大童澄瞳のマンガを『あさひなぐ』の英勉が実写化した映画『映像研には手を出すな!』が、9月25日に公開された。“最強の世界”を夢見てアニメーション制作を志す女子高生3人の姿を描く本作。乃木坂46 3期生の山下美月はカリスマモデルでありながらアニメーター志望の水崎ツバメ役を演じている。
主人公の浅草みどり役を演じたのは乃木坂46 1期生の齋藤飛鳥、そしてプロデューサー気質の金森さやか役に扮したのは山下と同期の梅澤美波だ。乃木坂46のメンバーがメインキャスト3人を務める同作。山下は撮影を通じ「殻を破ることが出来た」と実感しているという。
内側にある強さを表現できるように
同作は今年1月から3月までアニメ版が放送された。実写版は連続ドラマが4月から全6話で放送、今回の映画はドラマから話が続いている。山下が演じた水崎は両親が有名な俳優で、自身もカリスマ読者モデルと常に人からの視線を集める存在。その姿は、乃木坂46のメンバーとして活躍し、ファッション誌「CanCam」(小学館)の専属モデルも務める山下とどこか通じる部分がある。
「ツバメちゃんと自分自身は近いと感じました。でも私は自分に似ている役を演じるのはすごく苦手で、逆に真反対だったり、“この人のこの性格はわからないな”というキャラクターの方が演技しやすいんです。なので、ツバメちゃんを演じる上では、“山下美月にならないように”というのを心掛けていました」
浅草・金森に比べて、山下演じる水崎は性格に強い特徴があるわけではない。それゆえ、撮影現場に入る前までは独特のプレッシャーを感じていたという。
「2人に比べるとツバメちゃんはどこか“普通寄り”のキャラクターというか、癖が強いわけではないので、お話をいただいた段階で『求められるハードルが高そう』とプレッシャーを感じました。でも原作を読むと、ツバメちゃんに“弱さ”を感じませんでした。それは顔の強さだったり、キリッとしたかっこよさみたいなものが光っているからと感じたからです。実写版を演じる上では、ツバメちゃんが画面に映るだけで流れを変えられるような存在になれたらという気持ちがありました。内側にある強さを表現できるように意識していましたね」
撮影が進むにつれ徐々に手応えも感じ始めた。そしてやはり水崎ツバメというキャラクターは山下とシンクロする部分が多かったという。「アニメに対する熱量というか真っ直ぐさが似ていると思いました。自分が“これが正解”だと思ったら人から何を言われようと突き進むところは私とリンクしていると感じます。良い意味でも悪い意味でも、周りの意見を聞かない性格が同じ。頑固さが近かったです」と微笑んだ。
『映像研』で得たものは大きい
実写版の『映像研』でメインキャラクターを演じた乃木坂46の3人。撮影は昨年秋頃にスタートし、今年1月にクランクアップを迎えた。山下は撮影を振り返り「1年前が信じられないくらい、仲良くなることが出来たと思います」としみじみ語る。「私も梅も人見知りで自分からガツガツ行けない性格だから、撮影に入る前まではなかなか飛鳥さんとの距離を縮めることができなかったんです。でも撮影を通じて本気でぶつかることで、絆を深めることができました。多分、乃木坂の中でも人見知りが強い3人が集まったので、お互いのことを理解できるし、その空気感がちょうど良かったのかも」と笑った。
梅澤は今作が映画初出演となった。同期との共演に「台本をしっかり読み込んでくる真面目さがあるし、梅はとにかくしっかりしている。そしてキレる演技が上手いと思いました。刺激になりましたね」と明かす。また梅澤は170cmとグループの最長身メンバーだ。乃木坂46加入当初から“身長がコンプレックス”と話していたそうだが、山下は梅澤の高身長が今作の確かなスパイスになったと指摘する。「梅の身長があるからこそ、金森がかっこ良く見えますよね。最近はモデル業もやっているし、梅の長身を活かす機会がものすごく増えてきたと思います。兼ね備えている魅力を世に1つずつ放出している姿を近くで見て、やっぱり梅は強い子だなと思いました」と言葉に力を込めた。
また撮影を通じて齋藤の能力の高さや凄みを実感したという。
「飛鳥さんはとても頭の良い方だと感じました。セリフ覚えも早いし、浅草は現場でも監督から『こうして欲しい』など求められる機会が多かったんですけど、それをその場で飲み込む処理能力が本当にすごい。セリフも長い上で、瞬時にキャラを作っていくのは要領が良くないと絶対に出来ないですよね。だからこそ、乃木坂でもセンターを張っている方なんだなと感じました」
(C)2020映画「映像研には手を出すな!」製作委員会
ここ最近、冠番組『乃木坂工事中』(テレビ東京)でも齋藤とキャッチーなやり取りを披露して笑いを生み出す機会が増えてきている。以前に比べると「先輩とのコミュニケーションが増えた」と明かす。
「3期生は1期生に5年くらい遅れてグループ入りしたので、可愛がられたというか、いじってもらったりとかはよくあったんですけど、私はあまりそういう絡まれ方をされなかったんです。けど、今作をきっかけに飛鳥さんが私の変なところを見つけてくださって、番組で堂々といじってくれるようになってから、他の先輩方もいじってくれるようになりました。そういう意味でもこの『映像研』で得たものは大きいなと思います」
いい意味で肩の力を抜けるようになった
山下は昨年「神酒クリニックで乾杯を」(BSテレ東)、「電影少女 -VIDEO GIRL MAI 2019-」(テレ東)と続けてドラマに出演。役者としても着実にキャリアを積んでいるが、演技の仕事について聞くと「すごく楽しいです。普段の乃木坂の活動だと我慢しているわけではないんですけど、イメージにあった行動をしなくてはいけないという責任感があります。その中で、リミッターを外せる瞬間はお芝居の現場が多い。普段の自分とちょっと違う姿になれるのは楽しいし、新しい発見もできます。なので変な役を求められるとものすごくうれしくなりますね」と明かす。
浅草ほどではないが、水崎もセリフ量が多い。アイドル活動と並行しながらの撮影はハードだったと想像できるが、そんな中でも山下は『映像研』の現場を通じ、役者としてポジティブな刺激を受けたという。
「私たち以外にも同年代のキャストさんがたくさん出演している作品なので、そこは熱のぶつかり合いでした。今までの現場だと同世代の方と共演する機会は少なかったんですが、今回の『映像研』で同世代の方と共演してたくさんの刺激を受けたし、もっと頑張らないといけないなと思いました。本業はアイドル・乃木坂46のメンバーだけど、それに甘えちゃいけないというか、世間から“アイドルが出ているだけの映画と思われたくない”気持ちが強かったので、気合が入っていましたね」
本作の中で水崎は“アニメーターになりたい”という理想に向けて、自分の熱を信じて行動を起こし、自らの殻を破っていく。撮影を終えて、山下の中でも自身の心境の変化に気付いた瞬間があったという。
「今までは緊張するとすごく顔に出てしまっていました。仕事に対しては“楽しむ”という意識はあまりなくて、“仕事は頑張るもの”という感覚でした。それがここ最近、いい意味で肩の力を抜けるようになりました。気を張り過ぎず、自然体でお仕事を楽しめる機会が増えて、最近『笑顔が自然になった』とファンの方に言われることがありました。『映像研』の撮影を通して、自分自身がいい方向に向かうことができたと思っています。そういう意味では、ツバメちゃんと同じように殻を破ることが出来ました。今後も新しい一面をお見せできるように頑張りたいですね」
デビューした時から完成度が高く、ストイックさが特徴だった山下が、今作の撮影を通じ自然体で仕事を楽しめるようになった。柔らかさも兼ね備えた新たな姿で、今後もファンを拡大していくことだろう。
テキスト:中山洋平
写真:藤木裕之
スタイリスト:市野沢祐大(TEN10)
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