『報道ステーション』のメインキャスターとして、舌鋒鋭く政治に物申してきた古舘伊知郎氏。26日のABEMA『NewsBAR橋下』に生出演し、憲法9条をめぐって激論を交わした。
■古舘氏「憲法は人間が編み出した究極のストーリー」
古舘:僕は橋下さんと全く意見が違うと思う。改正の必要なところもあるとは思うが、戦争の放棄および武力の不保持を定めた憲法9条に関しては、絶対に変えてはいけないという考え方だから。
僕には、憲法は人間が編み出した究極のストーリーだ、という意識がある。夢物語だか、融通がきかないとか、アメリカから押し付けられたものだとか言われようがいい。これからの戦争は人間が行かされるような戦争にはならないかもしれない。もちろん、ある場合には集団的自衛権が行使できるようになったということを踏まえつつ、それでも1ミリも戦争に向かうことなく、専守防衛でできないかな、という思いが強い。
橋下:じゃあ古舘さんは在日米軍についてはどうお考えか。今の憲法9条のまま専守防衛で、というお考えであれば、在日米軍には撤退してもらわないといけないんじゃないか。
古舘:アメリカと中国がこんなに揉めている現実の中で何を言ってるんだ、と言われることも承知の上で理想論を言えば、もちろん日米同盟はないといけない。ただ、日米地位協定によって日本側が圧倒的に不利だというのはおかしいし、沖縄が基地などいろいろなものを未だに押し付けられているということに不平等さを感じる。二階さんと菅さんで、中国ともうまくやってもらいながら、永世中立国スイスのように、専ら防衛に徹するために、ある程度の武力は保持する。また突っ込まれると思うけれど。
橋下:今の日本は、"攻撃"の部分を全て在日米軍に頼っている。僕が"憲法9条は絶対に守れ派"の人たちに違和感を覚える理由は、その在日米軍に撤退を求めず、「いざという時には守ってもらう」と言っているから。しかも「非核三原則」があるから日本は核を持てないと言っているが、それはまやかしだ。他国にも「それはアメリカの核の傘に守られているからじゃないか」と指摘されている。
「全て自分たちでやるから、在日米軍には撤退してもらう。アメリカの核の傘も要らない」と言った上で憲法9条は絶対に守る、専守防衛だ、というなら筋が通っている。しかし、それこそ恐ろしいことになるではないか。だから沖縄の人たちには申し訳ないけれど、やっぱり国の安全を守るために、今のところは在日米軍にいてもらいたいし、アメリカの核の傘で守られていたい、というのが現状だろう。それでも在日米軍だけに血を流してもらうのは嫌だから、憲法9条を改正して、ちょっとでも自分たちの手で守れるように、という思いがあるということだ。
古舘さんが在日米軍は全て撤退、核の傘もいらないというところまで言われるんだったら、憲法9条を変えないという主張も筋が通っていると思う。
古舘:最終的にはそうなると思うが、そこまでには長いプロセスがあると思う。
例えば中国が尖閣諸島の周辺で嫌な動きをしているが、本当にことが起きた時、我々のイメージ通りにアメリカ軍が来てくれるのかといえば、若干のクエスチョンがある。「日米同盟で守られるから」、というのを100%信用していいのかな、と。
もちろん、すぐにアメリカ海軍の第7艦隊の横須賀の基地がなくなるとは思っていないが、沖縄には新基地は作らないなど、少しずつ負担を減らしていくという、日本流のやり方があるんじゃないか。
アメリカの核の傘についても、段々と小さくしていく。やっぱり日本は唯一の被爆国だから、頑なに“物語”を守り続けないとダメなんだと、世界に向かって愚直なまでに言い続けることができないだろうか。
■橋下氏「在日米軍も縮小、核の傘も縮小と言うんだったら、その分は自分たちでやらないと」
橋下:古舘さんの主張に矛盾を感じるのは、在日米軍基地は沖縄に過度な負担があるから軽減しないといけない。沖縄の地位協定も不平等だから変えないといけない。そのゴールは何となく同じような気がするが、そのため在日米軍も縮小、核の傘も縮小と言うんだったら、その分は自分たちでやらないといけないということではないか。
カントの『永遠平和のために』じゃないけれど、全ての国が軍事力を放棄して国際機関が管理するような理想の社会になればそれもあり得るのかも分からないが。
古舘:日本は原発から出るプルトニウムをたくさん持っている。そのことも良いことだとは全く思わない。「核は時代遅れだ」ということが世界に広がってほしい。やっぱり重厚長大な核兵器は時代遅れのものなんだから、全て廃絶の方に持っていかないといけないと思う。
新型コロナウイルスも、遺伝子が変異して自然発生したと僕は思っているが、噂もある。テロリストたちに生物兵器、化学兵器だと思われたらたまったもんじゃないと。
橋下:ゴールは一緒だ。ただ、核兵器を全て放棄するためのプロセスとして、まずは全員が核兵器を持ち、その段階で廃棄するというのが僕の考え方だ。
例えばINF(中距離核戦力全廃条約)の時も、始めから全廃するのではなく、まずはアメリカとロシアがお互いに保有し合い、ピークまで達してどうしようもなくなったから全廃しよう、ということになった。
人間を見る時に、古舘さんはおそらく「みんなで理想を目指し、とにかく説得すれば廃棄することもできるんじゃないか」という性善説。僕は「古舘さんに拳銃を放棄させるためには、僕も銃を持ち、お互いに突き付け合って、せーので下ろそう」という性悪説。むちゃくちゃだと言われるかもしれないが、現実的にゴールにより近づけるのは、僕のやり方だと思う。
古舘:橋下さんは気を遣って話してくれるから有り難いが、世の中では「現実問題」というキーワードが出た瞬間に、性悪説が勝つ。「ロシアだって開発しているじゃないか、中国だって迎撃ミサイルで捉えられないミサイルを開発したと言っているじゃないか、それなのに、何を乙女のようなことを言ってるんだ」という話になるそうなると、圧倒的に橋下さんが言っている方向になる。
だったら余計に、俺は逆張りしたいと思うわけ。「意味不明だ」と言われてもいいと。自分のトークライブでも話して、一部にウケて一部には顰蹙を買った。「日本は平和を護持する国なんだから、“平和テロ”というのを世界に向けてやったらどうだ」って。「TENGAという日本発のグローバル産業があるから、日本人が回って、ヨーロッパの方にあるミサイルに巨大TENGAを被せる。“世界同時多発TENGAテロ”。そうやって、一切飛ばせないようにする。お釈迦さまも言っていた、“天上天下(TENGA)唯我独尊”だと。橋下さん、俺は性善説を捨てたくないんだよ。
橋下:非核三原則の「持ちこませず」というのも時代遅れではないか。アメリカ海軍の第7艦隊の空母に核兵器は積んでいないということになっている、日本側は確認しないことになっているから。仮に積んでいたとして、日本に入ってくる前に太平洋で一旦降ろすはずがない。そういうことを言うと、お前は「核兵器保有論者」と批判されるが、核兵器はなくなればいいし、軍事力だって一元的にコントロールするような“世界の警察”ができればいいとは思うんだけれど、そこに至るプロセスというのは、どう考えてもなかなか進まない。
■古舘氏「“嫌だ”ということを貫かないと」
古舘:カート・ヴォネガット・ジュニアという作家がアメリカにいるけれど、「世界平和は来るから諦めちゃいけない。世界中の天使が結束して、マフィア並みの結束を図った時に来るから」という、ちょっと皮肉半分の言葉が印象的だった。現実問題として、ミサイルが向き合っちゃってるから、性悪説に立って天使がマフィアにならないといけないと。それも分かるんだけれど、橋下さんのような意見の方が強いのが分かるから、僕は逆張り人生だ。
橋下:僕のような意見が強いわけではないと思う。結局、沖縄の基地負担を軽減する、地位協定を改定する、核兵器を廃絶するためには、アメリカに頼っていてはできないということ。ある意味でアメリカに命を守ってもらっているような日本としては、なかなか文句を言うことはできない。朝日新聞が言うように「対等な関係」と言うんだったら、自分の命は自分で守るとなって初めて可能になるんじゃないか。それはおかしいことでもなんでもなくて、自然のことだと思うが。
古舘:それはそうなんだけど、そのプロセスにどのくらい時間をかけるかだ。今ほどの関係から少しずつ遠ざかっていくようなやり方が、日本は得意じゃないかなと思う。
橋下:アメリカとの関係はちょっとずつ変わってきている。なぜかというと、安倍さんが支持率を落として実現させた平和安全法制があるから。集団的自衛権の限定的な行使容認に伴う日米の合同訓練によって、米軍が“俺たちの命を日本の自衛隊が守ってくれるんだ”という関係になってきた。こういう方向でアメリカとの関係を築き直すべきじゃないかというのが僕の考え方だ。
古舘:個別的自衛権の範囲内でできるところもあるのに、PKOの駆け付け警護も含め、あそこまでやっことには反対だ。このまま進んでいけば戦争に行って兵士が死ぬ、兵士を殺す国になってしまうのではないかと、嫌でしょうがない。これも橋下さん的には“現実問題を考えろ”ということだと思うが、この「嫌だ」ということを貫かないと。
例えばベトナム戦争の時には多くの韓国軍の兵士が亡くなっている。だけど日本はわがままと言われようが、戦地には行っていないわけだ。人間が亡くなってはいけないということを根底に持っていたい。それだけじゃ現実問題として無理だろう、世の中は汚いぞということが分かっていながらも、「夢物語だ」と言われる9条を護持し続ける。有名無実だと言われようが、そこの看板だけは掲げ続けることで、日本は平和で持っているじゃんとなる。エゴイズムと言われてもそれはあった方がいい。
ここが切り崩されていくと、どんどんなし崩しに「普通の国」、「強い国」になっていく。明治維新以降の、富国強兵の国になろうとするのが怖くてしょうがない。
橋下:僕もそこまでを目指しているというわけではない。
でも、たとえば米軍の訓練にしても、自治体に何の通知もなく低空飛行をやるわけです。アメリカからすれば、「いざとなれば俺たちが命をかけて日本を守るんだから、訓練は自由にさせてくれ」というところがあるんだと思うし、日本もそこは言えない。
日本がベトナム戦争に行かなかったという話は、あの時代の日本はアメリカに何も言えなかった。やっぱり沖縄の状況を改善していくためには、アメリカにしっかりと物を言わないといけない。しっかり物を言うためには、アメリカに頼らず、自分たちのことは自分たちでやることができて、初めて物が言えるようになると思う。(ABEMA/『NewsBAR橋下』より)