■アニメ『体操ザムライ』“師弟リレーインタビュー”第4回/天草紀之コーチ役・堀内賢雄
ブラッド・ピットをはじめ、チャーリー・シーンやベン・スティラーなど、洋画では数々のハリウッド俳優の吹き替えを担当しているベテラン声優・堀内賢雄。アニメやゲーム、ナレーターとして活躍し、優しく包み込むような安心感のあるその声にはファンも多い。声優としてのキャリアは「40年くらい」だといい、まさに業界になくてはならない存在だ。
『ユーリ!!! on ICE』『ゾンビランドサガ』を手掛けたMAPPAが制作するオリジナルTVアニメーション最新作『体操ザムライ』では、主人公・荒垣城太郎を指導するコーチ、天草紀之役を好演。声優事務所「ケンユウオフィス」の代表取締役であり、自らも若手に演技指導を手掛けている堀内だが、荒垣城太郎は「まるで浪川君の人生みたいなキャラクター」と語る。
全4回にわたってお届けした、荒垣城太郎役・浪川大輔と天草紀之コーチ役・堀内賢雄の“師弟リレーインタビュー”も今回がついに最後。堀内が語る「作品を壊さない役者」の在り方とは?
【映像】アニメ『体操ザムライ』第2話、城太郎(CV.浪川大輔)の土下座シーン ※17分ごろ~
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――ストーリーが進む上で、城太郎にも成長が見られました。
堀内:第一段階として、練習を頑張りすぎちゃう自分に気付いて、土下座して「もう一回お願いします」と天草に頼んだところから変わりましたね。技量的に他の選手に抜かれていても、城太郎には力がみなぎっていて、南野鉄男(CV.梶 裕貴)との戦いや、中国との合同合宿のときも「その技、簡単にやっちゃうんだ」って驚きました。城太郎も素直になっていろいろな人の意見を聞けるようになった。城太郎の成長していく姿はお芝居の中でも、何か芯ができてきたように感じました。
――主人公の城太郎を演じているのは、浪川大輔さんです。
堀内:浪川君とは、年齢は僕とだいぶ違うのですが、もともとよく一緒にご飯を食べたり、飲みに行っていた仲なんです。彼のことは子役時代から知っていますが、業界で“天才子役”って言われていたんですよ。
大人になってから会わなくなって「休んでたの?」と聞いたら、「子役から大人になってから仕事がなくなった」と言っていて、その後に再ブレークして。今はとても忙しく動き回っていますよね。だから、城太郎ととても似ているなって思いますよ。銀メダルを取ってから、ちょっとスランプのような時期があって、下から上がっていく。まるで浪川君の人生みたいなキャラクターです。
――天草コーチとして城太郎にアドバイスするシーンがありますが、浪川さんに堀内さんから何かアドバイスしたことはありますか?
堀内:彼が会社を立ち上げたときは、僕の方が10年くらい早いから「ここが大変だよ」「役者だけじゃなくなるよ」とアドバイスしました。役者脳と経営脳は全然違うものなんです。「大変なこともいっぱいあるよ」と伝えました。
――それを話したときの浪川さんの反応は?
堀内:彼は笑っていましたよ。そういう話はたくさんしましたね。芝居の話だけじゃなくて、人生の話もたくさん。僕の方が19歳上で、やっていることが似ている部分もあったから、いろいろ質問を受けました。
だから、浪川君がこの『体操ザムライ』のオーディションを受けると聞いて、僕は「受かって」と彼に言ったんです。「浪川が主人公なら、俺はコーチをやる可能性が高いよ」って。
――『体操ザムライ』を観ていると、勝ち負けや順位がつく世界は本当に大変そうです。
堀内:『体操ザムライ』を観ていると、アスリートの切なさを感じちゃうんですよ。競技で戦った上で、勝たなきゃいけない。勝たなければ評価されない世界だから。城太郎が「とにかく練習しなければうまくならない」とそればかり考えるシーンがありますが、それでどんどん身体を悪くしていきます。
役者のオーディションにもある意味同じようなことがあって、役者も人間ですから受かる受からないがあります。一生懸命「オーディションに受からなければ始まらない、バッターボックスに立たない」と、それだけ思ってしまうのは、もしかしたらナチュラルな状態ではなくなってきているのかなと思います。オーディションで、技量なんか見ないですよ。(役に)ハマるか、ハマらないか。そこでがんじがらめになって一生懸命やられても、あんまり伝わるものはない気がします。
――城太郎も練習ばかりして、悪循環になっていました。
堀内:僕も長く役者をやってきて思うのは、どれだけその場でナチュラルに芝居ができるかなんですよね。その瞬間だけうまくやろうと思っても、なかなかそうはいかないんです。ただ、頑張りが先に見えちゃうんでしょうね。それをうまい具合に力を抜いていって、役にハマるか、ハマらないか。
昔からある芸能文化もやっぱり間の取り方がすごいんです。勢いだけで来ない、出したら引くの調和がうまく取れている。オーディションもそういう美しさをうまく使っていくと、余裕が見えてきて、「この役者さん面白いな」「この人に何か与えたら面白くなるかも」というものは少しあるかもしれませんね。マイクの前では頑張りではなく、どれだけナチュラルに余裕を持ってお芝居できるかが勝負なんです。
――リアリティーのあるお芝居を作り出すのは、とても難しそうです。
堀内:僕も昔は先輩が怖かったから、かなり鍛えられました(笑)。若いときは「このキャラクターをもらったら笑わしてやろう!」といつも思ったんですよ。突拍子もない声を出して芝居をしたら、演出家に呼ばれて。「いいか、お前このレールの中でお前だけが出て行ったら、電車がそこにあってぶち当たって止るんだよ。作品を目立たせて少し出ていって、それで作品を壊さないのが役者なんだよ」と言われたんです。あくまでも作品になる。出しゃばらないこと。作品を壊さないで、キャラクターを残す大切さをしごかれました。
――それは今、堀内さんが若手に芝居を教えるときも意識しますか。
堀内:そう。「作品を壊さないでお芝居しましょうね」って。これがわからない人は「目立たないと残らない」と思ってしまうんです。でも、見ている人は絶対見ていますから。これは僕も約40年役者をやってきて学んだことですが、このあたりのことをわかっていると、息の長い役者になると思いますよ。
――体操選手も役者もとてもシビアな職業だと思います。
堀内:ただひとつ言えるのは自分が選んだ道ですからね。どれも、決して楽な道はないと思います。周りは助けてくれるようで助けてくれないわけじゃないですか。自分がやるしかない。ただ『体操ザムライ』の城太郎に娘の玲ちゃんがいるように、何かがあることで、頑張れることもありますね。
――『体操ザムライ』の家族愛の描写には胸を打たれます。堀内さんが仕事をする上で支えになっているものについて教えてください。
堀内:結局演じるのは自分だから、自分がやらなきゃいけないんです。自分の事務所にもたくさん役者が所属していて、スタッフもいるから、あんまり変なところは見せられないなって思いますよ。やっぱり演者として一線でいなきゃいけない。口も回らないといけない。周りに「全然しゃべれてないよ賢雄さん」と言われるようになってきたら、それは自ずと引退しなければいけません。できるうちは、自分できっちりやります。
――最後にファンにメッセージをお願いします。
堀内:『体操ザムライ』はとにかく作品が面白いのと同時に、キャラクターも良い意味でのびのびしています。ビッグバード(CV.山口勝平)、ブリトニー(CV.小山力也)、僕もやりたかったです。でも「出すぎだよ!」って言われちゃうから(笑)。ブリトニーもビッグバードも面白いし、南野はクールだし、知世さんは美しいし、滝沢友樹(CV.吉野裕行)も、ガングロギャルのあゆ(CV.水樹奈々)も、中ノ森真彦(CV.平川大輔)コーチも……全部文句のつけようがない。僕は、浪川君のおかげでコーチさせていただいています。
ただの笑いだけではなく、それぞれの切ない思いをうまい具合に人間の愛でフォローしている作品です。城太郎の「引退しませぬ」から始まって、葛藤を経て、何かをつかむ最終回。ぜひご期待ください。
(C)「体操ザムライ」製作委員会