■アニメ『体操ザムライ』“師弟リレーインタビュー”第1回/荒垣城太郎役・浪川大輔
子役時代にアメリカのテレビドラマの吹き替えで声優デビューし、今も声優業界の前線で活躍し続ける浪川大輔。誰もが知るアニメ『ルパン三世』シリーズでは2011年より石川五ェ門役を演じ、2020年も多くの作品に出演。『ユーリ!!! on ICE』『ゾンビランドサガ』を手掛けたMAPPAが制作するオリジナルTVアニメーション最新作『体操ザムライ』では、主人公・荒垣城太郎を演じ、話題を集めている。
浪川演じる荒垣城太郎は、体操に人生を注いできた元オリンピック銀メダリストの体操選手だが、肩の不調により、思うように演技ができなくなっていく。一方、学生時代はハンドボールに熱中し、車椅子生活を送るほどの怪我も経験した浪川。
今回「ABEMA TIMES」では、荒垣城太郎役・浪川大輔と天草紀之コーチ役・堀内賢雄の“師弟リレーインタビュー”が実現。全4回にわたって、お届けする。
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――『体操ザムライ』第1話の放送後、オープニング曲「上海ハニー」(※)がネットを中心に話題になりました。反響について、浪川さんご自身はどのように捉えていますか。
浪川:アニメの舞台が2002年なので、時代背景から「上海ハニー」が選ばれたのだと思います。反響は僕たちもけっこう予想外で。僕もよく聴いていた曲でしたし、大好きな曲を歌わせてもらえるのはありがたかったです。やっぱりいい曲っていうのは、いつの時代に聴いても心に残りますね。第1話のときは最後に流れる演出で、オープニングとしても勢いのある曲ですし、歌わせていただけてうれしいです。
(※)荒垣城太郎(CV.浪川大輔)、レオナルド(CV.小野賢章)、南野鉄男(CV.梶 裕貴)らが歌う『体操ザムライ』オープニングテーマ。2003年7月16日に発売されたORANGE RANGEによる同名楽曲のカバー。
【映像】アニメ『体操ザムライ』第1話「上海ハニー」を見る(21分ごろ~)
――『体操ザムライ』では主人公・荒垣城太郎を演じられています。城太郎はどのようなキャラクターですか。
浪川:オリジナル作品だったので、どのようなキャラクターになっていくのか、最初は分からなかったんです。オーディションのときから「城太郎はちょっと天然なんだな」というのは、なんとなく感じていました(笑)。やっぱり城太郎にはどこか「しっかりしない感じ」があって、演出でもそのあたりを意識してほしいというお話がありました。
でも“天然”を意識してやるのはものすごく難しいんです。なので、最初のうちは「これぐらいの軽さなのかな?」と、いろいろ考えながらやっていました。演じているうちにだんだん「何も考えずに(役作りが)できてきたな」となって、そこで初めてOKが出やすくなった気がします。実は、第1話は録り直しているんですよ。
――後ろの話を録ったあとに再度第1話を録った、ということですか?
浪川:いろいろやって、監督が「城太郎になりました」と言ってくれたのが第2話だったんです。第3話を録るときに合わせて、また第1話を録ったんです。もちろん最初に撮ったものにもOKは出ていましたが「より精度を高めるために監督の思い通りにやります」と決めました。
アニメの最後の方は本当に自然と城太郎として話している感じです。レオナルド役の小野賢章君も他の取材で「(城太郎は)浪川さんのまんまです」と言ってくれて、僕自身もあんまり作ったり飾ったりしないように演じられたので、そういう意味でやりやすいキャラクターではありました。
――演じる中で気づいた城太郎のすごさはありますか?
浪川:城太郎は何がすごいかって、体操に対してはブレているようで、一切ブレてないんですよね。もちろん彼にとっては一人娘の玲ちゃんを中心に回っていますが、好きなものに一生懸命まっすぐ取り組むことって、できそうでできない。「自分には無理なんじゃないか」と思ってしまったり、何かマイナスなところがあったりすると、普通だったら「やっぱりやめとこうかな?」という気持ちになるじゃないですか。それを最後までやりきる力はすごい尊敬できます。ただ、城太郎はもうちょっと気が利くといいな(笑)。
――ちょっと鈍感なところも城太郎の魅力です。
浪川:いや、城太郎はどちらかいうと“ダメンズ”だと思います。今言ったこと以外は、ほぼ合格点に至っていない(笑)。父親としても。体操選手としては良いかもしれませんが、普通の会社員だったら、城太郎が部下にいても上司にいても心配ですよ。ただ「こいついい奴だな」って許せちゃう部分がある。城太郎は体操選手で本当に良かったと思います。
――アニメでは城太郎のコーチである天草紀之さんの苦労が見えますね。
浪川:天草コーチは城太郎のことをわかった上で言ってくれているのに、まずそこに気づかない。もう一度言われても「あれってそうだったんですか?」「そうでしたっけ?」みたいな反応で、「だから言ったじゃん」って思ってしまうんですよ。これが普通の会社員で仕事だったら、絶対相手はイラッとしますよ。
天草コーチは、厳しい意見を言ってくれるのが逆に優しいんです。怪我で無理させないようにもしてくれて、会社だったら超いい上司。自分の娘や若い子についていこうとする可愛さも含めて、とても魅力的なキャラクターです。ただ、ちょっと声が良すぎる(笑)。
――ギャル文字の話は笑いました。天草紀之コーチは堀内賢雄さんが演じられています。
浪川:『体操ザムライ』は、演じているキャストのみんなにキャラクターと似ている部分があるなと思うんです。でも、そう言うと、僕が城太郎と似てるってことになって、さっき言った言葉がとても重くのしかかってきますが……(笑)。
南野鉄男にしても演じている梶裕貴君のストイックさ、レオナルドを演じる小野賢章君も人にスッと寄り添う優しさがあって、そういう部分が似ていると思います。天草コーチも賢雄さんの優しさが入っていますし、ネタになりますがブリトニー役の小山力也さんも……(笑)。
――第5話ではNHK杯で鉄男が1位、城太郎は6位という結果でした。
浪川:これはしょうがないですよね。城太郎が自分を取り戻していく過程ですから。まだ復帰したばかりでしたし、1回現実を見た方がいいのかなって。引退しないと決めてから練習に励んでも、昔ほどの輝きは自分にはないと城太郎も分かっているんです。練習を重ねれば重ねるほど徐々に感覚や筋力が戻ってきて楽しいけれど、それは自分の中の世界だけであって、それを天草コーチもわかっている。だから、数字になって6位だと城太郎自身が知ったことは、すごくいいきっかけになったと思います。そこで心が折れないのも城太郎のすごさですね。
――諦めないという点では城太郎の才能はすごいです。城太郎が6位だと知って、天草コーチはどんな気持ちだったと思いますか。
浪川:天草コーチは「こんなもんだろう」という気持ちが、どこかにあったんじゃないかと思います。天草コーチから「新技の『アラガキ・マーク2』で行こう」って言われたときに初めて、前よりもっと輝く場所に誘(いざな)ってくれた感じはしました。
――アニメ序盤では、天草コーチが城太郎に引退を勧めるシーンがありました。
浪川:天草コーチの城太郎をなるべく傷つけない言い方には優しさを感じます。師としてそういうことを言うのは絶対つらいですよ。言われる方もしんどいけれど、言う方も絶対しんどいんです。
僕も声優の事務所を経営していて、やっぱり若い子の可能性を見極めていかないなきゃいけないのは、一番嫌な仕事です。これは賢雄さんもおっしゃっていました。頑張っているのは本当にわかっていて、僕の見る目がないのかもしれないですが、しんどいですよ。
――それがまた教える側と教えられる側の葛藤ですね。
浪川:教えると情が出てきてしまうんです。だから天草コーチも絶対そうだと思います。城太郎に対して情があるはず。なのに「引退しろ」と伝えるのは絶対つらいはずです。
――弟子側の気持ちも、師匠側の気持ちも両方ありますからね。
浪川:言う方も言われる方もグッとくるんです。実は僕もスポーツをやっていて、もともと選手になる予定でした代表に選ばれた直後、どうしようもない怪我をして、手術をしても戻らなかったんです。リハビリも1年半やって。体育の先生になろうかとも悩みました。それこそオリンピックの候補にもなる強化選手まで選ばれて。
本当に怪我の連続で、両足首を骨折したり、靭帯も切ったり、膝も壊して……みたいな感じで、車椅子で生活しているときもありました。
――そんな怪我が……! 当時も芸能活動はしていたと思いますが、アフレコはどのようにしていたのですか?
浪川:アフレコも当時は車椅子に座りながらやっていましたよ。偉そうにギタリストみたいに座りながら(笑)。
――後半にかけて堂島 潤(CV.石川界人)、錦織 茂(CV.小野大輔)、岡町 博(CV.河西健吾)、リュウ・リュウショウ(CV.神谷浩史)など、アニメ後半にかけて他の体操選手も登場してきました。
浪川:『体操ザムライ』のキャラクターは、登場回数が少なくてもみんなしっかりインパクトを残していくんです。神谷君に長ゼリフを言われたときは、こちらも「そうだよね」と思ってしまうような説得力がありました。声優さんの力をすごく感じる作品でもあります。ある意味、次から次へと話すキャラクターがみんな主役に見えるんです。
※続きは近日公開!
(C)「体操ザムライ」製作委員会