原作完結から10年―アニメ「ムヒョロジ」監督・近藤信宏氏に聞く、“天才と泣き虫助手” 物語に隠れたテーマ
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 2004年から2008年に「週刊少年ジャンプ」(原作・西義之)にて連載され、2018年にTVアニメ第1期が放送されたダークファンタジー「ムヒョとロージーの魔法律相談事務所」。2020年7月よりアニメ第2期が放送され、ついにクライマックスを迎えようとしている。

 悪霊による事件を処罰する“魔法律”が存在する世界で、天才的な魔法律の執行人・ムヒョ(六氷透)と泣き虫な助手・ロージー(草野次郎)が依頼人のさまざまな問題を解決していく本作。アニメ第1期に続き監督を務めるのは、数々のアニメの演出・監督を務めてきた近藤信宏氏だ。

 連載完結から10年の時を経てアニメ化された本作とどのように向き合ったのか――。興味深い話を聞くことができた。

【映像】明かされるムヒョとロージーの“出会い”(10分ごろ~)

【エピソード一覧】「ムヒョとロージーの魔法律相談事務所」第2期
【エピソード一覧】「ムヒョとロージーの魔法律相談事務所」第2期

―― ついにアニメ「ムヒョとロージーの魔法律相談事務所」(以下、ムヒョロジ)第2期が、クライマックスを迎えます。全体を通していかがですか?

近藤信宏監督(以下、近藤):もともと原作の濃いファンの方がいらっしゃって、そういう方々の厳しい“お眼鏡”に叶えばいいなと思っていました。原作は2008年に完結していて、スタッフの中には「むかし読んでいました」っていう人や「描きたい」と言ってくださるアニメーターもいました。

―― アニメの放送を観た視聴者からSNSで感想がツイートされたり、ファンアートなどが投稿されたりしていますが、本作の魅力はどんなところにあるのでしょうか。

近藤:作品の魅力は原作者である西先生の趣味もあると思うのですが、「ムヒョロジ」は、ホラーと言うより、昔の恐怖映画のような、上質な雰囲気があるんです。イギリスのハマー(※ハマー・フィルム・プロダクション:イギリスに存在した戦後の名門ホラーメーカー。フランケンシュタインやドラキュラシリーズなど、数々のクラシックホラー映画を生み出した)など、ホラー映画より“恐怖映画”と言っていた昔のちょっと懐かしさを感じる部分がありますね。

―― アニメではムヒョやロージーが悪霊と戦う場面、アクションシーンが多いです。特に冥王・ルアラリエとムヒョが契約するシーンも見応えがありました。

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近藤:第2期はアクションが多かったですね。今回のアクションはどちらかというと、悪霊と戦う凄惨な戦いが多かったりします。監督として視聴者に状況をしっかり見せられたらいいなと思っています。

―― 近藤さんは2018年のアニメ第1期から監督として参加なさっています。改めて、本作のアニメを創り出す上で、大切にしていることは?

近藤:今回の第2期で話を引っ張っていったのはロージーです。だから、僕も作っているときは「ロージーの成長物語」だと思っていました。でも、作り終えた今になって考えると、この作品は「みんなが帰る場所を見つけた作品」だったなと。もちろん成長もしているのかもしれないけれど、“自分を見つける物語”だったのかもしれないと思っています。

 「できなかったことができるようになった」というよりも、それぞれのキャラクターがちゃんと自分が自分らしくなったから、持っていた可能性が花開いた。これはロージーだけではなく、ゴリョーやエビス、結果的にムヒョもそうです。

 ムヒョは魔法律の天才と言われていますが、本当にそうなのかもわからない。ロージーは「自分はダメな奴だ」と自分で思っているけれど、実はそうじゃないかもしれない。成長というより、苦労して自分を見つめ直していく話で、自分は自分で他人にはなれない、天才にはなれないという、自分の可能性を見極めていくことが、アニメの裏にあるテーマのような気がしています。

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―― ロージーが魔法律検定の試験を受けた後、再びムヒョの助手になった回は物語に深みが増したように思います。

近藤:(ロージーは)ムヒョのような天才になりたい気持ちはもちろんあるのでしょうが、最終的に“自分に帰る”っていうのでしょうか。自分をちゃんと持っていれば「途中苦労するだろうけど大丈夫だよ」というある種のメッセージですよね。

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■「演出論は自分で作っていくもの」アニメ監督になりたい人へ

―― 「ムヒョロジ」をはじめ、昨今のアニメ作品では、どれくらいの人数が関わって作られているのでしょうか。

近藤:仕上げも動画も原画もいっぱいいます(笑)。原画だと昔は1~3人ぐらいだったのに、今は20人ぐらいの人数が関わっています。シナリオライターに5人~6人、作画監督も4人~5人いる作品が多いですし、音響に加えて、キャラクターを演じる声優さんがいて、ビデオ編集、広報担当を含めると、100人を超えるんじゃないでしょうか。

―― その中でもアニメ監督にはどのような人が向いているのでしょうか。

近藤:映像業界で監督になる人はどれだけビジョンを持てるか、プランが立てられるかだと思います。一枚の絵ではなくて、映画的な時間軸に沿った物語の流れを把握して、どんな絵がつくか、音楽はどうなるか、そのあたりのイメージが湧きやすい人に監督は向いています。

 重要なのは、イメージができた上で、的確にスタッフに伝えられること。オーケストラの指揮者は、優秀な奏者がいなければ何も提供できないですよね。それと同じようにスタッフとのコミュニケーションができて、イメージを伝えられるのも素質の1つです。演出なりゴールを監督が指示してあげる。まずスタッフに伝えることができないと、アニメを観ている人には伝わらないですから。演出や監督がまとめるというより、自分以外のスタッフのために丁寧にイメージを提示することが仕事です。

―― 若手のアニメ監督の育成などに携わったご経験は?

近藤:監督になると、一緒に仕事できる人を増やさないと作品が作れないので、僕も今まで若手の演出家は育ててきたつもりです。業界内でもそういう話をしていて、結果的に育っていった人はいますが、えらくなって監督になってしまって、結局自分の部下にはならないんですよね(笑)。

 僕は「若いうちは失敗すればいい」と思っていますが、見極めてあげることも大事なんです。先ほどのムヒョの“天才”の話にも通じることですが、演出が向いている人、作画が向いている人、制作が向いている人、いろいろな人がいる。「絶対に作画がやりたい」「どうしても演出がやりたい」と思うならやってもいいけれど、監督という立場から見て「ちょっと違うんじゃない?」と感じるときはあります。的確な道を示してあげるのも監督の役割だと思います。アニメ監督になりたいのであれば、やり方は教えてあげられますが、演出論は自分で作っていかないといけないものです。引き続き、一生懸命育てようとはしていますが(笑)。

■「10年の思いを裏切らないように」アニメ第2期クライマックスに向けて

―― 近藤さんは「ムヒョロジ」の中で、どのキャラクターが好きですか。

近藤:僕は何気に本部長であるペイジ・クラウス(CV:羽多野渉)が好きなんですよ。魔法律教会内部の腐敗がバレてきましたが、ペイジも元々は教会の人間です。その中で飄々としたボンクラっぽいペイジがちゃんとしているってところがかっこいい。飄々としていて、芸能人でいうと高田純次さんみたいなところがありますよね(笑)。味のあるおじさんキャラクターをカッコよく見せられたらうれしいです。

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―― ムヒョは村瀬歩さんが演じられています。演技はいかがでしたか。

近藤:ムヒョ役の村瀬さんは、過去に別の作品でダメなちびっ子的な役をやっていたのは知っていました。そこからの彼の演技を見ていると、「ムヒョロジ」の2期ではだいぶ成長したと思いますよ。ムヒョをちゃんと演じられていますし、監督から見ても、演技の幅が広くなったように思います。

―― ムヒョの助手であるロージーは林勇さんが演じられていますが、いいコンビですよね。

近藤:林さんが演じるロージーのダメっぷりはさすがでした。本当にいいコンビです。村瀬さん、林さんがいい意味で投影されていて、作戦通りです(笑)。

 ゴリョーとエビスもいいコンビです。ゴリョーもいいけど、それを引き立てるのがエビス。一人じゃない、二人じゃないとダメ。その一方で、トーマスとペイジのようなコンビになり損ねたキャラクターもいる。それぞれのコンビがそれぞれの鞘に収まっていく感じが、2期の最後の見どころです。

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―― ついに敵がトーマスだと判明して、戦いも激しさが増していきます。

近藤:トーマスの本性が現れてきましたね。そこにゴリョーなど、今までムヒョたちと敵対していたキャラクターが出てきてどうなるか。アニメでは、だいぶ健気なエビスが見えてきました。ラストに向けて、戦闘シーンも頑張って作ってきました。トーマスの変態的な部分も合わせて観ていただけたら(笑)。

―― 最後にアニメ『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』のファンにメッセージをお願いします。

近藤:原作完結から10年、その思いを裏切らないようにみんなで頑張ってアニメを作ってきました。ロージーの成長に注目されがちですが、ムヒョもちょっと成長していて、意外と可愛いやつだなっていうのがわかります。そのあたりを注目して観ていただいて、みなさんで盛り上がっていただけたらうれしいです。

(C) 西義之/集英社・ムヒョロジ製作委員会2

【映像】ムヒョとロージーの魔法律相談事務所 第2期
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【インタビュー】アニメ「ムヒョロジ 第2期」村瀬歩&林勇、役者としての“原動力”は?
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