日本に110万人以上がいるといわれる“ひきこもり”。また、長期化・高年齢化に伴い、50代の当事者を80代の支が支えるという、いわゆる“8050問題”も深刻化しているとされる。
16日に都内で開催された、ひきこもりの子どもを持つ家族たちの集まりでも、「来年でもう10年間。正直言って私、耐えきれない」「親はいつか死ぬ。ひとりぼっちになったらどうするのだろう」「信じて動き出すのを待つと分かっていても、やはり心配」といった声が上がる。
そうした中、当事者としての経験をベースに、「生き難さコンシェルジュ」として数多くの当事者・家族などのサポート活動をしているのが、大橋史信さん(40)だ。コロナ禍の今は、オンラインで当事者の相談に乗る。
「なぜ生まれてきて、生きていくかのような、ある意味で哲学的に自分の生きづらさを見つめて、語れるようになっていった。もう一つは、親を許すということ。憎んでいた人、責めていた人たちをいかに許せるかどうかというところが大きいと思う。そして、第三者の“人薬(ひとぐすり)”。やはり社会に戻るためには、人の力を借りなければいけない。私も同じような生きづらさを抱えていた仲間たちや他の親たちに助けてもらった」。
自らについて、「家族との確執。ワーキングプア。いじめ・不登校。発達障害。ひきこもり。“生きづらさ5冠王”だ」と表現する大橋さん。だからこそ、「まず困りごとを聞いて、その人に必要なものはなんなのかということを考えて、オーダーメイドで形にしていく」。“コンシェルジュ”を名乗るゆえんだ。
取材中、大橋さんが相談を受けたのは、およそ3年に及ぶひきこもり生活から脱却したいと話す男性(40)。家族間のトラブルから就職時に必要な保証人を立てることができず、生活保護を受けながら一人暮らしをしているという。また、他人とうまくコミュニケーションを取ることができず、「何を言っているか分からないなどと言われてしまう」と苦しい胸の内を明かす。大橋さんは「例えば週1回で、ちょっとお手伝いというか、話し相手をしてもいいよという人がいたとしたら、繋がってみたいと思う?」と提案。男性は「思う」と答えていた。
また、別の相談者から「当事者たちが安心して集まれる居場所を作りたい」と相談されると、地域の社会福祉に取り組む団体などの情報を提供。さらに行政機関への相談の際には付き添うなど、困りごとの背景に個別に迫り、根本的な解決を目指す。
冒頭に紹介した、母親たちを集めた定期的な座談会も、大橋さんのサポートの一つだ。ある母親が「息子が壁にぶつかった時、“大丈夫、大丈夫”と言い続けていた。でも、“母さんが大丈夫って言っていたからここまできたけど、大丈夫じゃなかった”と言われたので、もう言えなくなってしまった」と吐露すると、大橋さんは「その“大丈夫”という言葉は、お題目で言っていただけ。本当に向き合っていなかったと思う」と、一見厳しい言葉も。
それでも母親からは「大橋さんの一言って、場合によってはすごく突き刺さる。でも、よく考えるとものすごくありがたい」「うちでは元気をもらえる“大橋ジュース”って呼んでいる」と話す。
ひきこもりの当事者、井上さん(30)は、普段は散歩や買い物以外、自室でパソコンや読書をするなどして過ごしているという。他人はもちろん、母とは日常的な会話程度、父親とは過去に口論をして以来、ほとんど会話はないという。
「やはり人とのコミュニケーション、人と関わることがハードルになっている。会話のノリについていって、最後は話にオチをつけなきゃとか、細かいルールを気にしてしまって、会話が結局うまくいかなくなる。相手に迷惑をかけてしまった、などと後悔して、苦しんでしまう。両親に対しては、僕の気持ちを理解してもらえていないんじゃないか、というわだかまりもある。ただ、それでお互いに苦しんでいるとも思うので、不満をぶつけようとは思っていない。経済的に支えてもらっているということについては感謝の気持ちはあるし、本当にいろんな感情がある」。
今回、大橋さんの紹介もあり、番組へのリモート生出演を承諾してくれた。「支援を受けて状況が変わり始めているし、今の状況を整理したいという気持ちが出てきた。自分を振り返るいい経験になったし、思っていたよりも会話ができている感じはします(笑)。今までは考えたこともなかったが、僕の経験を基に、ほかの方をサポートすることもできるかもしれないと思いました」。
大橋さんも、両親については複雑な思いがあるようだ。「父が今年4月に亡くなった。まさに“8050問題”の予備軍だったが、父とのわだかまりが解消できないままだったので、今も葛藤はある。母に対しても、やはりその分だけ強く求めてしまったり、ぶつかり合ったりしたこともあったが、やはり“申し訳ない。親も親で辛いだろうな”とという気持ちもある。親と子どもの悩みは違うので、傷付けあってしまうところがあるが、親だからこそ、家族だからこそ、いつか分かり合える部分もあるかなと考えている」。
その上で、改めて「本人からすれば、命を守るためにひきこもることを選択しているという部分がある。だからこそ、社会に引き出されるのが辛いと感じることもある。一方で、人と繋がりたい、もう一度やり直したいという気持ちもどこかに持っている。その意味では、ある程度のプレッシャーも必要だが、“さじ加減”や本人の意志、“問題を問題にしない”という環境をどう作れるかが大事だ。周りが辛いことを愚痴ったり相談したりして対応方法を学び、こういうふうにやってみよう、ああしてみようとやっていくと、きっといいきっかけが見つかると思う。そして、ひきこもりは、いわば”見た目問題”でもある。本人や家族が周りの目を非常に気にして、自分自身を責めてしまう。でも、それだけはしないでほしい」と訴えた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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