13年間に及ぶ逮捕・勾留・服役に補償金6000万円…無罪判決を受けた西山美香さんと弁護団長「このままでは冤罪は無くならない」
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 17年前に起きた「湖東記念病院事件」のやりなおし裁判で無罪が確定した元看護助手・西山美香さん(40)に対し、大津地方裁判所は5997万円を支払うことを決定した。

 決定では逮捕から裁判、12年にわたる服役の期間が不当な拘束だったとして、刑事補償法が定める上限の1日あたり1万2500円の請求を認めた。しかしネット上には「失われた時間は戻らない。安すぎるよ」「警察関係者にお咎めはないのか」と怒りの声も見られる。

 29日の『ABEMA Prime』では、当事者の西山さんと再審請求弁護団の団長を務めた井戸謙一弁護士に話を聞いた。

・【映像】服役12年の冤罪被害者に聞く 失った時間"の補償額"6000万円"は妥当?

■「全てを引き受けることにしてしまった」

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 事件が起きたのは2003年のこと。当時72歳の男性入院患者が死亡したことについて、警察は勤務していた西山さんが人工呼吸器を外して殺害したとして逮捕された。

 警察の取り調べでは“自分がやった”と認めてしまったものの、裁判で西山さんは「厳しい取り調べに対し、うその告白をした」と主張。しかし自白の事実を覆すことができず、2005年、大津地裁から懲役12年の有罪判決を言い渡される。その後も無実を訴え続けた西山さんだったが、大阪高裁で控訴棄却、最高裁でも上告棄却され、刑が確定した。

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 井戸弁護士によると、西山さんが自白するに至った経緯は次のようなものだ。

 「当直だった第一発見者の看護師が“チューブが抜けていた”と証言したため、警察は“チューブが抜ければアラームが鳴るはずだ。にもかかわらず適切な対応をしなかったのは業務上過失致死だ”として捜査を始めた。同じく当直だった美香さんは、当初“アラームは聞いてない”と否認し続けていたが、強硬で暴力的な取調べをされる中で、“聞いていた”と認めてしまった。すると今度は看護師に対し、“看護助手が聞いたと言っているんだから、お前も正直に話せ”と厳しく問い詰めた看護師はノイローゼになってしまった。美香さんは“自分が嘘をついたことで看護師さんをノイローゼにさせてしまった”と思い、供述の撤回を求めた。しかし警察はそれを認めなかった。精神的に追い込まれる中で美香さんもノイローゼになり、“私は独り者だが、看護師さんは母子家庭で、非常に気の毒な立場にいるから”ということで、全てを引き受けることにしてしまった」。

■「刑事に良いように嘘をついてしまった」

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 加えて西山さんは、取調べの中で刑事が垣間見せる優しさから、好意感情が生まれてしまったことも理由だったと説明する。

 「私には軽度の知的障害と発達障害があり、小さい時から2人の兄と比較されることにコンプレックスがあった。そのことを取調べをする若い刑事に話したところ、“君はむしろ賢い方だ”と言ってくれたので、この人は理解してくれるんだなと勘違いし、好意を抱いてしまった。きつく言われた後、やさしく言われると嬉しくなる。アメとムチみたいな感じだった。当時の私は嘘ばっかりついていたし、友達もおらず、男性と付き合ったこともなかった。情報を与えないといけないと思って、どんどんどんどん、刑事に良いように嘘をついてしまった」。

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 一方、井戸弁護士は、「このとき美香さんが“チューブを抜いた”とまで言うとは警察も予想していなかったのではないか」と推測する。

 「そのことによって殺人罪になったわけだが、実際にはやっていないから、美香さんには詳しい説明ができない。だから客観的な状況に合うよう、どんどん誘導していく。だから美香さんの自白も転々と変わる。例えば人工呼吸器の構造や機能を調べて、それを利用して殺したんだと説明させる。本来であれば、この過程の中で“チューブを抜いたと言ってはいるが、真犯人ではないのではないか”と気付くこともできたはずだ。しかし、いったん殺人罪で逮捕・勾留し、捜査が動き出すと、警察は引き返すことができない。だからそのまま突き進み、誘導に基づく調書をたくさん作り、起訴まで持ち込んだ。同様に検事も気づいていたはずだが、やはり引き返すことなく起訴し、有罪判決を作ってしまった」。

 最高裁で有罪が確定、12年間にわたり服役することを余儀なくされた西山さん。逮捕時には24歳だったが、2017年に満期出所したときには37歳になっていた。

■「ご家族は小さくなって生活をしておられた」

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 出所から4カ月後、大阪高裁が2度目の再審請求を認め、去年3月には最高裁が検察の特別抗告を棄却、やり直しの裁判が始まった。審理の過程では、亡くなった男性を調べた解剖医の「患者はたんが詰まって死亡した可能性がある」という所見も提出された。事件後に行われていた裁判ではないとされていた証拠だった。

 そして今年3月、大津地裁は「自白の信用性や任意性には重大な疑義がある」として無罪判決を言い渡す。検察側が上訴権を放棄したため、翌4月、西山さんの無罪が確定した。 

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 「“13年”と言われても、あまり実感は湧かないが、やはり両親が年老いているというところを見ると、長い時間だったと思う」と話す西山さん。「補償の分も入っているとはいえ、1日1万2500円という額については、当時の私はそこまで稼いではいなかったと思う。それでも青春時代を奪われたということを考えれば、正直言って少ないとも思う」。

 井戸弁護士は「単に13年も身柄を拘束されたということへの償いだけではない。再審で無罪になったからいいようなものの、そうでなければ殺人犯として一生汚名を着せられたまま人生を終えなければならなかったかもしれない。ご家族も、周囲から“娘は殺人犯だ”という目で見られ、小さくなって生活をしておられた。そういうトータルの苦しみを考えた時に、1日1万2500円ならそこそこの額だからいいだろうという話には到底ならないと思う」と強調した。

■「このままでは今後も冤罪が繰り返されてしまう」

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 滋賀県警の滝澤依子本部長は今年7月、県議会で「西山さんに結果として大きなご負担をおかけしたことについては大変心苦しく思っている」「(直接の謝罪について)西山さんからそうした申し入れを受けていないので答えは差し控える」「不適切な取調べなどの事実は確認されていない」と発言している。

 井戸弁護士は「“供述弱者”と呼んでいるが、美香さんも精神的に非常に弱い特性を抱えている。そういう人に対して最初は暴力的な取調べをし、取調官に好意を抱いていることが分かると、それを利用するような取調べをした。さらに解剖した医師は警察に対し“たん詰まりが原因の可能性が十分にある”という話をし、それは捜査報告書という書類にも記載されていたのに、検察には送っていなかった。だから検察は“チューブの外れが原因”ということだけをもって起訴した。これは明らかに違法な捜査だが、県警本部長はそれも含めて捜査に問題はなかったしている。こういう姿勢では、今後も冤罪が繰り返されてしまう」と危惧。

 国家賠償請求訴訟の検討も行っているとした上で、「本来であれば客観的な証拠を調べるという捜査を先行させるべきだが、日本の警察は目星をつけた怪しそうなやつを引っ張ってきて、状況証拠に合うようなストーリーに沿って“こうだったんだろう”と厳しく追及する。そして、思うような供述をするまで調書を作らない。そして自白が取れば“事件は解決した”ということにしてしまう。こういう捜査手法が昔も今も行われている。少なくとも警察内部では処分という形でけじめをつけてほしいが、そういう動きも見えない」と批判した。

■「皆さんを助けられるような人になりたい」

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 西山さんは「私は運が良く、良い裁判官に当たって無罪判決をいただくことができた。弁護団の皆さんも頑張って下さった。だが、これではダメだと思う。日本の司法を変えなければ、冤罪はまた生まれてくる。私の体験を色々な人に伝え、冤罪の被害に遭われている家族の方や当事者の方に、無罪判決をもらって喜んでいただきたいと思っている」と話す。

 「患者さんが亡くなってしまったことは確かなので、病院で人工呼吸器を付けている患者さんを見れば、当時のことを思い出して落ち込んでしまうと思う。だからもう看護助手をすることはできない。でも、人の役に立ちたいという気持ちはある。皆さんに助けてもらったので、皆さんを助けられるような人になりたい。介護の仕事をしたいと思っているし、まだ獄中で苦しんでいる人もいる。私は真面目に獄中生活を送ったと胸を張っては言えないが、外に出た者として、“力を貸して欲しい”と言われれば、できる限り応えていきたい」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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