TVアニメを制作現場の舞台裏を紹介して、アニメの“今”を発信する情報プログラム『情報最前線!アニメンタリー!』。そのMCを担当するのは、声優として、TVアニメ『体操ザムライ』の荒垣城太郎役など、あらゆる作品で活躍する浪川大輔だ。長年、声優として活躍する浪川だからこそ知る、舞台裏とはどんなものか、また声優の役割とは。声優を目指す若者に向けては、厳しくも温かいメッセージを送った。
2番でも3番でも役はひとつしかない 1番になる方法を常に考えておいてほしい
――アニメ業界における声優さんの役割という意味で、とても幅広いことが求められている現状をどう思っていますか?
浪川:どの道も正解だなと思います。「声優」はもともと職人のような扱いをされている一面があると思うんですけど、さらに他の面では、バラエティや歌、イベントなどのステージだったり、いろいろな活動の場があるんです。ただ、それらは、もともとの職人気質の「声優」というところから派生しているものではあると思うんです。
歌やイベントって、アニメやキャラクターありきのものであることが多いので、どこを活躍の場に選ぶのも自由だし、喜んでくれる方がいるのであれば、一生懸命やるべきだと思いますけど、どこに特化しても、お芝居は絶対にマスターしないといけないものなのかなとは思います。それがあれば、何をしてもいいというか。
だから、お芝居をせずに瞬発力だけで物事を進めていくのならば、それは「声優」ではないのかなと。タレントさんやモデルさんやミュージシャンなど、お芝居以外のところで輝いている方はたくさんいらっしゃるので、その人たちには勝てないのではないかと思います。中には対等にできる人もいますけど、「声優」と名乗るのであれば、お芝居をしてからというのが、基本路線だと思います。これは古い考え方なのかもしれないけど、そのほうが息の長い声優になれると思っています。
――自分に求められているものが、ここ数年明らかに広がってきているとは感じていますか?
浪川:それはとても感じています。僕より20歳も上の方がバンドを組んだりしているのを見てきましたけど、やっぱりその頃とはコンテンツ量が全然違いますし、昔が良い悪いではなく、今の技術と共に時代が変わってきているのだから、僕たちも変わっていかなければいけないなと。だから僕が今回この番組でMCをやらせていただくのも、そういうことだと思います。本来は司会者という方がいらっしゃって、その方々には勝てないとは思うので、僕がやるのであれば、「声優」を通しての自分らしさを出せればいいのではないかと思っています。
――浪川さんは、芸能という世界で長く活躍していますが、もともとマルチに活動することが好きだったのですか?それとも自ずと広がっていったのですか?
浪川:もともと子役で劇団出身なのでお芝居しかやっていなかったですし、お仕事でCMの歌を歌ったりはしましたけど、基本的にはこんなふうになるとは思っていなかったです。やらなければいけない、やったほうが道が広がったり、自分の思いが伝えられるのであればやるという感じでした。
今回の番組も、アニメが好きで、作品のために何かできないのか、自分は知っていることなのに、それが何で多くの人に伝わらないんだろうとか、そういう事を考えている中で、ABEMAさんやアニプレックスさんの協力を得て実現したことなんです。
――作品のために、「声優」としてできることをやってきた結果、やれることが広がっていったのですね。
浪川:そうです。別に僕がMCをやらなくても、こうやってアニメ監督のお話を聞けるような番組があったらいいのにな、と思っていましたし。
必要なのは人間力「お芝居が上手なだけでは続かない」
――では、これから声優を目指すような人たちに向けての話になるんですけど……。
浪川:偉そうに、いろいろ言っちゃいます(笑)?
――今、活躍をされている浪川さんだからこそ、声優の楽しさはもちろん、厳しさという部分も教えていただければと思いまして。声優になれたとしても役をもらうためのオーディションがあり、それになかなか受からないという話は、よく聞きますし、厳しい世界だというのはわかるのですが。
浪川:たしかにオーディションにはなかなか受からないですね。ただ逆に言えば、オーディションって、実力があれば受かるわけではないんですよ。それこそスポーツでも何でもそうで、周りがどんな環境なのか、あとは運も大きく関わってきますよね。だからそういう意味で、チャンスが平等なのが声優のいいところだと思うので、そこで勝負ができることをうれしいと思わないといけないのかなと思います。
そこで負けたとしても、自分の力が及ばなかっただけで、それは僕もそうですから。どのレベルの人も対等に見てもらえて、誰にでもチャンスがあるということは、とても素敵なことだと思います。もちろん厳しい世界ですけど、これが対等でない、封建的な世界だったら上の人が落ちてこなければ、努力しても誰も上がれないわけですから。だから、チャンスがたくさん広がっている世界なのかなとも思います。
――となると、若者がやるべきものは芝居の勉強なのですか?
浪川:そこは難しくて、僕も養成所でよく言うんですけど、大事なのは人間力だと思います。芝居は大事だし、芝居が圧倒的に上手ければ使われると思いますけど、作品って、みんなが関わっているものなので、お芝居が上手なだけではたぶん続かないんですよ。
周りの環境に柔軟に対応する臨機応変さと自分を捨てるプライドみたいなものがあると、たぶん頑張れるし、チャンスは広がっていくと思います。僕自身はそうやってきたつもりなので。
――お芝居が好きなことがベースにありつつも、人間力がむしろ大事なんですね。
浪川:「芝居が上手くなりたいんですけど、どうやって上手くなればいいんですか?」と聞かれることがあります。でもそうじゃないんです。まずは、今この瞬間から、目の前にあるものをどうやって捉えるかというところからスタートなんだと思います。
やっぱりお芝居が上手で深い人って、話していてもそこの捉え方が全然違うんですよね。だから質問が違うと思うし、もっと売れたいとか、仕事がほしいと思うのであれば、そこから改善しなければいけないと思います。
――養成所のお話もありましたが、今、声優を目指す若者は増えているのですか?
浪川:子供の人数は減っていると思うんですけど、それでも昔に比べれば多いなと思います。それは漫画家さんを目指す人とかもそうですよね。昔はサブカル的だったものがそうではなくなってきている感じはします。
――では、もっと若い世代に向けて、メッセージを送るとしたら、どんな言葉になりますか?
浪川:これから出てくる子たちが支えていく時代というのは必ず来ます。時間はどう足掻いたって過ぎていきますから。その時代になったとき、どこにポジションがあるか。自分が今思っているところに自分がちゃんといられるのか、ということは常に想像して、自分の時代が来たときに一番でいられるかを考えていてほしいです。
2番でも3番でも役はひとつしかないので、必ず1人しか選ばれないんです。だから、1番になる方法を常に考えておいてほしいと思います。2番手でいいやと思っている人は、たぶん一生自分の描くポジションにはいられないと思います。
――自分がどうやったら1番になるかを考える。……すごく深いです。
浪川:これは僕の同世代もみんな言っていますから、1番でなければ意味がないと。
――みなさん、インタビューにはいつも優しく応えてくださりますけど、心の中は……。
浪川:みんなふつふつとしていますよ。あとはだいたいみんな変わってます(笑)。
――負けず嫌いな方も多いですよね。
浪川:そうそう。負けず嫌い!そこです!
――世界中が大変な状況に陥った2020年でしたが、浪川さんにとっては、どんな1年でしたか?
浪川:もちろんみんな大変でしたけど、声優としても大変で考えさせられた1年でした。でも、これを逆手に取らなければいけないとか、プラスに変えていかなければいけないと考えていました。それがエンタメだと思うし、エンタメの力強さだと思うので。
――何かをプラスに動かしてくれますからね。
浪川:でも、最初に削られるのがエンタメで、「Go to 劇場」とかもないと思うんですよ。だから、心だけは豊かでないといろいろなことに影響が及んでしまうと思うので、この状況をいかにプラスに変えていくのかを、ずっと考えていました。本当に、十数年ぶりに時間ができたので。
でも、これを若い子に言うと、「いつも忙しくて、時間がたまたまできたからそういう事を考えられるんですよ」とか言うんです。でも僕も若い頃、暇な時間が長くありましたからね(笑)。そのときはずっと、どうすればいいのかを考えていましたから。
――どんなことを考えていたのですか?
浪川:嫉妬をしても役は取れないということですね。嫉妬がエネルギーになるのならいいけど、そうでないのなら、何かのせいにしてもプラスにはならないと学んだので、今回もコロナのせいでできないではなく、だからこそ何ができるかを考えないと次はないのかなとは思いました。だから今も僕は動き続けています。