秋の新アニメ「いわかける!- Sport Climbing Girls -」が、10月3日からスタートした。漫画、アニメの世界ではなかなか例を見ないスポーツクライミングをテーマにした作品。野球やサッカーといった球技、ボクシングや総合格闘技といった、対決構図がはっきりとしたものが多い中、ひたすらホールドに手足を掛けて壁を登るという競技を描く上では、様々な工夫や苦労があったという。お手本がない中、原作者の石坂リューダイ氏は、どんなことを考えたのか。どうやってパズルゲームの天才・笠原好(かさはら・このみ)にしてクライマーという主人公が生まれたのか。
-まずスポーツクライミングという競技を描こうと思ったきっかけからお願いします。
石坂リューダイ(以下、石坂氏)
僕はこれまでスポーツ漫画を多く手掛けていたので、当時の編集さんと何かスポーツものでいこうという話をしていました。その時、友達とよくボルダリングジムに行くという話をしていたら、ちょうど日本で国際的なスポーツイベントもあるし、いいんじゃないかという話になったんです。とりあえず12月に行われる高校の全国大会に行ってみたんですが、とても熱くて、ドラマがあると感じ、そこから高校生のキャラクターを練ってみようと思いました。
-大会を見た印象はいかがでしたか。
石坂氏
会場にDJがいたりするんですよね。大会としてエンターテインメントというか、とても若さを感じたし、見る人にも気配りがあるのが新鮮でした。それから選手が自分の高校を応援するのはもちろんなんですが、見に来ているお客さんも「ガンバ!ガンバ!」と声をかける。その様子に手に汗を握りましたね。あと、たまたま1手目で落ちてしまった女子選手がいたんですが、それをみんなでなぐさめているところを見て、ドラマを感じました。
-最近、壁は登っていますか?
週刊の連載をやっているとなかなか行けないんですよね。行くと次の日、絶対右手が動かなくて、漫画が描けなくなっちゃうもので(苦笑)
-「壁を登る」という表現は、他のスポーツよりも難しそうに感じます。
石坂氏
それはとても思いましたね。難しかったです。たとえば野球ならボールを投げている表情とかを前から描くんですけど、クライミングの選手は壁と相対して登っているので、普通のカメラ(視点)では描けなくて……。動きとしても、本当はすごいことをやっているけれど、見た目には「ただ足を掛けただけ」のように思われてしまいそうで、そこが作画上で難しく感じる点でした。
-主人公がパズルゲームの天才という設定はどこから?
石坂氏
クライミングというものが「人体を使ったパズル」という表現をされることもあるので、そこから着想しました。かなり“はったり”の部分もありますが、エンタメとして見せていきたいという思いがあって採用しました
-競技を知る上で印象深かったことはありますか。
石坂氏
競技とはちょっと違うんですけど、取材で実際に外岩を登った時ですね。人工壁を登るのと違って、外岩は少し登っただけですごく怖いんですよ……。そのあたりは漫画でもエピソードとして採用しました。でも自分は外岩の方が好きです。町のはずれ、大自然の中にあるようなものなので、時の流れもゆっくりです。実際に挑戦していると、あっという間に夕方になるし、空気もおいしいし、ジムばかり行っている人は一度行ってみるといいと思います。
-本編でも人工壁と外岩という対比が描かれていましたね
石坂氏
描きたいテーマではありました。キャラクター像を考えた時に、パズルゲーム好きの主人公にするか、外岩を極めた主人公にするか、悩んだんです。作品内のキャラクターなら笠原好にするか、後藤菊子か。そのぐらい重要なところでもあったので。クライミング界において、人工壁か外岩かはテーマとしてあるんじゃないかと思って、そこは話の序盤の方で早く描きたいと思いました。
-アニメ化の話を最初に聞かれたのはいつごろですか。
石坂氏
2019年の春ぐらいでしょうか。本当に月並みですがうれしかったですね。ずっと週刊で連載をやっていくとどうしても疲れが……。そんな時にアニメ化の話を聞いてからめちゃめちゃモチベーションになりました。今も頑張れているのは、アニメのおかげです。
-アニメ化に際して、要望は出されましたか。
石坂氏
連載をしていく上で、ここは失敗したとか、こうすればよかったというものを正直に、アニメ制作のアミノテツロ監督にお話をしました。「確かにこっちの方がいいかもね」と採用してもらえたものがあって嬉しかったです
-笠原好というキャラクターについて、どう描こうと思いましたか。
石坂氏
普段はかわいらしい女子高生ですが、パズルでブツブツモードというか、オブザベーション(観察)している時は怖いので、メリハリがしっかりと付くように意識しました。女の子がいっぱい出る漫画は、かわいさも出さないといけないんですけど、その上でここまでぐらいならまだ大丈夫だろうという範囲で、凄みを出そうと頑張っています。
-同級生でチーム内のライバルにもなる上原隼はいかがですか。
石坂氏
真面目にやっているのに、なかなかそれが報われない、いじらしいところが隼ちゃんのかわいいところだと思うので、何か失敗した時にどう立ち向かうのかを、描いていきたいと思います。
-アフレコ現場の様子を聞かせてください。
石坂氏
好ちゃんと隼ちゃんがしゃべってるなあって、若干の恥ずかしさもありました(笑)声が入っているのを見てうれしいっていうか「うわー!」みたいな。アニメのプロの人にこんなうまく描いてもらって、声優さんにも声を入れてもらってすごいなあと。実際にテレビでアニメが放送される時には、堂々と見ようと思います。
-最後にアニメをご覧になる方へのメッセージをお願いします。
石坂氏
クライミングを知らない人への架け橋になれたらと思いますね。かわいい女の子がクライミングをするアニメですが、日常を過ごす様子を描くというよりも、結構がっつり、バチバチ火花を散らしてしのぎを削っています。その中で、気にいるキャラクターがいたりしてくれたらうれしいですね。
(C)石坂リューダイ・サイコミ/花宮女子クライミング部応援団