“人ならざるもの”が集まる将棋界 人間味溢れる若手棋士・高見泰地七段がふと言われた「狂気を感じる」という言葉
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 どんな世界でもその道を極めんとする人は、多少なりとも「人間離れ」しているところがあると言われる。極限にまで高めた集中力か、はたまた微細の違いも察する感性か。競技であれば、尋常ではないレベルでの負けず嫌いも多い。頭脳と頭脳がぶつかりあう将棋の世界においても、それは同じ。ある若手棋士からは「将棋界には人間が少ない」という言葉も出たことがあったが、実際に一般人から「狂気を感じる」と言われたことがある棋士もいる。穏やかでユーモアもあるキャラクターが人気の実力者・高見泰地七段(27)が、実体験を明かした。

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 1局あたり120~130手ほどで決着がつくことが多い将棋。プロでは、この1局に午前中から夜まで、1日かけて戦うことが多い。タイトル戦ともなれば、2日にわけて行うものもあるくらいだ。長い時間考えられる、と思う人もいるだろがむしろそれだけの長時間、1つの対局について考え続けることも、一般の人には耐えられないかもしれない。10時間かけて解くテストがあって、時間いっぱいかけて解こうという人などそう多くはないだろう。その上、将棋は勝敗がついてまわる。「将棋は一手によって全てがひっくり返る。そういう意味で繊細なゲームです」というのが、高見七段だ。

 公式戦での活躍だけでなく人柄の良さがにじみ出る棋士だが、高見七段の目から見ても「将棋界は基本的に人間らしいという人は少ない」という。「トップ棋士の中には、将棋に全てを捧げているような人もいますので。羽生善治先生(九段)は人間離れしていますけど、人間らしいところもお持ちになっていて安心しますね(笑)」と話しつつも「一つのことを小学生のころからやり続けて、10代、20代でプロになるっていうのは、普通の暮らしではできないことなので、いろいろなものを犠牲にしてプロになっている人が8割、9割だとは思います」と、実情を語った。

 将棋に没頭するほど、一般の感覚とはずれていく。それもやむなしと考えるか否か。高見七段は、どちらからと言えば後者になる。「人間じゃない側に行くと、もう戻ってこられなさそうで怖いんですよね(苦笑)それとやはり、ファンの方がいてプロの世界も成り立っているというのは、プロになった時から思っていることだし、将棋を指すことだけで食べていくようなことにならないよう、いろいろなことを大切にしたいと思います」と、バランス感覚を持って日々を過ごしている。その思いは、普段のファンサービスの熱心さなどにも活かされている。

“人ならざるもの”が集まる将棋界 人間味溢れる若手棋士・高見泰地七段がふと言われた「狂気を感じる」という言葉
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 ところがそんな高見七段であっても、一般人とのずれを痛感した瞬間があった。ある会食に招かれた時のことだ。「自分では普通だと思ってしゃべっていたら『高見さんは変わっているよね』と言われたんですよ。棋士の中では普通の方だと思うんですと言ったら『急に狂気を感じることがある。目つきもすごい時がある』と」。研ぎ澄まされた刃の集まりで生きている者が一般の世界に飛び込んだ時、周囲からは何が違うものを感じさせたのだろう。「この世界にいると普通のつもりでも、一般的にはかけ離れていると指摘されたわけです。『悪い意味じゃないですよ』とフォローはしてもらったんですが、プロの世界で生きていくということは、そういうことなんだなと思ったんです。あれは驚きました」と、その時の思いをしみじみと語った。

 世間話をしている時は心優しい好青年だが、きっとその会食で話している間に、何かのスイッチが入ったのだろう。その瞬間、勝負師の顔をのぞかせ、周囲の人々をドキリとさせた。そんな光景が目に浮かぶ。「僕がそう言われるくらいだったら、他の人連れていったらどうだったでしょうね」と笑う高見七段の目は優しかったが、対局時の表情に改めて注目したくなるエピソードだった。

2020年度「将棋日本シリーズ」二回戦第四局 渡辺明JT杯覇者 対 高見泰地七段
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