主人公たちを支える女性たちのドラマもより深く突き刺さる…森山未來×北村匠海×勝地涼出演の『アンダードッグ』はここがスゴイ
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 森山未來北村匠海勝地涼が演じる3人の男たちが、己のすべてを賭けてリングに上がる映画『アンダードッグ』。その配信版が、ABEMAプレミアムにて2021年1月1日から配信スタートする。

 劇場版は前後編合わせて約4時間半。配信版は各話約40分の全8話で構成されている。配信版には、劇場版に含まれていないエピソードも追加されており、ボクシングに打ち込む男たちのドラマを軸に、男たちを取り巻く周囲の人々の群像がよりディープに描かれる。そんな配信版『アンダードッグ』の見どころと魅力を徹底解説。注目したいのは、男たちを支える女たちの戦いだ。

 本作は、第88回アカデミー外国語映画賞の日本代表に選出されるなど、多数の映画賞を席巻した映画『百円の恋』の武正晴監督&脚本の足立紳らメインスタッフが約6年ぶりに集結し、再びボクシングを題材にした作品。一度掴みかけたチャンピオンの道からはずれ、どん底に落ちながらもボクシングにしがみつく主人公・末永晃を演じたのは、森山未來。晃の最大のライバルであり、ダークな雰囲気を滲ませる大村龍太には北村匠海が扮した。そして勝地涼が、二世タレントの芸人ボクサー・宮木瞬の明暗を繊細に表現した。

▶︎動画:アンダードッグ [R15+] 

配信版の注目ポイントは“女たちの戦い”

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 劇場版では晃・龍太・宮木にフォーカスを当てた不屈のドラマが展開。一方、配信版ではその3人の男が織りなす不屈のドラマの影で、人生という名のリングで戦う男女の物語にもピントを合わせる。

 より濃く描かれるのは、惰性で日々を消化する晃が送迎ドライバーを務めるデリヘル「秘密の迷宮」に出入りする面々の群像だ。晃とは腐れ縁の店長・木田(二ノ宮隆太郎)、その木田を支え、いつしか愛情を抱いていくベテランデリヘル嬢・兼子(熊谷真実)。そして晃とただならぬ仲になる、子連れデリヘル嬢の明美(瀧内公美)。中でも明美が抱える心境は劇場版以上に胸に迫る。

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 明美は幼い子供・美紅(新津ちせ)を育てるシングルマザー。美紅に適切な養育の場を与えずネグレクト気味なのは一目瞭然だが、心の隙間を埋めるように美紅に依存し執着する矛盾した複雑な感情も抱いている。送迎ドライバーとして明美に接する晃は、そんな彼女の陰りに惹かれていく。配信版では明美の揺れる心や母性、そして晃との関係性などがより強調された作りになっている。

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 荒井晴彦監督作『火口のふたり』で絶賛された瀧内が明美として表す、メンタルのブレは鬼気迫るものがある。口数の少ない晃同様に明美も無口だが、感情を失ったかのように社会の暗部を漂う人間のギリギリ感の迫真性は一見の価値あり。同時にダメ男を惹きつけてしまうような魔性的色香も匂い立たせる。デリヘル嬢という設定ゆえに体当たりシーンも多いが、瀧内の立ち振る舞いは堂々たるものだ。

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 明美を筆頭に『アンダードッグ』には印象的な女性キャラが多数登場する。陰りを抱いているのは、晃の別居中の妻・佳子も実は同じ。佳子と暮らす幼い一人息子は晃に“強いボクサー”としての幻想を抱き、再起に期待をかけている。佳子はそんな息子のいじらしさを見るのが辛いが、自分自身の中にも晃に一縷の望みをかけたい気持ちがあるのも完全には否定できない。晃はそんな二人の気持ちをよそに、アンダードッグ(負け犬)として底辺を彷徨い続ける。それが佳子にいら立ちと怒り、失望を覚えさせる。

 佳子を演じるのは、水川あさみ。本作の脚本家である足立が監督・脚本を務めた映画『喜劇 愛妻物語』で国内の映画賞での主演女優賞を総なめ中の、まさしく旬の女優だ。一足早く試写で『喜劇 愛妻物語』を観た武監督がその演技を絶賛し、佳子役に抜擢したという逸話もある。出演シーンはそこまで多くはないのだが、晃の宙ぶらりんさと人間としての弱さを照射する重要な役どころを、水川は重量感たっぷりに引き受けた。

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 過去に陰りを秘める天才ボクサーで、晃のライバルともなる龍太を献身的に支える妻・加奈の健気さも忘れがたい。身重ながらも龍太がプロテストを受ける会場で夫に熱視線を送ったり、晃との関係性を静かに見守ったり、決して前に出ることはないが養護施設時代から知る龍太の心の支柱になっていることは確かだ。加奈に扮した萩原みのりの慈愛のこもった目の演技は必見。

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 陰と陽を体現する芸人ボクサー・宮木が唯一心を開き、素の自分を見せることができる存在。それが同棲中の恋人・愛だろう。宮木は常に有名俳優である父の七光りと揶揄され、人を笑わせるのではなく人に笑われる底辺芸人だ。テレビではバカになり切るが、自宅では不満といら立ちを爆発させる。愛はそれを静かに受け止めながらも、ボクサーとしてリングに立つ宮木を支え、息子にあきれ果てた有名俳優である父に直談判し、試合を見てもらう。演じたのは、園子温監督作常連の冨手麻妙。園監督作とはまた違った表情を用いて、純真で強い女性を表現した。

 配信版では群像ドラマとしての見応えが増したからなのか、シンガーソングライターの石崎ひゅーいが映画のために書下ろした主題曲「Flowers」が一層胸に突き刺さる。男たちが繰り広げるボクシングという激闘ももちろん凄いが、その激闘の周辺で人生と格闘する女たちの悲喜交々もまた凄まじい。ABEMAプレミアムにて2021年1月1日から配信スタートする『アンダードッグ』は、配信版というよりも完全版と言い切りたい新鮮さと瑞々しさがある。

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テキスト:石井隼人

(c)2020「アンダードッグ」製作委員会

アンダードッグ [R15+]
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