森山未來、北村匠海、勝地涼が演じる3人の男たちが、己のすべてを賭けてリングに上がる『アンダードッグ』。その配信版が、ABEMAプレミアムにて絶賛配信中。中でも話題なのが、森山ら3人が扮したプロさながらのボクサー姿だ。3人は撮影前に徹底した肉体作りとボクシングトレーニングを敢行。試合場面からは芝居を超えた緊迫感と臨場感が溢れ出ており、ガチンコバトルの様相さえ呈している。1月3日の深夜にテレビ朝日で放送された「アベマの時間」では、メイキングドキュメンタリー『アンダードッグな男たち~3人の俳優がリングに上がるまでの365日~』を放送。リアルなファイトシーンがいかにして生れたのかがつまびらかにされた。
『アンダードッグ』は、多数の映画賞を席巻した映画『百円の恋』の武正晴監督&脚本の足立紳らメインスタッフが約6年ぶりに集結し、再びボクシングに挑んだ注目作。ABEMAプレミアムでは、劇場版未公開シーンを含んだ全8話構成で配信している。
前半のクライマックスは、負け犬ボクサー・晃(森山)vs芸人ボクサー・宮木(勝地)の一戦。テレビ番組の企画でプロテストを受けた宮木とのエキシビジョンマッチ。晃は宮木に対して徹底的にパンチを浴びせる。パンチを繰り出すアクションにばかり注目しがちだが、本作のボクシング指導を担った松浦慎一郎は「殴るよりも殴られるリアクションの方が難しい」といい、当の森山も「タイミングや反応など、受け手の上手さによって、(攻撃する側の)パフォーマンスのクオリティーも変わる」と相手役の重要性を口にする。
その相手役となった勝地は、森山とは10代からの付き合い。撮影前から構築されていた信頼感によって生まれた阿吽の呼吸で受けの芝居に徹した。勝地は「僕を信頼して腹を殴りにきてくれた。言葉とはまた違った対話があった」と森山との深い絆があったからこそ表現できたリアルファイトだったと振り返る。その言葉を裏付けるように、会場を埋める観客役のエキストラからは自然と勝地演じる宮木への歓声が湧き上がっていた。
全8話のクライマックスは、晃vs新進気鋭のボクサー・龍太(北村)による因縁の対決だ。メイキングカメラは通路で黙々とシャドーボクシングをする森山の姿を捉える。そして華やかにリングに駆け上がった北村の引き締まった体。彼は役作りで約10キロの減量を実践したという。
運命の決戦の撮影場所は、ボクサーの聖地・後楽園ホール。撮影前に行われる動作を確認する段取りでは、北村のパンチが森山の顔面をとらえたかのように見せる一幕もあり、会場を埋め尽くしたエキストラからはどよめきも起こった。
試合場面では、流れを止めないような撮影スタイルを採用。ゆえに俳優陣はひたすらパンチを繰り出さなければいけない。必然的に体力も消耗するし、撮影時間が進行するにつれて、役者たちから芝居という虚構が徐々にそぎ落とされていく。製作陣はそこから発露されるリアリティを狙ったという。
ボクシング指導の松浦は殺陣にもリアルを反映させた。「攻めた手を作ることができた。アドリブもその手順の間に作ったりして、役者にゆだねた部分もあります。それが試合場面の緊張感に繋がった」とギリギリの攻防を明かす。
役者同士の試合場面は通常、パンチを実際には当てず、ふりにしていることが多い。しかし北村は、主演・森山との役者同士の密約を明かす。「ボディとショルダーは本当に当てていこうと。ラッシュとかも本気ですよね。『もう打つからな』と。その一言で僕も救われました」。本物を追求する俳優陣の熱量。2日間にわたる試合シーンの撮影というハードさ。拳にすべてをかけた晃と龍太の状況や心境がリンクしていった。攻防を繰り広げる二人の背中は本物のボクサーそのものだ。
初共演の北村について森山は「タイトなスケジュールで一緒に練習する時間が多かったとは言えないけれど、テンポ感はあっていました」と敵に不足なしの満足そうな表情。2日に渡る激闘を終えた二人の顔には痛々しい傷を模した特殊メイクが施されているが、両手を天高く掲げる森山と北村の目には充実感が宿っていた。
自然とスタンディングオベーションをする観客役のエキストラたち。まさに本物の試合のようだ。メガフォンを取った武正晴監督も「これだけハードなことをよく役者がやったと思う。それを観てほしい」と胸を張る。『アンダードッグ』のリアルなファイトシーンは、生まれるべくして生まれた。
テキスト:石井隼人
(c)2020「アンダードッグ」製作委員会