、そんなに詳しくないし、素人ですよ。あ、でも小学校の頃に「ブレイクダンス」って映画に影響されて、地元のダンスチームに入れてもらったことはありました。だから、実は僕、B-BOYなんですよ(笑)。
中村 僕はRun-D.M.Cの「Walk This Way」がヒップホップの入り口だったな。もともとエアロスミスが大好きだったから、すごく衝撃を受けたのを覚えてますね。
浅野 あと昔、いとうせいこうさんがCMでラップしてたんですよ。それがカッコよくて僕もすっごい真似してましたね。中学校でラップしまくってました。
■この判定は逆だろう!?
ーー「フリースタイルダンジョン」はフリースタイルバトルを気軽に楽しめる工夫がたくさんありますよね。
中村 うん、わかる。僕は妻と一緒に観てますよ。
Zeebra そうなんだ、嬉しいな(笑)。確かに「フリースタイルダンジョン」はいろんな部分でバランス感を重視してて、例えば審査員なんかはヒップホップのオリジナル世代であるいとうせいこうさん、一般的な目線を持ったLiLyさんと、フリースタイルバトルの実力者であるERONE、KEN THE 390、晋平太っていうメンツを揃えたんです。
浅野 僕はフリースタイルのこと全然わからないんで、納得いかない判定も多いですよ(笑)。
中村 「この判定は逆だろう!?」とかね。
Zeebra あははは(笑)。「フリースタイルダンジョン」は3ラウンド制だからドラマが生まれやすいんですよ。1回負けたりすると、どうしたって劇的になっていく。そこがいろんな人に受けてる理由の1つだとも思います。で、ドラマ的リリックや雰囲気を重視すると、時として判定を理解しづらくなることもあるでしょうね。
だけど挑戦者もモンスターもバトルですごく高度なラップスキルをやり取りしてる。そこはやはり見逃してはいけない部分で。だから、バトルの実績がある人たちに審査員に入ってもらって、わかりやすく、かつ説得力をもって解説してもらってるんです。
ーーモンスターはどのように人選したんですか?
Zeebra 般若を“ラスボス”にするっていうのは最初からなんとなく頭にあったんです。それで最初に浮かんだのが、高校生ラップ選手権のスター・T-PABLOWを特攻隊長に、いまやノリにノっているR-指定をオールラウンダーにってこと。そこをベースにもうちょっとバラエティに富んだメンツにしたくて。MCバトルってじゃんけん的なとこがあるんですよ。
浅野 どういうことですか?
Zeebra じゃんけんは、グーはチョキに、チョキはパーに、パーはチョキに、っていう違う個性のぶつかり合いで勝敗が決まりますよね。MCバトルもラッパーの個性でバトルの相性が決まるとこもあって。だから挑戦者を迎え撃つモンスターは多様である必要があったんです。
中村 僕は漢さんが好きですね。
Zeebra 漢はモンスターのキャスティングをしている時に、知り合いづてに「漢が出たがってるらしい」と聞いて。だったら、こっちはぜひ出てもらいたいんでオファーしました。
漢はギャングのボスみたいですよね。般若、T-Pablow、R-指定、漢となった時に、ジョーカーのような存在が欲しくなったんです。サイプレス上野にはそれで入ってもらったんですよ。
浅野 上野くんは僕と同じ横浜出身ですからね。同郷の先輩としていつも見守ってますよ。時にはテレビの前で叱咤激励してます(笑)。
■DOTAMA vs R-指定のバトルは即興芸術
中村 さっきZeebraくんがドラマとテクニックの話をしてたけど、“DOTAMA vs R-指定”のバトルなんかはそれが両立してたんじゃない?
Zeebra この戦いは即興芸術のレベルにまで達してるんじゃないかな? 二人の頭が回転しまくってるのがビシビシ伝わってくる。
浅野 DOTAMAさんは楽しいですよね。このバトルも兄弟ゲンカみたい(笑)。「お前がそれ言うなら、こっちもこれ言っちゃうよ」みたいな。
Zeebra 彼はいわゆる一般的イメージのヒップホップとは真逆のスタイルなんですよね。でも実は昔から日本のMCバトルには常にああいう存在がいて、そいつが不良たちをガンガン負かしていくんです。
中村 芝居の脚本では、喧嘩や言い合いを書くのが一番大変と言われているんです。なのにこの2人は即興であんな面白いやり取りをしてる。本当にすごいと思うな。台本だったら覚えるのも大変(笑)。
Zeebra たまに八百長とかいう人もいるけど本当に無理なんですよ。あんな台本は書けないし、そもそも八百長だったら現場もあんな雰囲気にはならない。
浅野 僕なんかはヒップホップっぽい言い回しがわからないから、そういうのが多い人は正直つまんなくて好きじゃないんです。この2人はヒップホップっぽくもあるんだけど面白くて。だからすごく熱くなれたし、飽きずにずっと観ていられました。
Zeebra ラップはずっと同じ音程でお経みたいに歌ってると思われがちだけど、実は「フロウ」ってものがあって、強弱をつけたり、音程を変えたりしてる。R-指定なんかはそこを巧みに使い分けてるから、飽きさせないですよね。
■漢さんの作るご飯は美味しそう
浅野 僕は“輪入道 vs 漢 a.k.a. GAMI”のバトルが大好きです。漢さんが本領発揮したバトル。この日の漢さんは、今までなんで負けてたんだっていうくらいすごかった。
Zeebra もともと彼は危ないリリックの多いラッパーで、テレビ的にずっと自粛してたんです。これは本人も言ってたけど、左手だけでボクシングしてるようもんで。
浅野 そういう勝ててない時でも、漢さんは手料理とか振舞ってたじゃないですか(笑)。それ観て「この人、めちゃ怖いけど、実はすごい優しい人なんだろうなあ」って思ってたんです。僕は漢さんにすごい懐の深さを感じてたんですけど、それはきっと彼の根っこの部分が優しいからなんですよね。だからこの試合で漢さんが勝った時、本当に嬉しかった。あんまり怒んないけど火を点けちゃったら誰も敵わないんだな、って。
中村 彼には安心感がありますよね。一緒に無人島行っても頼れそう。90年代にいたアイスキューブみたいな、怖いんだけど面白い。面白いんだけど怖い。っていう独特な雰囲気。
浅野 あと漢さんは美味しいご飯を作れそうだけど、ほかのモンスターはそういうの無理そう(笑)。
中村 わかる! 漢さんが作ったカレーは食べたい(笑)。
■大衆は熱くなってるものを観たい
中村 あと“焚巻 vs 般若”のバトル。僕はもともと般若さんのことを知らなくて。番組でもずっと面白い雰囲気だったから、この戦いを観てびっくりしましたね。本当に感動しました。
浅野 これは生で観たかったですね!
Zeebra 般若は漢、サイプレス上野、R-指定、T-PABLOWという4人の強豪ラッパーを勝ち抜いてからじゃないと登場しないラスボスとして存在だったから「もしかしたら出番はないもしれないね」なんて話してたんですよ。そしたら意外とすぐ出番がきちゃって。でも、般若はこの戦いで僕が求めていたものを完全に見せてくれた。それは絶対負けない最後の壁。完璧でしたよ。
中村 僕も含めて大衆は熱くなってるものを観たいと思うんですよ。日本人はお祭りが好きで、そこに行くと血が騒いだり、魂のぶつかり合いに感動したり、笑ったりできる。
Zeebra この番組に挑戦者として登場するラッパーたちには、音源を出してない人も多くて。彼らにとってはバトルがすべてで、例えばライブが音源と違い現場でしか出せない感覚があるように、生である事に拘ってる。そういう意味ですごく盛り上がりやすい環境なんでしょうね。
浅野 この試合では彼らにしか歌えないことを歌ってるんだなって感じましたね。僕は素人だから同じような言い回しはやっぱり飽きちゃうんです。この番組を観てると、特に若い人たちは1回ヒップホップっていう枠を飛び出したほうがいいのかなって思うんです。1回飛び出してそこで得たものを持ち帰って、その人にしか歌えないことをラップで歌った時、この試合のような感動が生まれると思う。僕はそういう瞬間をもっと観たいですね。
■ヒップホップは生き様が前に出る音楽
中村 僕、去年「あらしのよるに」という新作を作ったんです。そもそも歌舞伎は長唄や常磐津に合わせて演技する音楽劇なんですね。その中で義太夫って音楽があって、これは登場人物の心の声を代弁するもので。「フリースタイルダンジョン」でバトルを観て「ラップは義太夫だよな」って思ったんですよ。「あらしのよるに」も義太夫で作ってて、言葉は現代語にしたんです。そしたら若い子も結構観に来てくれて、爆笑してくれたりもすんですよ。ラップと歌舞伎にも通じるものがあるのかなって。
ーー歌舞伎のセリフで韻を踏むことはあるんですか?
中村 ありますね。(中村)勘三郎兄さんが以前Bunkamuraシアターコクーンでなさった公演では、ラップを実際に取り入れたりしてましたよ。そもそもせいこうさんは義太夫の稽古してますよね?
Zeebra うん。せいこうさんには日本語とラップの親和性に関する持論があるからね。そこを突き詰めてるんだと思う。
ーー最後に今回の鼎談の感想を。
中村 好きな番組だったんで仕事って感じじゃなく楽しめましたね。人間模様とかバトルとかがすごく面白いので、ヒップホップに全然興味ない人でも楽しめる番組になってもらいたいですね。
浅野 僕は審査員として出たいです(笑)。
Zeebra ぜひぜひ! ヒップホップって人としての生き様がすごく前に出てきちゃうジャンルなんですよ。その分、他の音楽とは楽しみ方が違うとこもあるから、この番組を通じてそういうところも感じ取ってもらえると嬉しいですね。たぶんそこがわかると、MCバトルじゃないヒップホップもより楽しく聴けると思いますよ。
取材・文・構成 / 宮崎敬太
「フリースタイルダンジョン」
テレビ朝日にて毎週火曜日深夜1:26より好評放送中。
そして『フリースタイルダンジョン』はAbemaTVでも配信中!
もっと3人の鼎談が見たい方は4月13日(水)深夜2時00分からAbemaTVで放送予定の『フリースタイルダンジョン』をチェック!