今月6日、歌手の倖田來未がデビュー日に、歌手生活20周年を記念したアリーナツアーの最終公演を終えた。新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、およそ半年間ステージに立つことがなかったという2020年。ツアー最終日の舞台となった代々木第一体育館では昼夜二部の公演を行い、ファン1万人を動員。初披露の新曲『I'm Lovin'』やブレイクのきっかけとなった『Butterfly』など全33曲を披露すると、ファンに向かい「最高の誕生日を迎えさせていただきました」と感謝を口にし、涙を流した。
その5日後に行ったインタビューの中で、初めて経験することになった長い自粛期間の日々が「音楽の新たな活力に変わった」と話した倖田。そんな彼女にとって、2020年はどのような一年だったのか改めて振り返ってもらった。
音楽に支えられてきた20年 今こそ「音楽の力で…」
まず気になったのは、アリーナツアーの最終公演で流した涙の意味だ。ファンに感謝を述べ、涙を流したあの瞬間、彼女の頭の中に浮かんでいたこと。さらに胸にこみ上げた思いについて、倖田は次のように振り返る。
「20周年というのもあったけど、コロナ禍ということでアリーナツアーをやっているミュージシャンがおらず、延期や中止の報告も受けながら基本的なルールの中で実施しました。私自身の20周年を振り返ってみると、辛いとき、落ち込んだ時に支えとなったものが音楽しかなかった。悲しいニュースが多く、気持ち的に落ち込んでしまっているときに、今こそ音楽の力でみんなを元気にできないかという思いが強かったんです」
新型コロナの感染拡大が高止まり、さらに拡大を見せるなか、倖田は会社にツアーの実施を志願。動員数の制約があるなかで、ライブを一日に2度、配信なども行いながら「どうにかエンターテインメントを止めないように」と訴えたという。
しかし、いざとなると気苦労の連続だった。一度ツアーを終えるごとに、およそ二週間後に報告される新型コロナの感染状況が気になり、気が休まることもなく「ドキドキしながら過ごしていました」という倖田は、少し間をおいて「自分の20周年はさておき、エンターテインメントの強さだったり、人の心を温かくする音楽というものだったりを成し遂げることができた。だから涙が止まらなかったんだと思います」と涙を流した心境を言葉にした。
ツアーを再開することは倖田にとって喜びでもあり、不安でもあった。家を空け、地方に出かけることに様々なリスクが伴うことは十分承知の上だった。そんなリスクと不安を乗り越える力をくれたのは、身近な人々の存在だった。
「もしかしたら自分が? という思いがある中で、家族をはじめ、子供の学校の保護者の皆さんが心から応援してくれた。『音楽と温かい人たちに恵まれている』と思うと、幸せでしかなかった。もう感無量でした」
また、自粛を強いられ、表現する機会を制限された一年だったが、失った物以上に得たものも多かった。例えば、8歳になる息子と一緒にテレビゲーム。そんな日常の時間さえ、振り返ってみると持つことも難しかった。ただ家族とベッタリの時間に喜びを見出す一方、「常にどこかで音楽を欲していました」と本音も。
「ふとレコーディングをしたいと思ったり、インスタライブを通じてファンの皆様に会いに行ったり。今月2枚のアルバムをリリースしているけど、すべて自宅でレコーディングしました」
YouTubeを始めたきっかけは、ファンと何かを共有する場を作りたかったから。常に音楽やファンとの接点を探りながら、さらなる進化や変化も望んだ。
「倖田來未をアップデートするためにボイストレーニングを遠隔で行ったり、今までやったことのないストレッチも」
倖田は自他ともに認める“大の筋トレ嫌い”で、ツアー本番前にストレッチをしたこともなかったという。国内外のアーティストに目を向ける時間ができたことで「内面が磨かれないと、人は尊敬されない」と思うようにもなった。「見た目も内面もアップデートしないといけないと感じた時間でした。コロナ禍で過ごした日々は、間違いなく倖田來未の音楽の新たな活力に変わりました」と前向きで力強い笑顔を見せた。
今年の漢字は「初」 挑戦の連続こそ“倖田來未”らしさ
未知の経験の連続だった2020年を、倖田は漢字一文字で「初」と表現する。
「初めて毎朝ストレッチをやり、初めてYouTubeでダンス動画を上げ、初めてのTikTokも…また初めてコロナという見えない敵と戦う中で、初めてライブのチケットが紙ではなく電子チケットに。半年間ツアーができなかったことで、初心を取り戻してツアーに臨むこともできた。そうそう、初めてやった息子とのゲームも(笑)」
「初めて」という一文字には、新しいことに挑戦し続けるという意味合いもある。20年という年月をトップアーティストとして駆け抜けた倖田來未のテーマは、まさに「挑戦」にあった。その間、ファンが抱く「キレイでカッコいい」倖田來未のイメージをプレッシャーに感じることはなかったのか。彼女に聞くと「プレッシャーだらけですよ」と即答だった。
「自分のためだけには頑張れない」「太りやすい体質」という倖田だが、日々の努力を惜しまず、強いこだわりを持ち続けた結果が20年という結果に表れている。
「子どもを産んだ時は17キロ太りました。でも、復帰2カ月後に倖田來未として『VIVI』さんの仕事が入っていたので痩せるしかなかった。私は、自分のためだけには頑張れないんです。パフォーマンスをするにあたり、ファンの皆様の『倖田來未はこうあるべき』という理想像に近づくために日々、努力を欠かしたくない。そりゃ、息子とゲームやっているときにうまい棒だって食べますよ。だから18時以降は食べない。夜中はスルメそうめんをひたすら食べ、炭酸水を飲んでおなかを膨らましたことだって…」
体型維持は見た目とフィーリング重視のため、体重計には乗らないというユニークなアプローチには驚いだが、「人は見られないと痩せない」という考えのもと、家の中でお腹を出したり、脚を出したりして緊張感を保つ。顔も、髪の毛を下ろしているとむくんでくるらしく、必ず後ろで縛って、フェイスラインを出すように意識するなど、小さなことの積み重ねを怠らない姿勢には頭が下がる。
そんな倖田は大晦日に「第4回ももいろ歌合戦~ニッポンの底力~史上最多アーティストと年越し8時間生放送」に出演する。今回のテーマである「ニッポンの底力」について「今回披露する『Killer monsteR』は一見すると攻めた楽曲である一方、目覚めろ本当の私、立ち上がらないといけないというメッセージなども込められている。日本全体が新型コロナという見えない敵と戦っている中で、一人が立ち上がれば、きっと周りも立ち上がる。逆に、一人が諦めたら、すべてが良くなくなるような気も。楽曲の派手さの中にあるメッセージ性を感じてもらえれば嬉しいですね」と意気込みを語る。
そして、倖田自身の2021年のテーマは「過去にはない未来へ」だ。
「今までのままでいいこと。今までのままだと負け組になってしまうこと。今の時代の流れに乗っていかないと、逆にファンの方々を置いていくことにもなる。ツアーはリアルが一番だけど、そういう思いを持ち続けながら、変化を持たせていきたい。新しい挑戦が、新しい倖田來未の魅力になる。そして、どんなときも今までどおり楽しみながら。やっぱり仕事が大好き。だから、倖田來未でいるって楽しいですね」