名古屋市天白区に25人のベトナム人が共同生活を送るお寺がある。創建から100年続く徳林寺を訪れてみると、住職と一緒にお経を唱えるベトナム人たちの姿があった。彼らが住まいとしているのは境内から離れた宿坊。家賃や光熱費は無料ですべてお寺が負担している。彼らは外国人技能実習生として来日し、岐阜県や三重県、茨城県など全国各地で働いてきたが、コロナ禍で仕事や住まいを失い、徳林寺に助けを求めてやってきた。
日本の労働力不足解消のために外国人労働者の受け入れを行い、厚生労働省によると、現在およそ165万人の外国人労働者が日本で働いているという。発展途上国から人材を受け入れて日本の技術を学び、母国で生かしてもらうことを目的とした外国人技能実習制度で多くの外国人が来日を果たしている。この制度については国会等でも様々な議論が行われているが、未だ多くの問題が残されている。
その一方、就労期間を最大3年から5年にしたり、働ける職種を増やしたりすることで受け入れが容易になった。法務省によると現在はおよそ41万人の技能実習生が日本にいるとされ、その半数に及ぶ53.2%がベトナム人で占められている。
ベトナム人のヴァンさん(26)は「コロナのウイルスで仕事を失った。家もないしお金もないし、居場所がなくなった」と徳林寺に身を寄せることになった経緯を明かす。ヴァンさんは2カ月前まで愛知県内の自動車工場で働いていた。来日した目的については「家族のため。僕の家族はお金なしだから、僕が実習に行ってる」と話し、家族を養うためだと説明する。
ヴァンさんの日本での月給は8万~10万円だった。決して多いとはいないが、それでもベトナム人の平均月収の3倍だ。母国に住む7人家族を養うには、大きな収入といえる。この月収の中から、ヴァンさんはアパート代を払い、自らの食料を買い、残ったお金をすべてベトナムの家族に送金している。ヴァンさんが自由に使えるお金は月2万5000円ほどだという。このようにヴァンさんを含む技能実習生たちの多くは低賃金で働いているが、同様に彼らの多くは仲介料や研修費など100万円以上の借金を背負っている。
金銭的な苦しさに加え、職場でつらい経験を強いられる人も多い。大阪府の建設現場で働いていたテさん(27)は「仕事を勉強するけど、出来ないときは頭を叩かれる。毎日のように叩かれていた」と苦い経験を笑顔で明かすと、少し間を置いて表情を曇らせ「私、もうできません…逃げた」とお寺に逃れてきた事実を話した。
倒産や解雇などにより居場所を失う技能実習生たち。法務省によると2018年の外国人失踪者は9052人で、その数は6年前の4倍以上にまで膨らみ、年々増え続けている。さらに新型コロナにより職や居場所を失うだけではなく、母国へ帰ることも難しくなっている。
彼らに救いの手を差し伸べたのは徳林寺の住職である高岡秀暢さん。高岡さんは「実習制度の実態は労働者を求めている。本当に教えてあげようという気持ちより、労働力で使おうとするわけだから、労働者が要らなくなったらすぐに解雇。会社から頂いていた宿舎も給料がなくなっていても部屋代はとられる。だから部屋代も食事代もいらない。健康であって、仲良く生活を作っていこう」と話す。大学卒業後にネパールで過ごした経験のある高岡さんは貧しい人たちが支え合って生活する姿を目の当たりにしたことで「困った人たちに居場所を作ってあげたい」と思うようになったという。
彼らはお寺に寄付された食材で自炊をし、畑を耕して野菜も育てながら生活している。高岡さんは彼らが「人の役に立つこと」を忘れないよう、技能実習生という経験を生かして道の舗装や車いすのスロープ、シャワールームなど、作れるものは何でも手作りさせるようにしている。シャワールームに関しては、太陽の熱を吸収して水を温める太陽熱温水器であるため、晴れていない日のシャワーは水だ。それでも技能実習生の一人は「冷たいけど大丈夫」と笑顔を見せた。
居場所を失い、衣食住に困った技能実習生たちには犯罪の依頼も舞い込んでくるという。ドゥエンさん(26)は「まず仕事がないから紹介してもらって…」と犯罪に手を染める技能実習生の実態があることを否定しなかった。
千葉県のコンビニでベトナム人の男が他人名義のスマホ120台を使い決済アプリでたばこを購入する詐欺を働き「お金が欲しかった」と供述。先月10日には群馬県前橋市でホテルの女性経営者を殺害して金を盗んだ疑いで同じくベトナム人の技能実習生が逮捕された。このように技能実習生として来日したベトナム人が犯罪に手を染めるケースが後を絶たないのも事実だ。
そのような残念な現状に高岡さんは「外国で働いて、自分の国より多い給料をとれて、違った国に行くんだというときは楽しいはず。ただ夢を持ってきた人が犯罪に至るというのは問題だ」と厳しい顔で話した。
今月14日には成田空港に350人以上の長蛇の列があった。その多くはベトナムへ帰国する技能実習生と留学生だ。そこには、空席が出ることを期待して空港に足を運んだたくさんの技能実習生と留学生100人以上の姿も見られた。
その傍らには、段ボールを敷き、お水で「宴会」と称して帰国を祝うドゥエンさんの姿も。彼らに「もう一度、日本に来てくれますか?」という質問を投げかけると「チャンスがあれば、みんな絶対日本に行きたい」と答えた。友人のリンさん(20)が「日本人は優しいね」と応じれば、クォンさん(28)もまた「仕事はいくら大変でも日本に戻りたい」と話すなど、いずれも肯定的な声ばかりだった。
一連の問題について国際政治学者の舛添要一氏は「コロナの影響がこういうところに来ているが、一番底辺に手を差し伸べられていない。安い労働力として実際(日本に)入れているが、要らなくなったら最初にほったらかすといのは、お寺に頼るのではなく、政府がちゃんとやるべきだ」と話すと「結局、外国人労働者、移民はNOという政策を取りながらも、実質的にはこれ(外国人技能実習制度)をやっている。国民で議論して、入れるなら入れる。ちゃんと日本の国で働いて、生活ができるようにしないといけない。5年いたら帰らないといけない。逆を言えば、5年でクビにできる。安い給料で、そんないいことはない。ただ介護の現場はベトナム人がいなければ成り立たない」と問題点も指摘。ベトナム人の犯罪が多くなっていることについては「母数が多いのだから仕方がない」との見解を示した。(ABEMA『ABEMA的ニュースショー』)
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