5月20日(金)に公開された押井守監督最新作『ガルム・ウォーズ』。実写作品でありながら、アニメ的要素も随所にみられる本作を、AbemaTIMESのアニメ編集者と押井守をこよなく愛するライターが鑑賞。20代後半の両名は『ガルム・ウォーズ』に何を観たのか? 00年代に押井守作品にどっぷりとつかった両名の議論は、どこから来てどこへ向かっていくのだろうか? 世代論を交えて語りつくします。
※本記事は作品のネタバレを含みます。
若手押井ファンと作品の出会い
加藤(AbemaTIMESアニメ編集者):早速ですが、“若手”押井守ファンの僕らがどんなタイミングで押井守作品と出会ったか、語っていきましょう。僕ですが、『機動警察パトレイバー THE MOVE』と同い年なんですよ。
佐伯(押井守をこよなく愛するアニメライター):いきなりきますね(笑)
加藤:わかる人には、これで充分伝わったかなと。いきなり雑談ですけど、2008年にあった「パトレイバーオールナイト」に行きまして。トークショーで出渕裕さんたちが「『パト1』からもう20年近く経ちましたよ。やべーな」とか話していましたね。そこからさらに10年近く……。
佐伯:た、確かに……。
加藤:そんな『パト1』と同い年の僕ですが、押井作品との出会いは『攻殻機動隊』でしたね、クールジャパン旋風もありましたし。決定的だったのは2004年の『イノセンス』です。高校受験が終わった後に観に行きまして、多感な時期でもありましたから、これをきっかけに『天使のたまご』や『ご先祖様万々歳!!』など、とにかく押井守作品を観ました。『スカイ・クロラ』の公開時、押井守が「若い人たちに言いたいことがある!」ってことで「よし、聞きに行くぜ!」みたいな感じで劇場に。確かにメッセージはありましたよね。
佐伯:いつも同じことばっかりしてないで、挑戦してみたら、みたいな。
加藤:その押井さんは、毎回同じことをやってますけどね!
佐伯:確かに(笑)
加藤:それで、佐伯さんはどうですか?
佐伯:僕は『赤い眼鏡』と同い年なんですよ。
加藤:『赤い眼鏡』とタメって、なかかなコアですね(笑)
佐伯:出会ったきっかけも、「ケルベロス・サーガ」シリーズの『人狼JIN-ROH』でした。公開前に押井守特集をケーブルテレビでやっていたんですよ。『赤い眼鏡』とか『ケルベロス-地獄の番犬』とか。10代の当時は面白いとは思いませんでしたけどね。
加藤:でしょうね。
佐伯:でも、プロテクト・ギアのインパクトは記憶に残ってましたね。ハマったきっかけは、これまた『イノセンス』公開前の押井守特集でした。『うる星やつら』や『攻殻機動隊』などを一挙放送してて。もちろん「ケルベロス・サーガ」シリーズも。改めて観直すと「あれ?この監督すごいかも?」 と思うようになって。あと、やっぱりクールジャパンの流れだと思うんですけど、話題作『マトリックス』のウォシャウスキー姉妹(当時は兄弟)に、リスペクトされているって知って。気づいたら貪るように作品を観まくり、そのテンションで『イノセンス』を劇場に観に行って、完全にファンになってしまった、という感じです。
加藤:僕らの年代で押井守にハマるポイントは『イノセンス』のようですね。
佐伯:ですね。
加藤:振り返って考えると、クールジャパンは「海外で日本人が評価される」という流れがあったと思います。野茂選手が大リーグに行ったあたりから始まって、アニメでも『もののけ姫』の大ヒットがあり。
佐伯:日本人のつくるものって、意外と海外でも通用するんじゃないか?みたいな。
加藤:その流れでアニメも評価されてだんだん一般化したように思えます。『イノセンス』が公開された2004年という年も、宮崎駿の『ハウルの動く城』や、大友克宏の『スチーム・ボーイ』が公開されていましたし。この年は、象徴的な年だったかもしれませんね。
佐伯:2001年の『千と千尋の神隠し』のアカデミー賞受賞で、下地も出来上がっていましたしね。
加藤:その中でも『イノセンス』は頭1つ抜け出ていたように思えます。映像作品としての完成度としても、押井守という作家性という意味でも。
佐伯:『イノセンス』は、内容的にも衝撃を受けた作品でしたからね。救助した女の子の「人形になりたくなかったんだもん!」ていうセリフに対する、バトーのセリフとか。
加藤:あれって「人間より人形」ってことですよね。軽く常軌を逸してますよね(笑)
佐伯:そういうところも、押井作品の魅力ですね。余談ですけど押井守ってだいたい2作目で独自性を思いっきり出してきますよね。『うる星やつら』や『パトレイバー』にしても、『攻殻機動隊』の2作目である『イノセンス』にしても。1作目はエンターテイメント性を重視して、ヒットしたら2作目でやりたいことをやる。
加藤:そんなところがあるように感じますよね。
『ガルム・ウォーズ』を見終えて
加藤:率直に第一印象はどうでした?
佐伯:まず思ったのが「見やすい映画だな」っと。押井守作品にしては、という意味でもありますが。難解ではありますが、ストーリーが追いやすくて。
加藤:押井守監督って手を変え品を変え毎回同じことをしますよね。だからこそ今回は「え!そこ行くの?」って感じがあって面白かったです。
佐伯:持論ですけど、押井作品には、2つの柱になるテーマがあって。1つは「境界線」。
加藤:ああ、「人間と人形」、「虚構と現実」、「戦争と平和」のような境目を。
佐伯:ですね。で、もう1つは「ルーティーンとそこからの開放」かなと。
加藤:というと?
佐伯:わかりやすい作品だと『うる星やつら2ビューティフルドリマー』とか『スカイ・クロラ』ですね。同じようなことを繰り返す世界を前提に、そこから一歩踏み出すこと。世界の成り立ちを知って、その上でどうするのか……。
加藤:となると、『ガルム・ウォーズ』は両方をかなり明確にやっていますよね。
佐伯:しかも、ストーリーはシンプルにまとめられていると思います。
加藤:本作はファンタジー作品ということで。
佐伯:ファンタジー作品って、もともとは風刺を目的としたものなんですよね。例えば『指輪物語』や『ガリバー旅行記』がありますが。現実世界を語っても、ただの批評になるじゃないですか。だから「架空の世界をつくり、その中で現実世界を物語る」わけです。
加藤:とはいえ、出てくる用語は難解さがありますね。「ダナン」とか「アンヌン」とか「ガイア」とか。犬は「グラ」ですよね。これ、どういう世界なんですかね?
佐伯:大枠ですけど、創造主・ダナンがなんらかの目的をもってつくった世界ですよね。8つの部族がいて、しかも異なる特徴を持っている。多分、彼らはそれぞれに世界における役割を担っていたのかな、と。でも、ダナンがいなくなったことで戦争を始めて部族は滅ぼし合っている。でも、1つの部族が滅ぶということは、世界の構成要素がまた1つ失われる、ということですよね。生態系の崩壊というか。
加藤:あと、もう1つ重要なのは、ここでいう部族が人ではない、ということですよね。主人公も含めて。登場人物は、すべて形式番号がついているクローンであること。また、死んだとしても、記憶を引き継ぎ、新しい肉体となって生き続ける。
佐伯:ここは、さっき言ってた「ルーティーン」の部分ですね。
加藤:で、彼らがそこで何をするかというと、……言ってしまうと、すごく『風の谷のナウシカ』に似ていませんか?
佐伯:あ、それ僕も言おうと思っていました(笑)!
加藤:映像的にも巨人が出てくるシーンがありますよね。あと、部族が存在して対立していること。そして、『ナウシカ』ではユパが言っていましたけど、「どうしてこの世界がこんなことになっているのか。それを確かめたい」みたいな。
佐伯:実際、カラたちはそれを確かめに行きますからね。
加藤:主人公のカラのマスクもナウシカっぽいですし。考えれば考えるほど『ナウシカ』に似ているなと。というか『ナウシカ2』 じゃないですか?
佐伯:押井守がつくる2作目のナウシカ……ということですね。
――と2人の議論が『ガルム・ウォーズ』=『ナウシカ2』なのではないか、というところに行き着いたところで。後編へ続く。
『ガルム・ウォーズ』絶賛公開中。
(c)I.G Films
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