「15年の歳月は無駄じゃない」大反響の劇場版アニメ「Fate[HF]」最終章、杉山紀彰&下屋則子からファンへ送るメッセージ
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 ついに8月15日(土)から劇場公開が始まった『劇場版「Fate/stay night [Heaven's Feel]」III.spring song』。公開初日にはTwitterトレンド上位に「Fate」「Heaven's_Feel」が登場し続けるなど、衛宮士郎(CV:杉山紀彰)と間桐桜(CV:下屋則子)の物語の終幕は数多くのファンから反響を呼んでいる。興行通信社より発表の8月15日から16日の全国映画動員でも、見事1位を獲得した。

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 今回、ABEMA TIMESでは、同作にて主演を演じる杉山紀彰と下屋則子にインタビューを実施。2006年から士郎と桜を演じ続けた2人に心境を聞いた。

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―― 『Heaven's Feel(以下、HF)』第三章の劇場公開、本当におめでとうございます。2014年7月に行われた「Fate Project 最新情報発表会」で『HF』の劇場アニメ化が発表されてから第三章の公開まで、約6年が経過しました。この歳月の中で『Fate』シリーズやキャラクターに対する印象に変化はありましたか。

下屋:2014年の時点でもう、派生作品も含めていろいろな桜を演じさせていただいておりました。『HF』のストーリーももちろんよく知っていましたが、須藤友徳監督が描く『HF』というものに触れたときに「印象が変わったな」という感覚があります。劇場版『HF』は原作に忠実に描かれている映像作品なのですが、映像化にあたり須藤監督が描きたかった想いを描くため、オリジナルで追加されたシーンもありました。

 たとえば第一章冒頭の桜と士郎の出会いがそうなのですが、2人がどういう時間をともに過ごして、どのようにお互いにとって大切な存在になっていったかということが丁寧に描かれています。第一章から第三章にかけて須藤監督が作品で伝えたかったことを共に作り上げていく中で、私もより桜に近づけたような、理解が深まった感覚がありますね。

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杉山:キャラクターに対して、大きく変わった印象はありません。士郎が最後に導き出した答え、それに至る方法が他のルートと毛色の違う『HF』ですが、それも衛宮士郎という人間なりの“正義”に対するアプローチのひとつのカタチなのであって、決して桜以外の他人を助けることがどうでもよくなったというわけではないと考えています。優先順位がより明瞭になったということなのかな、と。

 『HF』の劇場映画化が決定したとき、正直に言うと劇場版という限られた尺で原作のボリュームを表現することは難しいのではないかと危惧したんです。士郎と桜の話のみにフィーチャーして映像されるのかなと考えていたのですが、蓋を開けてみるとそうじゃなかった。士郎と桜の物語に付随する登場人物たちが秘めていた想いや願い、そういったものも含めてすごく丁寧に描いてくださっていた。須藤監督がおっしゃるには、原作ゲームをプレイしたあとの“読後感”を『HF』を見終わった方にも感じていただけるように工夫したそうです。

 映画の限られた尺の中で、付随するキャラクター、世界を構成する登場人物のことまでものすごく掘り下げて、なおかつノベルゲーム特有の言葉の多さを映像に落とし込んだっていうのが、もうすごいなって感動しましたね。

■桜だけのための“正義の味方”を演じて

―― 先ほど杉山さんもおっしゃっていましたが、『Fate/stay night』で描かれる3ルートのうち、『HF』で士郎が目指す“正義の味方”の姿は、他のルートとは異なる部分があると思います。

杉山:正義の味方っていうのはどこに視点を置いて見るかによって全然違うもので、場合によってはまったく相反するものにもなり得ると思います。士郎は他のルートではより多くの人を助けるために少数の人たちを犠牲にしたり、自分自身というものを優先しなかったり。『HF』においては「身近にいるひとりすら助けられないで、その他大勢を助けることはできるのだろうか?」という考え方が根幹にあって、士郎の目指す“正義の味方”像は「正義を成すには身近な人たちひとりひとりを幸せにしていかなきゃいけない」というところなのかなと捉えています。

下屋:『HF』の士郎は多くを助けるのではなく「一番身近で大切なひとりを助けられなくて何が正義の味方なんだ」ということに気づくんです。士郎が桜を守ると決意してくれた過程もそうですし、決意したからにはそれを貫き通すという意志の強さは本当に素敵だと思いました。

 どうにかして絶対に桜を救おうと第三章でどんどんボロボロになっていく士郎の姿、そして杉山さんの熱演を後ろから見ていて「もういい、もういいから逃げてっ…!」って思ってました(笑)。

 第三章では士郎たちが桜を「救えないかも」って思ってもしょうがないような絶望的な展開が何度も訪れるのですが、それでも絶対に士郎は諦めない。ひとりのための正義の味方になるって決めた士郎の意志が熱く描かれているのが本当に印象的で、その選択をしてくれた士郎の気持ちがうれしいなって思いました。

―― 第二章で描かれた「レイン」(士郎が桜だけの“正義の味方”になるという決意を表したシーン)も心理描写がとても丁寧で素敵でした。

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下屋:桜が今までひた隠しにしてきた、士郎には知られたくない自分の真実を明かす印象的なシーンでした。何度も何度も士郎を突き放しても最後には抱きしめて受け止めてくれた士郎。最後の「帰ろう」というセリフにはすごく温かみを感じましたね。

杉山:「レイン」のシーンが終わって帰ってくる途中、2人はとアーチャーとすれ違うんですけど、あれも僕にとってすごく印象的なシーンで、『Unlimited Blade Works(UBW、遠坂凛ルート)』で士郎が選んだ道とは明確な訣別を表しているのかなと思っていて。

 アーチャーはいつも小言を言うキャラクターですが、あのシーンでは士郎に対して何も言わないんですよね。だから『HF』で士郎が選んだ価値観に対してアーチャーは、助言こそしないですけれど、黙認しているというスタンスなのだろうと。

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■-マキリの杯-の姿となった桜は「特に難しい役どころ」

―― いつもの桜と、-マキリの杯-の姿となった桜の演じ分けについて教えてください。下屋さんはご自身の演技を振り返って、杉山さんは横で聞いていてどう感じられたかを教えてください。

下屋:いつもの桜は感情を抑えていて「私なんか……、そんなに前に出ちゃいけません」みたいな、常に控えめであろうとしています。私もそれを意識して演じていますし、だから感情が大きく振れることのない女の子のように見えると思います。-マキリの杯-の姿になったことによって、これまで蓋をしてきた感情が溢れ出てきて、強い力を得たことで自信もついた桜は「私だってこんな力を手にした!」と周りに見せつけるような、そんな気持ちで演じました。

―― 同じキャラクターの隠された面が溢れ出たような設定ですよね。ただ人格が切り替わった演技よりも複雑だと思います。

下屋:ただ、第三3章のアフレコの最初のテスト収録のとき、その自信の表れを「テストだし振り切っとこう!」と思って演じたら、ちょっと士郎でも救えなさそうなレベルになってしまって(笑)。

杉山:全員に「もうダメだ救えない」って思われちゃいましたね(笑)。もうちょっと「もしかしたら助けられるかも?」と思わせてほしい、みたいな演出指示はありましたね。

下屋:なのでそこはちょっと調整しました。でも、一度振り切った演技をやってみておけば、そこから抑えていくことはできますし。

 桜の気持ちがMAXになる瞬間っていうのが第三章の物語の途中で出てくるので、そこはもう思いっきり演じさせていただきました。

杉山:第三章の桜っていうのは、特に難しい役どころだと思うんです。絶望感・悲壮感、自暴自棄さ、これらをすべて飲み込んで、冷徹な怒りに変えて、あらゆるものを破壊したいという衝動に駆られている桜というキャラクター。「このシーンから人格が変わります」じゃなくて、会話の途中で激しく行ったり来たりする。やっぱりそれを演じるのはすごく大変だと思います。

 僕は第二章のラストの流れを踏まえれば、下屋さんの(最初の振り切った)演技プランでも全然間違っていないと思いますが、単体の映画として第三章を見たときに、桜に救済があるのかないのか、須藤監督をはじめスタッフの方々が「どちらの結末に行くのかまだ分からない雰囲気を残しておきたい」という考えがあるんだろうな、と。そのすごく絶妙なさじ加減をスタッフさんとお話しながら、下屋さんは丁寧に演じていらっしゃった。桜はひとつの台詞・シチュエーションがあったとしても、それに対する答えが受け取り手・演じ手次第でものすごいバリエーションがあるような役どころでしょうし、すごく大変だっただろうなと思っています。

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―― 須藤監督をはじめとしたアニメ制作スタッフの方から受けたディレクションについて、教えてください。

杉山:僕たちはみんな最初のTVアニメからとても長い期間を通してキャラクターを演じさせていただいているので、本当にお互い信頼しているんです。基本的には僕たちが考えてきた通りの演技プランを受け入れていただくことができて、その上で要所要所でのニュアンスの指示のみがあった感じです。

 士郎に関して言うと、オルタとなったセイバーと戦うって決めてからの心持ちが、周りもビックリするくらい切り替えができている。「仕方がないから戦うという雰囲気が一切感じられないように」というディレクションをいただきましたが、他のシーンではあまりディレクションはなかったと記憶しています。

下屋:ディレクションはあまりなかったですね。基本的に私達役者に任せてくださっていました。先ほど杉山さんがおっしゃってくれましたが、第三章で豹変する桜を演じるにあたり確認が必要な箇所は聞くようにしていました。

杉山:とても綺麗な絵コンテを見ながら収録させていただいたのですが、やはり完成版の映像とは異なるので。どのくらいの明るさで、どのような音楽や効果音が入って、どのような表情変化があるのかといったことを須藤監督はものすごく綿密にプラン立てていらっしゃった事が、試写を見せて頂いて本当によく分かりました。下屋さんは桜の見え方・魅せ方みたいなものを含めて、スタッフさんと非常に細かくディスカッションされていた印象がありますね。

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■15年という歳月、応援し続けてくれたファンへ「作品に込められた意味を余すことなく見届けて」

―― 『Fate』シリーズは長く続いている作品ですが、近年ではスマートフォン向けRPG『Fate/Grand Order(FGO)』から入った新しい世代のファンも多いように見受けられます。そういう方へ『HF』の魅力をお伝えするとなると、どのような点を挙げられますか?

下屋:FGOでも馴染みのある「聖杯」「聖杯戦争」という言葉。その、聖杯や聖杯戦争はなぜ必要だったのかということが、いよいよ『HF』の最終章で明かされます。第二章でかなり衝撃的なラストを迎えて、桜に対して「このヒロインらしからぬヒロインは一体何なんだ?!」という驚きはきっとあったと思います。士郎と桜が、そして周りのキャラクターたちがどんな答えを導いていくのか。すごく見ごたえのある物語が展開されていきます。是非『Fate/stay night』という『Fate』シリーズの原点となっている物語を知っていただいた上でさらに『FGO』を楽しんでいただけたらうれしいなと思います。

杉山:『Fate』シリーズにはいろいろな派生作品があって、いろいろな入り口があるのはとても素敵なことだなと感じています。『FGO』から入られた方にも、原点である『Fate/stay night』の物語を観ていただいて理解していただくと、『FGO』でなぜこのような演出になったのか、奈須きのこ先生が仕込んだ小ネタや、士郎がなぜ千子村正と重ねて描かれているのか……そういったところまで深く理解でき、より『FGO』の世界観も深く楽しめるようになると思います。

 もしまだご覧になっていらっしゃらない方がいらっしゃったら、原点となる3つのルートを観ていただいて、そして終幕となる『HF』第三章まで観ていただくことで、『FGO』にもう一度戻ったときに「あ、これそういうことだったのか!」とより理解できて、クスッと笑えるポイントも増えます。是非『Fate/stay night』の物語も楽しんでいただきたいです。

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―― ありがとうございます。最後に劇場版「Fate[HF]」第三章の公開をずっと待ち続けていたファンに向けてメッセージをお願いします。

下屋:まさかの真夏の公開となってしまいました。本当に、長らくお待たせしました。私たちが関係者試写会にて大きいスクリーンで完成版を観たときの興奮と感動と同じものを、皆さまにもお届けできると確信しています。最終章まで見届けていただいた先にどんな感想を抱いてもらえるのかすごく楽しみで、どこかでそれを聞ける機会があったらうれしいです。

 『Fate』というシリーズがここまで来られたのも本当にファンの皆さまのおかげです。今回『HF』を本当に素晴らしい形で映像化してくださったufotableの皆さまにも、ファンの皆さまにも本当に感謝の気持ちでいっぱいです。是非最後まで、この物語を楽しんでいただけたら。よろしくお願いします!

杉山:『Fate』シリーズは本当に長く関わらせていただいている作品です。今では『Fate/stay night』が世に出たときには産まれていなかったくらいの年代の方にも楽しんでいただけているようですね。シリーズ初期から応援し続けてくださった皆さんがいたからこそ、これだけの時間をかけて3つのヒロインのルートすべてを映像化することができたのだと感じています。

 映画の須藤監督自身もひとりのファンとして『Fate/stay night』に親しんでいた方です。作品を愛して、桜というキャラクターを深く理解してくださった方が時を経て、アニメ制作会社に入社されて、やがて『HF』をufotableさんの優れた描写力・技術力を総動員して作ることになる。この流れって、生まれて1~2年の作品ではあり得ないことなんですよね。だからこの15年という歳月は決して無駄ではないと思います。でもそれが実現できたのは初期から応援を止めないでくださった皆さんがいたからこそ。そういう意味でも僕はこの作品に関わらせていただけたことを光栄に思っています。

 『HF』の映像に須藤監督が込めた想いというのは、1秒の映像に1秒分しか(想いが)入っていないというわけではないんですよね。1秒のうちに二重にも三重にも意味を込めて作っていらっしゃるので、何度も繰り返して観ることで「そういうことだったんだ!」と気づかされることが本当にいっぱいあると思います。是非、作品に込められた二重三重の意味を余すことなく見届けてください!

(取材・文:あいひょん)

(c)TYPE-MOON・ufotable・FSNPC

劇場版「Fate [HF]」最終章 大ヒット記念ABEMA特番
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