この記事の写真をみる(7枚)

 『勝手にふるえてろ』の“原作=綿矢りさ×監督・脚本=大九明子”のゴールデンコンビで贈る映画『私をくいとめて』が12月18日より全国公開。脳内に相談役「A」を持つ、31歳おひとりさま・みつ子が、年下営業マン・多田くんと出会い、久しぶりに訪れた恋に戸惑いながらも一歩踏み出していく様を描く本作は、のん林遣都、臼田あさ美、橋本愛片桐はいりなど、多くの個性派俳優たちが出演することでも話題。しかし、その中でも、異質な存在感を発揮している若手俳優がいる。それは主人公・みつ子(のん)のクセの強い同僚・カーターを演じた俳優・若林拓也だ。

 若林はアメリカ・カリフォルニア州出身の23歳で、多くの人気俳優を輩出してきたファッション誌「MEN'S NON-NO」の専属モデル。2019年にTBS系で放送されたドラマ「初めて恋をした日に読む話」や、ABEMAで配信中のリアリティ番組「恋愛ドラマな恋がしたい~Kiss On The Bed~」(以下、「ドラ恋」)に出演するなど活躍の幅を演技にも広げており、同作で映画デビューを果たした。初の映画の現場で若林はどのように役に挑み、何を感じたのか。

“異質感”を意識したカーターの役作り

拡大する

 若林が演じたカーターは、ルックスの良さから入社当時は女子社員に人気があったものの、個性的な性格とファッションでいつの間にか煙たがられるようになったという一癖も二癖もあるキャラクター。俺様気質なところがあり、みつ子のイケメン好きの先輩・ノゾミさん(臼田)を振り回しまくる。「ドラ恋」では、同年代の俳優たちとの共同生活のなかでコミュニケーションが円滑に行くよう気遣いを見せ、ムードメイカーのような振る舞いを見せていた若林からすると、真逆のイメージだ。

 なぜ若林にカーター役が? 今回の抜擢の理由について、「自分は結構何でも着こなせるので、あの奇抜な服装も着こなせるのと思われたのかも(笑)。モデルをやっていたのが活きたのかもしれません。(カーター特有の)存在感を出せると思っていただけのか」と、リップサービスを交えて想像。

 しかし、彼の自画自賛風コメントもあながちジョークにならない。カーターの衣装は派手なシャツにスカーフ、柄on柄は当たり前、しかもその柄もみかんに飛行機とかなり個性的で、実際自然に着こなせる人はなかなかいないだろう。普段からモデルとして様々な衣装に袖を通してきた若林も本作の衣装合わせにはテンションが上がったそうで、「たくさん面白い服があって、派手ですねーって(笑)。いろいろ試して楽しかったです。みかんみたいな柄の服もありましたけど、海外のハイブランドらしいです」と笑顔を見せる。

 衣装に助けられる部分もあったが、役作りは、若林いわく「ぴょんぴょんした感じ」の歩き方から入った。話し方もカッコつけて、作品の中での“異質感”を意識。

「自分に自信ある感じだけど、周りから見たら違うんだよな…というような人。浮いていていい。歩き方も、他の人からも、作品からも。それがカーター。でも、その全ての言動がカーターの中では正解なんです」

拡大する

 ここまで聞くとかなり我の強そうなカーターだが、「心を許した相手には甘えん坊」という裏設定も考えた。そこが観客から観ても憎みきれないカーターの愛らしさに繋がってくる。

 「表面上、自分の世界観を“これが自分なんだぞ!”と気を張っている人ほど、家族や好きな人といるときは全然違う。めちゃくちゃ女々しくて甘えん坊なんだろうと想像していました。後半でノゾミさんに心を許すシーンも、あっさりとした素直な感じを出して、登場シーンからのギャップを意識しました。そうすることで、彼のバックボーンみたいなのが生まれたらいいなと」

 なお、カーターが外に降る雪を見て「ホワイトスノー」と言いながらオフィスに入ってくるシーンがあるが、撮影当日に生まれたセリフとのこと。「あの日はたまたま雪が降って『雪が降ってたらカーターなんか言うよね』って監督がおっしゃって」。そこで出たカーターらしさを体現した一言だ。帰国子女で英語が堪能な若林だが、自身はふいに英語が出ることはないといい、「かっこつけて『ある』と言いたいんですけど、最近はないです。海外にいたときは、親からも『寝言英語で言ってたよ』って言われてたんですけど。最近は日本語、日本人です(笑)」と苦笑。ハイスペックながらに嫌味のない、本人自体は親しみやすさを感じさせてくれるキャラクターだ。

事務所の先輩・菅田将暉の「ロングホープフィリア」が勝負曲

拡大する

 初の映画出演には当然プレッシャーや緊張もあった。勝負の日には、憧れの事務所の先輩・菅田将暉の「ロングホープフィリア」を聞くのがルーティンで、もちろん同作のクランクイン前にも聞いていたという。

「聞いたらめちゃくちゃ勇気出るんです。『ドラ恋』のオーディションの前も聞いていましたし、この映画の初日の前も車の中で聞いてました。勇気が出るというか、どうにでもなれ!と行動するパワーが湧きます。(本人に伝えたかと問われ)まだ本人には言ってないです。いつか言いたいです(笑)」

「欲を言えばもっと現場に居たかった」自身の原点となる映画『私をくいとめて』への想い

拡大する

 劇中では邪険に扱っていたのんだが、実際のイメージは「いい意味で独特な世界観を持った方。自分のテンポを持っている方で『女優さんだなあ』と思いました。素敵でした」とのこと。

 現場で人知れず驚いたのは、共演シーンの多い臼田の目力の強さで、「お芝居をしているときって、ちゃんと相手に集中しないとなりたたないんですけど、臼田さんはすごい目の奥を見てくる。目力が、つながってる感じが凄くて、緊張しました。カーターがノゾミさんに負けてはいけないので頑張りました」と女優パワーに圧倒されつつも踏ん張った。

 林遣都の現場での佇まいについても「劇中はお茶目な感じですけど、オフの時はすんとクールな感じなんです。でも、カメラ回ったらぱあっと無邪気な感じになってすごいと思いました」と、その切り替えに驚き。「林さんのお芝居すごく好きで、ふいに溢れる笑いとか、食事シーンのもぐもぐしてる感じとか、本当に日常を生きているかのようで、そういう細かいところが自然にできていてすごい。あと、笑う顔がやっぱりかわいいなと思いました」と、その細部にまで宿る演技力に感動していた。

 最後に若林は、「僕にとって初めての映画出演作が『私をくいとめて』というのは今後一生変わらない。もっとお仕事をさせてもらえたとして、振り返れる原点になる作品です。欲を言えばもっと現場に居たかった、もっと居させてーって!(笑)スピンオフでドラマ作って貰いたいくらい愛着が湧く作品でした。楽しかった。本当に名だたる俳優さんの中でお芝居させていただけたのは貴重な経験でしたし、これからもっと頑張ろうと思いました」と同作への出演を感謝。さらなる飛躍を誓っていた。

拡大する
拡大する

『私をくいとめて』12月18日(金)全国公開

原作:綿矢りさ「私をくいとめて」(朝日文庫/朝日新聞出版刊)

監督・脚本:大九明子 音楽:髙野正樹

劇中歌 大滝詠一「君は天然色」(THE NIAGARA ENTERPRISES.)

出演:のん 林遣都 臼田あさ美 若林拓也 前野朋哉 山田真歩 片桐はいり/橋本愛

製作幹事・配給:日活 制作プロダクション:RIKIプロジェクト 企画協力:猿と蛇 

スタイリスト:入山浩章

ヘアメイク:佐鳥麻子

衣装協力

wonderland FILL THE BILL Pigsty 渋谷神宮前店 CONVERSE

テキスト:堤茜子

写真:You Ishii

(c)2020『私をくいとめて』製作委員会

恋愛ドラマな恋がしたい~Kiss On The Bed~ - 本編
恋愛ドラマな恋がしたい~Kiss On The Bed~ - 本編
この記事の写真をみる(7枚)