2021年1月15日(金)より全国公開される映画『越年 Lovers』。日本、台湾、マレーシアを舞台に、3組の男女が不器用ながらもそれぞれの純愛を紡ぎ出していく。その日本編に出演しているのが銀杏BOYZ・峯田和伸だ。
ミュージシャンが本軸にあるが、ドラマ『高嶺の花』、NHK大河ドラマ『いだてん』に朝ドラ『ひよっこ』など、テレビ画面で遭遇する機会も少なくない。今回の映画撮影が、地元・山形で行われたということを機に、彼の“上京物語”を中心に聞いた。
山形には「忘れ物を置いてきた感」がある
今回、僕が演じたのは初恋の相手に会うために、数十年ぶりに山形に帰郷した「寛一」っていう役なんですけど、事情は違えども、山形から東京に出てきて、そのまま暮らしてるっていうのは自分と似た部分がありますね。 どちらも「忘れ物を置いてきた感」がある感じで。
もともとは、千葉の大学を卒業してから山形に帰る約束をしてたんです。でもバンドをやり始めちゃって、勘当とはいかないまでも、かなり親と疎遠になったのを覚えてますね。向こうからしても、実家の電器屋を継ぐと思って学費を出してたわけだし。いまだにそれに応えられなかったのは心残りがありますよ。いまでは『カラダに気をつけて一生懸命やりなさいよ』って気を遣ってくれますけど。
「バンド」の道に進もうと決めたのは高校3年の1月のことでしたね。『自由登校』ってあるじゃないですか。進路決まって登校は自由にしていいっていう。そのときにグリーン・デイ(※アメリカのパンク・ロックバンド)の来日チケットが2枚取れたんで、斎藤正樹っていう同級生と2人で東京に行ったんですよ。で、西葛西の親戚のおばちゃんの家に2泊3日で泊まらせてもらって、初日はレコード屋めぐりをして、2日目は晴海でグリーン・デイのライブを観て汗ビチョビチョになって帰って。
で、そしたらおばちゃんから『あんたら銭湯で行ってきな』ってお金渡されて、銭湯帰りにアイス買って公園で食べてたんですよ。真冬なのに。その後ブランコで遊んでるときですかね、ふと正樹に『バンドやるわ』ってカミングアウトしたんです。それまで他の誰にも言ったことなかった。グリーン・デイを見て確固たるものになったんですよね。
正樹はなんて返してくれるかなと思ったら、「すげーな。じゃあ俺、マネージャーやるわ」って言ったんで「ええっ!」となりました。実際その後マネージャーをしてくれて……だから僕の進路、運命は西葛西の公園で決まったんです。
「……」も心地よい 橋本マナミとの共演
映画のシーンで、雪道をゆっくり運転しているとき、「山形人だっぺ」と急かされてましたけど、おそらく自分もスピード出せないですね。もう、人生で東京で暮らしている時間の方が長くなりましたし。たまに聞かれるんですよ。「山形出身でしょ。美味しいお店どこ?」って。聞かれても答えらんないし、全然わかんない。
山形のローカルルールですか?なんだろう……思い返すと、みんなラーメンばっか食ってましたね(笑)。こっちの人って、家にお客さんが来るときの出前って「寿司」が多いじゃないですか。山形はみんなラーメン。実家の電器屋でバイトしてるときも、休憩はずっと出前でラーメン取ってた。前に『ケンミンショー』でもやってましたよ、山形はラーメン消費量1位だって。寒いから暖まれるように食べるんでしょうね。
今回、同じ山形出身の橋本(マナミ)さんと共演したんですけど、カメラが回ってないところでも本当に話しやすかったですね。女の人とデートするとき、カフェとかで会話が止まって「……」と沈黙する時間ってありません?それが心地良いときもあるし、やばい空気のときもあるけど、橋本さんとの撮影中は前者の方。相性とか、山形の空気感に安心できたんですかね。
タイミングもあるが……ドラマや映画に出る本当の理由
よく、役者をなぜやってるかって聞かれるんですけど、お金じゃないんですよ。正直、すごくもらえるわけでもないし(笑)。ほんと、タイミングとしか言えないですよね。レコーディングとかツアーの合間に、ひゅっと時間が空いたときに好きな監督からの話をいただくことがあって、それはもう運命的な出来事だなと思うんですよね。「よし、やってみよう」って気になる。
生活の割合のうち、98%は音楽だし、今後もそれは続いていくと思うんです。でも音楽だけだと、自分主体でやってるから、どこかバランスが悪くなってくるのも確かで。そんなときに役者としての仕事が入ると、監督に身を預けることによって、フラットに戻してくれる。結果として、音楽にも良い影響があるんですよね。
山形・仙台先行公開中 1/15(金)新宿バルト9ほか全国公開
(c)2020映画「越年」パートナーズ
テキスト:東田俊介
写真:You Ishii