新型コロナウイルスの猛威が続く中、政府の対応について批判する書き込みの中には、「民主主義なやり方では決断が遅い」「国民への締め付けが強い国がコロナを早く克服した」といった意見もみられるようになった。
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外出・休業について“自粛要請”という形で協力を呼びかけざるを得ない日本。これに対し、中国では問答無用で都市をロックダウン、さらにテクノロジーを用いて国民を徹底監視することで感染者や濃厚接触者などを特定し、感染拡大の抑え込みを行った。
東京大学の宇野重規教授は「民主主義は意思決定に時間がかかるが、それに比べ独裁は合意を取り付ける手続きを省略することができるので、コロナのようなパンデミックへの対応において有利に働いた側面があるのではないかという議論はある。中国の場合も一党独裁体制なので、個人の人権やプライバシーにもかなり踏み込んだ決定をすることができる」と話す。
深センでスタートアップを立ち上げた吉川真人氏は「深センは都市封鎖まではいかなかったが、中国人か外国人かに関わりなく、至る所でQRコードを読み込ませ、いつ誰がどこで何をしていたのかを徹底的に管理していた。また、14日間にわたって隔離され、外に出たら本当に捕まるんじゃないかという雰囲気もあった。“日本はなぜ中国に学ばないんだ?”と周りの中国人が言っていたし、自分もそう思った。悪い行いをしない限り損することはないと思うし、あらゆる所でデータを取られているので、むしろ悪いこともできなくなっているという印象がある」と話す。
「民主主義の未来研究会」メンバーの矢吹公敏弁護士は「必ずしも民主主義が遅いというわけではない。例えばフランスでは国家緊急権というものが憲法で定められているので、それに基づいて衛生緊急事態法を作り、あっという間にロックダウンして外出禁止にし、違反者には罰金を科すことをした。もちろん立法府の中での議論も経ている」と説明。
「一方、中国では国家安全維持法を制定するなど、人権を制限し、非公開の裁判で審理を行うということもする。報道の自由や政治活動の自由、集会の自由、もっと言えば思想信条の自由まで制約することにつながる。国連の人権規約では、よほどの事態で、緊急性が真に必要とする場合においてのみ人権は制約できることになっているし、思想信条の自由までは制約できないことになる。そして、人権を重視している国、例えば北欧の国々は幸福度が非常に高い。これこそが民主主義の根本だと思う」。
また、慶應義塾大学の夏野剛特別招聘教授は「社会主義的な体制と民主主義的な体制の違いというよりも、中国の場合は指導部が経済面で結果を出し続けてきたからこそ、強権的なことをやっても支持されているという現実があると思う。基本的に内需で食っている国なので、少子化などによって成長が維持できなくなった場合、今の体制がそのままの形で維持できるだろうか。その点は考えなければならないと思う」と指摘した。
では、日本の民主主義の現状をどう考えればいいのだろうか。イギリスの調査機関が選挙過程、多元主義、政府の機能、政治への参加、政治文化の5項目から評価している“民主主義レベル”のランキングを見ると、中国が153位、北朝鮮が再開の167位に対し、日本は24位(次いでアメリカが25位)となっている。
矢吹氏は「コロナでスウェーデンは失敗気味だが、質の高い民主主義を志向しているという意味で上位だ。日本の順位については安倍政権が原因ではないかと言う人もいるかもしれないが、実は私たちの問題でもある。市民の政治参加、民主主義の文化、選挙の評価が低い。つまり戦後75年経って、本当の意味で日本に民主主義が根付いているか、そういう疑問だと思う。逆に、選挙のプロセスでは公平・透明性が保たれているし、政府がそれなりに効率的に機能している。また、自由な権利も保障されているということは評価されている」と話す。
元経産官僚の宇佐美典也氏は「私は憲法が想定した政治システムが行われているのが一つの基準じゃないかと思っている。憲法上、国会の権限を強く設定しすぎた結果、むしろ国会が完全に骨抜きにされ、それ以外のところで事実上の意思決定が行われるシステムが発達してしまっている。自民党の総務会や政調会で行われるのが本当に議論であって、その後に国会で法案が修正される機会は少ない。官僚時代、僕の書いた法案の条文が一字一句変わらず通っていくので、“これが民主主義か”と衝撃を受けた。やはり国会で条文を議論するのが本来の姿だと思うし、そのためには憲法改正もした方がいいと思っている」とコメントしていた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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